組織に横串、住民と対話重ねたまちづくり~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(4)~

前北海道沼田町長 金平嘉則
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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2023/03/02 組織に横串、住民と対話重ねたまちづくり~金平嘉則・前北海道沼田町長インタビュー(4)~

 

8年で町が変わる姿を見せる

小田 金平さんの町長在任期間が、わずか2期8年だったというのは驚きです。

金平氏 自分でも、8年間でよくあれだけのことができたなと思っています。町が変わって良くなる姿を町民に見せるのに、10年以上かかっていては遅いと考えました。そんなに待たせては町民が沼田から出て行ってしまうだろうと。せめて8年くらいで見せて安心させなければという思いが常にありました。

じっくり話し合う機会は大切にしながらも、計画が大きく後ろ倒しにならないよう、職員も含めて真剣に取り組みました。

 

小田 一連のお話を聞いていると、運用の押さえるべきところはしっかりと押さえつつ、丁寧に人材育成もされてきたのだろうと感じます。そうした基本を着実にこなしていくことこそが最も大事な要素だと思います。

金平氏 現状を分析し、住民が望むまちづくりの方向性を皆で協議しながら、計画を作り上げていく。何も特別なことではありません。ただし、自治体のカラーもあると思います。首長が強いリーダーシップを発揮した方が、物事が進む自治体もあるでしょう。何が重要な要素か、一概には言えないかもしれません。

 

小田 町職員時代からの経験や知識、戦略性、そしてファシリテーターの立場を取るという点が、歯車のようにかみ合ったのですね。町長を退任されたのは、なぜですか?

金平氏 理由はいろいろとありますが、8年間動き過ぎましたので一区切りをつけ、別の立場で地域貢献できたらと思ったのです。

町長としてやれるだけのことはやりましたが、町長の立場だとできないこともありました。8年間に培った人脈やネットワーク、経験を生かし、今度は民間の立場で活動したいと考えたからです。さらに言えば、残された人生の中で新しいことに挑戦し、何か地域のためにできることはないかとも考えました。

 

小田 今はどのような立場で活動されているのですか?

金平氏 政策には直接、関わっていません。民間企業に籍を置きつつ、地域の方からの相談を受けたり、社会福祉法人の理事長として、認定こども園の経営に当たったりしています。

 

小田 首長が交代すると、まちづくりの方向性が変わったり、今までの取り組みが断絶したりするケースも耳にします。良い施策がストップしてしまうのは、とてももったいないと思うのですが、沼田町の場合はそのような問題はありませんか?

金平氏 頼りになる職員がいますから、彼らが町の将来を見据えて取り組んでくれると思います。後任の横山茂町長は、7~8年にわたって共に仕事をしてきた仲間です。私の考えを十分に理解しています。彼が町長選に立候補する意思を示したとき、私はもう辞めていいと思いました。

 

小田 安心して後を託せたのですね。

金平氏 新型コロナウイルス禍で大変な時期もありましたが、横山町長はコンパクトエコタウン構想をやり遂げると聞いています。私は別の分野で、沼田のまちづくりをサポートできればと考えています。

 

まちづくりとコミュニケーション

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小田 今回お話を伺って、沼田町でコンパクトエコタウン構想が実行できたのは「リーダーの人柄と能力値とコミュニケーション」によるところが大きいと思ったのですが、いかがでしょうか?

金平氏 人柄と能力値はさておき、コミュニケーションは小まめに取っていました。現在、沼田町の各団体のトップを務めている方々は、私が30代に社会教育主事をしていた頃の仲間です。そういった方たちとコミュニケーションを取りながら、いろいろな施策を打ち出すことができたので、その影響は大きかったと思います。

 

小田 その方々とは、普段からコミュニケーションをよく取っていたのですか?

金平氏 電話したり食事に行ったりして会話しました。その際に「今度はこんな問題を解決するか」などと話した記憶があります。会議の場だけでなく、普段からいろいろな場で議論し、お互いの考えを理解し合うのは大切です。

 

小田 そうした姿勢が職員にも伝わったのでしょうか?

金平氏 集めた人たちとどのように話し合うのか、どう合意形成を図っていくのかといったプロセスは理解してもらえた気がします。

 

小田 コロナ禍でオンラインのコミュニケーションが増えました。地方都市にとっては、世界中の人と会話できるようになったというのはメリットだと思うのですが、いかがですか?

金平氏 細かなニュアンスは直接会って話した方が伝わりますね。今の行政は住民とのコミュニケーションを取るために、人を集められずに苦労していると思います。

 

小田 とはいえ、住民を信じてコミュニケーションを取り続けることが、皆で同じ方向を向いてまちづくりを進めるコツなのでしょうね。

金平氏 住民一人ひとりが顕在的か潜在的かは別にして、「町をこうしたい」という思いを持っています。それをいかに引き出すか。どんな人でも意見が言える対話の場を用意し、そこで安全が保証されていれば、皆が活発に意見を出し合うと思います。封じ込めることはせず、出し切ることが大切です。

 

【編集後記】

終始にこやかに町長時代の2期8年を振り返った金平氏ですが、「8年で町が良くなる姿を見せる」という言葉には、町に対する思いと熱量が込められていました。

農村型コンパクトエコタウン構想の実行に当たって用いられたのは、目新しい手法ではありません。目的を共有しながら皆で話し合い、皆でつくり上げるという基本的なコミュニケーションの積み重ねです。それをどれだけ愚直に続けられるかが、住民を一つにまとめるための大きな要素となるのでしょう。本稿から対話を重ねることの重要性を感じていただければ幸いです。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年1月23日号

 


【プロフィール】

前北海道沼田町長・金平 嘉則 (かねひら よしのり)

1945年生まれ。北海道沼田町出身。同町に入り、農業委員会事務局次長、民生課高齢者福祉対策室長、地域振興課商工観光室長、地域振興課長補佐、教育委員会次長、議会事務局長を歴任。2011~19年に同町長を務めた。

 

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