自治体とマンション管理~非都市部ほど潜むリスクに備えよ(下)

千葉県袖ケ浦市議会議員
根本 駿輔

2020/8/31 自治体とマンション管理~非都市部ほど潜むリスクに備えよ(上)
2020/9/2 自治体とマンション管理~非都市部ほど潜むリスクに備えよ(中)
2020/9/4 自治体とマンション管理~非都市部ほど潜むリスクに備えよ(下)


都市部自治体だけの問題か

地方公共団体に新たに位置付けられた役割のうち、適正化推進計画の策定は任意である。これはマンションが基本的には都市圏に集中するものであり、自治体の事務体制も一様ではないことから企図された。

分譲マンション管理の問題、しかも適正化推進計画の策定は任意と聞いて、「うちはそれほど都市部の自治体ではなく、マンションも少ないから当面関係ない」と考える、自治体関係者の方も多いのではないだろうか。国交省住宅局長もマンション管理適正化法改正の国会審議において、任意である適正化推進計画の策定は「まずは、マンションが多く立地し、管理上の課題が顕在化している都市部の地方公共団体に先行的に、中心に行われるということを想定」していると答弁した。

しかし私は、マンション立地が決して多くない非都市部こそ、廃マンション化リスクが高いと考えている。高経年マンションが廃マンション化を最終的に回避する手段は「建て替え」か「解体・除却」である。技術の進歩により昔よりも長寿命化が進んでいるとはいえ、結局最後の出口はこの二つしかない。

建て替えを行うためには、当然所有者が費用を負担する必要がある。区分所有法で定められた「区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数」の同意を得た上で、建て替えに参加しない所有者の住戸については建て替え参加者側で買い取らなければならない。建て替え参加者にはかなりの負担が生じるのだが、建て替えの必要が生じるくらい高経年のマンションということは居住者の高齢化率も高くなり、金銭的に負担が難しくなる。ライフプランからいっても、現役を退いた高齢者にしてみればわざわざ建て替える必要性は低い。都市部なら建て替えして新築マンションを子どもへ残すことも考えられるが、非都市部で子どもも出て行ってしまっているような場合では、自分たちが死ぬまで持てばよいと考える高齢者は少なくないだろう。

加えて、これは明確なエビデンス(証拠)がない個人的な経験からの話になってしまうが、物件のコンセプトにもよるとはいえ非都市部のマンションは都市部のマンションに比べると安価であるため、住民の所得層も相対的に高くないことが多い。すると、なおさら建て替えに必要な金銭的負担に耐えられないケースが多くなるのではないかと考える。

先に書いたように、容積率を増加させることで増加分の売却により金銭的負担を抑える手法は、今後難易度が高くなっていく。その中でも、元々需要が低い非都市部は真っ先にその影響を受けるだろう。私は会社員時代に売買を中心に仲介業務に携わっていたこともあるが、郊外のマンションは都市部に比べて新築でも需要が少なく売る側も苦労しがちである。都市部のマンションについては、今後難しくなるとはいえ容積率を緩和しての建て替えにデベロッパーが参加することや、建て替えに参加しなかった所有者の分の住戸を販売する際にも容易に買い手がつくことが期待できるが、非都市部ではこうした期待があまり持てない。

もう一つの出口である「解体・除却」については、解体した後は通常売却等してしまうと考えられるので、建て替えに比べれば金銭的負担は少なくて済む。しかしこちらは、建て替え以上に住民合意をとることが困難であるというハードルがある。

建て替えと違い、解体や売却については元々区分所有法上の規定はなかった。区分所有法上の規定がないということは、民法第251条の「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない」という規定が適用されることとなり、区分所有者全員の同意が必要になるというかなり非現実的なルールに則らなければならなくなる。さすがにこれでは支障が大きいので、2014(平成26)年にマンションの建替え等の円滑化に関する法律(以下、「マンション建て替え円滑化法」という)が改正され、耐震性が不足していると認定されたマンションに限って建て替え同様に、区分所有者および議決権の各5分の4以上の多数の同意で売却ができるようになった。

今般のマンション管理適正化法の改正と同時に、このマンション建て替え円滑化法も改正され、耐震性不足に加えて①外壁の剥落等により危害を生ずるおそれがある②バリアフリー性能が確保されていない──場合も敷地売却制度の対象となった。だが、バリアフリー性能の条件はいいとしても、①のような管理がまともに行われなくなっている状況においては、相続等によりまともに意思確認ができない状況になっていたり、売却後の住宅が確保できない高齢者になっていたりする蓋然性が高く、5分の4に緩和されるとはいえ所有者合意を取っていくのは極めて困難だろう。

これについても、都市部であれば敷地自体の資産価値が高いため、不動産業者等が入って合意形成をサポートするビジネスモデルも期待できるが、非都市部ではやはり期待は薄い。価値の低い敷地では、管理組合の自力に頼るほかない。マンション管理適正化法の改正もありマンション管理士等専門家の派遣も考えられるが、非常に長期かつ労力の大きい話であることから、費用はそれなりに膨らまざるを得ない。財政基盤が強くない非都市部自治体にとって、支援しようにもその負担は厳しいのではないか。

この解体・除却という方法については、積立金で備えるという方法が現実的で有効ではないかと考えている。現在の分譲マンションの修繕積立金は、基本的に「建物を維持して使うための修繕」しか想定していないことがほとんどである。例えば定期借地権マンションでは明確に解体期日が決まっているため、解体積立金を予め所有者から徴収する方法が既に一般化している。通常の分譲マンションにおいても、修繕積立金と一体とするか別建てとするかは差し置き、解体を見据えた積立金が必要ではないか。行政としても、今後は少なくとも一定年数を経過しているマンションは、解体を見据えた計画をしているかチェックすべきだろう(本来は負担平準化と合意形成省略のため建築当初から解体積み立てを行うべきであると思うが)。

余談だが、皮肉なことに適正な管理をしていると敷地売却制度の適用条件のどれにも当てはまらなくなるため、かえって同制度を適用することができなくなってしまう。適正な管理を行って問題なく生活した上で、計画的に除却を進めようとすると全員合意が必要になってしまうのであり、ここでも制度の改善が必要であると思う。

さて、ここまで見てきたようにマンションの少ない非都市部自治体にとっても、今回のマンション管理適正化法改正は全く他人事ではなく、むしろ先行して対応を進めていた都市部自治体以上に危機感を持って当たらねばならない問題であると考える。国も各自治体に対して予算措置を講じてサポートすると明言しており、各自治体の担当者の皆さまにはぜひ積極的にマンション管理対策に取り組んでいただきたい。一マンション管理士として、適正なマンション管理がされた安心・安全で良好な街並みが守られることを願う。

(おわり)


プロフィール
根本 駿輔(ねもと・しゅんすけ)
千葉県袖ケ浦市議会議員
1985年生まれ。マンション管理士、宅地建物取引士。千葉県マンション管理士会連合会会員。学生時代に近隣の商業地衰退をきっかけにまちづくり・地方自治に興味を持ち、早稲田大学商学部を卒業後にマンションデベロッパーに就職。マンションの販売、仲介、管理などに携わる。2016年に退職後、現職に初当選。市民・地方議員・自治体職員の間の学びの媒介人を目指すNPO法人「6時の公共」の理事も務める。

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