人口減少時代におけるダイバーシティの重要性~若者が地元に戻り、地域の働き手となる処方箋とは  ~(後編)

一般社団法人官民共創未来コンソーシアム

 

2023/06/16 人口減少時代におけるダイバーシティの重要性~若者が地元に戻り、地域の働き手となる処方箋とは ~(前編)
2023/06/20 人口減少時代におけるダイバーシティの重要性~若者が地元に戻り、地域の働き手となる処方箋とは ~(後編)

 

若者が働きたい企業、望む企業

セミナーでは中貝氏から、多様かつ寛容な働き方に取り組む企業の事例が紹介されました。

 

豊岡市に本社を構える木製ハンガーメーカーの中田工芸株式会社では、社長の男性が自ら1カ月間の育児休暇を取得したり、社独自の育児休暇制度を設けたりして男女を問わず、従業員の仕事と家庭の両立を後押ししています。

同じく豊岡市のカバンメーカーである株式会社由利は、女性従業員の働きやすさとキャリア形成を後押しするため、業務改革を断行しました。残業を徹底的に減らしたほか、業務の標準化で属人的な作業をなくし、休みを取得しやすくしました。さらには受注の平準化を進め、繁忙期をなくしました。

 

このように多様かつ寛容な働き方を企業が実現することで、地域内のジェンダーギャップは解消に向かいます。それは「若者が戻りたくなる、働きたくなる地元」を形成するための着実な一歩でしょう。

従って「働きやすさの設計」は、企業が孤軍奮闘するよりも自治体と手を取り合い、共に進める方が望ましいのです。豊岡市は企業と共にジェンダーギャップ解消に向けた戦略会議を立ち上げ、働きやすさの設計を推し進めたそうです。

 

セミナーの後半では、四国中央市でラミネート加工業を営む江南ラミネート株式会社に勤める若手の女性従業員2人を交え、パネルディスカッションを行いました。

2人はいずれも市外から転入し、入社しました。彼女たちに同社を選んだ理由を尋ねたところ、「理念や社風が良かった」との答えが返ってきました。若者が働きたいと感じる組織の基準は、報酬から人の思いや関係性にシフトしているのです。

なお同社は、コミュニケーションと人間力を向上させる勉強会を月に1回開催しており、全社員が参加しています。そこでは役職や年齢、性別にかかわらず、「生き方や仕事に対する考え方」を分かち合い、違いを理解して受け入れる取り組みが行われているそうです。

この姿はまさに、ダイバーシティそのものと言えます。若者が働きたくなる企業とは? 若者が戻りたくなる地元とは? その答えに通じるヒントが得られるパネルディスカッションでした。

 

写真

 

「働き方」を切り口に

四国中央市で開かれたセミナーのリポートを通じ、人口減少時代におけるダイバーシティの重要性をお伝えしました。

繰り返しになりますが、人口減少に関する具体的施策を練る前に「なぜ地元から若者が流出するのか」という根源的な理由を突き詰めなければなりません。多くの自治体に共通するのは、ダイバーシティの概念を理解したつもりであっても、実は理解し切れていないことです。

もちろん、若者のわがままをすべてのみ込めばよいというわけではありません。しかし、彼らの言葉や態度の裏にどういう背景や意図があるのかを読み取り、受け入れる意思があると示すことが、ダイバーシティの第一歩ではないでしょうか。

 

「働き方」は年齢や性別にかかわらず、多くの人たちが関与する分野であり、ダイバーシティを比較的具現化しやすい切り口と言えます。高齢者、若者、女性、男性、子ども、移住者と、あらゆる人たちが住みたくなるまちが「働き方のダイバーシティ」を通じて増えていくことを切に願います。

 

セミナーを終えて

──四国中央市のコメント──

本市は紙産業が主要な産業であり、これまでも地域で若者が働く場所はしっかりあると認識していました。

しかし本セミナーで、女性の回帰率が男性に比べて低いという状況を見て、女性が活躍・キャリアアップできる職場環境の重要性を感じました。今後は、さまざまな方が活躍できる環境を整備する支援を行うとともに、多様な価値観を受け入れる風潮を醸成していきたいと考えています。

 

本市においても、アートという観点から「若者が帰りたくなるまちづくり」を行うシティプロモーションを開始しました。

2022年度には今後の取り組み方針を定めた戦略の策定と合わせ、市の魅力を表現した音、若者が描く未来の理想のまちの姿である「Vision Map」、水引を活用したオブジェという三つのアート作品を制作しています。本作品の捉え方について、さまざまな意見を尊重し、有機的に連携したまちづくりを象徴するものとして活用していきたいと考えています。

 

今回のセミナーを受講していない企業の担当者にも女性活躍や多様性の重要性について理解いただけるよう、23年度においても同様のセミナーの開催を検討しています。次回は、より多くの企業の従業員にパネルディスカッションに参加いただき、市内外のリアルな声を市内企業の人事担当者らに届ける活動を継続したいと思います。

 

(おわり)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年4月24日号

 


【プロフィール】

一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム

2020年に設立。代表理事は元川崎市議の小田理恵子氏。「共に創る、公共の未来」をミッションに、官民が参画し、対話による新たな価値創造(官民共創)を生み出す実践型プラットフォームを提供する。22年9月26日号から本誌で「縮退社会における都市経営―官民共創リポート」を連載中。

 

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