地方自治体が目指すべきデジタル社会とは 東京一極集中の是正とデジタル社会形成の関係(後編2)

三重県スマート改革推進課長(令和3年3月時点) 横山啓
三重県創業支援・ICT推進課長(令和3年3月時点) 上松真也

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「デジタル社会」とは

昨今よく聞くようになったのが「デジタル社会」という言葉である。論者によってその定義が異なるものであるため本稿でその厳密性は議論しないが、地方にとっては何を目指すべきなのか。

各地方自治体において重要なことは、「デジタル的なものを取り入れていること」をことさらアピールすることではなく、誰でも理解できるビジョンを示し、住民一人ひとりにとってどのような変化があるのかを具体的に示すことである。

これまで、各地方自治体は地方創生に関する計画を策定してきたが、概ねその内容は、地域の魅力を高めることにより、住民はその地域に住み続けたいと思い、住民以外もその地域の魅力に惹かれ、移住したいと思う状況を目指すものである。

「デジタル社会」といっても、何かデジタルによりたちまち劇的な変化が生じるものではなく、基本的に目指すところは地方創生と同じであり、デジタルを活用し、より地方創生の理念を具体化し、アップデートすることこそが目的だ。

従って、先述した「誰もが住みたい場所に住み続けられる地域づくり」、これをデジタルにより実現することが、地方におけるデジタル社会形成の基本方針であると考えている。

 

三重県「デジタル社会推進局」の役割

三重県デジタル社会のビジョン
出典:三重県

 

三重県では、このようなデジタル社会形成を担う部相当の組織として、「デジタル社会推進局」を設置することを予定しているが、なぜこのような新組織が必要になるのだろうか。

新組織設置にあたり、重要なポイントは①知事直轄組織であること②複数部局に関わる業務や先進的案件を所管すること──の2点であると考えている。

1点目について、国におけるデジタル庁創設等の議論が活発になるにつれ、全国の地方自治体ではデジタル関係組織の設置が相次いでいるが、その内容はさまざまである。

首長以下、幹部が参画する会議体として「デジタル本部」を設けているもの、従来の「情報システム課」相当の組織をデジタル組織に衣替えするものなどがあるが、三重県では実行組織として独立したデジタル専門の組織(複数の課から成る部局レベルの組織)をつくる方向で検討されている。

幹部職員が参画する会議体は、概ねどの地方自治体にも存在するはずであるが、大きな方向性を議論する場であり開催時間も限られているため、庁内の変革を進める場合にはその実行組織の位置付けが極めて重要である。実行組織については、総務系や企画系の部局内に位置付けるのではなく、独立させ、かつ、首長直轄とすることで、庁内調整のスピードを上げることが可能となる。

次に、新組織の所管業務については、複数部局に関わる業務や先進的案件を所管する方向で検討されている。デジタル関係組織というと、ややもすると何でもデジタルに関係するものを所管させようとする流れにもなりかねない。

しかし、「スマート農業」や「中小企業のテレワーク支援」といった案件は、DXの一端を担っていることは間違いないが、既に定型業務化しており、各部局において自立的に取り組みを進めることが可能である。

一方、マイナンバー制度といった分野横断的なものや、先進的過ぎて引き取り手のない案件については、新組織において担当する方向で整理されている。

これは、例えば、未来の空の移動手段である「空飛ぶクルマ」のような、通常であればどの部局も引き取りたがらない「尖った」案件について、新組織において積極的に実証を行い、定型業務化した時点でいずれかの部局に移管するという流れをつくることを意図している。

デジタル社会形成は、トライアンドエラーの繰り返しである。この種の実証の繰り返しは、従来の行政の組織では対応が難しいと思われるが、「デジタル社会推進局」は、CDOの下、スピード感を持って未知の課題に挑戦していくことになる。

最後に

これまでの地方創生は、地方から東京へ人材が流出し、「東京VS46道府県」という構造で、どこか限られたパイを国内で奪い合う構造を呈してはいなかっただろうか。そうではなく、東京はより厳しく世界と戦う国際都市になり、地方は、人々が安心・安全に住み続けられる地域へと、それぞれ役割分担を明確にする時期ではないだろうか。

この役割分担の下、人々は、自分のライフスタイルやライフステージに応じて、東京と地方を行き来する生き方ができるようになる。例えば、世界と戦って自分の能力を試したり、多くのお金を稼いだりしたい20代には東京に住み、子育てや介護など家族との時間を大切にしたいと思う30代、40代には地方に移住、子育てが一段落して50代に再度世界と戦おうと東京に戻る、といった具合だ。

東京にいる人が勝ち組、地方にいる人は負け組というわけではなく、高度人材も東京に滞留することなく、日本中を循環することになる。自分のライフスタイルやライフステージに合わせて住む場所を変えていくため、東京でも地方でも高水準の幸福度を感じることができるようになる。

デジタル社会形成というのは、これまでの東京一極集中を是正しつつ、東京と地方の役割分担を見直し、皆が住みたい地域に住み続けることで、それぞれの幸福を実現するきっかけと捉えてはどうだろうか。

本当は生まれた地方に住み続けたいのに進学や就職のために地元を離れざるを得なかった人、家族との時間を大切にしたいのに東京で激務に耐え続けなければならない人、結婚や介護などをきっかけとした転居によりやりがいのある仕事を諦めなければならなかった人、このような人はたくさんいたことと思う。

アフターコロナの社会は、そうではなく、地方でも十分な教育と仕事の選択肢があり、自分のライフスタイルやライフステージに応じて東京と地方を行き来して、住む場所を自由に選ぶことができるようにすべきであり、デジタルを最大限活用し、「誰もが住みたい場所に住み続けられる地域づくり」という「真の地方創生」を目指す試みを、三重県から発信していきたい。

 

(おわり)


【プロフィール】

三重県スマート改革推進課長横山啓

横山 啓(よこやま・けい)
三重県スマート改革推進課長(令和3年3月時点)
2011年に総務省入省後、政府の情報システム改革、マイナンバー制度関連業務に従事。2020年4月から、三重県スマート改革推進課長として行政のDX、働き方改革などを担当し、三重県の変革の指揮を執る。

 

上松真也(うえまつ・しんや)三重県創業支援・ICT推進課長・上松真也
三重県創業支援・ICT推進課長(令和3年3月時点)
2011年に経済産業省に入省後、情報政策立案、米国ベンチャー支援企業勤務等を経験。2020年4月から、三重県創業支援・ICT推進課長としてベンチャー支援、空の移動革命等、地方発イノベーションの創出に取り組む。

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