山形県酒田市長 丸山至
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子
2022/04/18 民間事業者提案制度で地域に実益 ~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(1)~
2022/04/21 民間事業者提案制度で地域に実益 ~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(2)~
2022/04/25 まちの活性化へ、あらゆる方策を考える~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(3)~
2022/04/28 まちの活性化へ、あらゆる方策を考える~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(4)~
バランスの取れた制度にするために
小田 ここ10年ほどで、地方自治体の方から公民連携の話題が盛んに出るようになりました。それに合わせて連携協定の数も増えてきましたが、「住民への実益」という観点で捉えると、手応えのある結果に結び付いていないという声もよく聞きます。
そんな中、酒田市が一歩踏み込んだルールを作り、公民連携を試みていることは、多くの自治体の方にとって、とても参考になると思います。そこでお聞きしたいのが、制度をつくる過程についてです。庁内でどのように合意形成が行われたのか。職員の方たちがどんな部分で試行錯誤されたのか。この辺りはいかがでしたか?
丸山市長 私が市長になったときにまず行ったのが、市長公室の設置です。掲げた政策を素早く役所内部に浸透させるための行動部隊があるとよいと思い、組織づくりを行いました。私が市長公室と考えを共有すれば、そこから各部署や各担当にも伝わる仕組みになっています。
民間事業者提案制度についても、まず市長公室に投げ掛けて動いてもらいました。すると、間もなく「透明性の確保」が課題として浮かんできました。われわれとしては、やる気のある企業と随意契約することが理想です。
しかし「特定の企業と癒着があるのではないか」「何か手続きに不透明な部分があるのではないか」といった疑いを持たれることは、絶対に避けなければなりません。さらに大命題として、財政的に厳しい状況ですから民間企業とのコラボに大きく予算を割くことはできません。
そんな背景を踏まえての公明正大な制度づくりだったため、職員は非常に工夫し、知恵を絞ったと思います。横浜市や桑名市という先例はあったものの、やはり自らの制度としてなじませるためには時間と労力がかかりました。
市長公室・国松氏 どうやったら透明性を確保できるかについては、いろいろな自治体の随意契約の事例を勉強しながら進めました。「バランスの取れた制度にしたい」というお気持ちが市長にあったので、やる気のある民間企業としっかりつながりながらも、合法かつ行政として説明責任が果たせる仕組みにするため、考えに考えた記憶があります。
丸山市長 先ほどANA総研との連携協定のお話をしましたが、それは庄内空港に就航する航空会社がANAのみだったからという背景があります。もちろん、ANA総研が酒田のまちづくりに意欲をお持ちの企業だったから協定を結んだことに間違いはありません。しかし他にも同様の航空会社があったとしたら、さてどちらと組むのか、組む理由は何かという議論になります。
行政は公明正大であることが大前提ですから、対外的にしっかりと「その企業と組む理由」を説明する必要があります。その説明を客観的なエビデンス(証拠)を用いてできるようにするため、かなり試行錯誤しました。民間事業者提案制度をすべて整えるまでに2~3年かかった理由はここにあります。
議会からも好印象
小田 確かにバランスが難しいところだと思います。それでも、やる気のある民間企業と随意契約するために制度をつくり上げたことは、丸山市長をはじめ担当職員の皆さまが「何かあれば説明する」という覚悟をお持ちであることの表れではないでしょうか。そのマインドが最も重要だと思います。制度について議会で発表した際、議員の方の反応はいかがでしたか?
市長公室・金野氏 反対の意見はなく、極めて好意的でした。特に質問が飛んでくることもありませんでした。実際に形にならないとイメージしづらい部分もあるでしょうから、まずは始めさせていただきたいとお伝えし、承認を得ました。制度は1月にスタートしており、既に民間企業の方からさまざまなご提案を頂き、事業の骨格づくりのための対話も始まっています。今後はその様子を議会とも共有していければと思っています。
小田 民間企業との随意契約であるという点も、議員の方からさほど意見が出なかったということでしょうか?
市長公室・金野氏 はい、そうです。最終的には一つの企業との随意契約にはなりますが、その間にプロポーザルを経ていますから、地方自治法に違反する仕組みではありません。今まで当然のように行ってきたルールを組み込んだことにより、議員の方も違和感なく受け入れてくださったと思っています。
丸山市長 私は酒田市に、にぎわいや実益をもたらすことを第一に考えています。そのために今必要なのは民間のアイデアや力です。酒田のまちでこんなことがやりたい、こんなことで貢献できるという思いや情熱をお持ちの企業とつながりながら、長きにわたって良い関係を築ければと思っています。そのための民間事業者提案制度です。
小田 今回のインタビューで印象に残ったのが、冒頭に丸山市長がおっしゃった「理念はもちろんだが、それを実現するための実務を具体化することが大事だ」という点です。
自治体経営の持続性という面で公民連携の必要性が叫ばれていますが、自治体にとって公民連携ほど「言うは易く、行うは難し」の分野はないのではないかと思います。民間企業であれば、どこでもいいわけではありません。やはりまちの目指す理想像に共感し、伴走してくれるやる気のある企業とつながりたいというのは、どの自治体も考えるはずです。しかし行政である以上、公平性と透明性を確保した上で民間企業とのつながりをつくらなければなりません。
恐らく、ここが最も骨の折れる部分だと思うのですが、酒田市の場合は丸山市長をはじめ、市長公室の方々が「説明責任を果たす」と決めた上で、民間企業との適切なつながり方を制度として整備しました。まさに、理念を実現するために実務を具体化されたのですね。それ以前の積極的な連携協定の締結からも、酒田市が長きにわたって栄えるため、公民連携を重要な手段と位置付けている様子がうかがえました。
次回は酒田市の公民連携の事例について、さらに深く掘り下げていきたいと思います。酒田市とパートナーシップ協定を結んだ良品計画との出会いや現在に至るまでの経緯、今後に展開を予定する事業の詳細について伺います。
(第3回に続く)
【プロフィール】
山形県酒田市長・丸山 至(まるやま いたる)
山形大人文学部卒業後、1977年に山形県酒田市に入り、商工港湾課長、企画調整課長、水道部管理課長、健康福祉部地域医療調整監、財務部長、総務部長、副市長を経て、2015年9月に市長に就任。現在2期目。