「自反尽己」の市政運営~仲田一彦・兵庫県三木市長インタビュー(3)~

兵庫県三木市長・仲田一彦
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、兵庫県三木市の仲田一彦市長のインタビューをお届けします。

仲田市長とお話ししていると、「相手の本音」をくみ取ろうとする「対話の姿勢」を端々に感じます。国会議員秘書、兵庫県議会議員を経て就任したという経歴もあり、それが政治の根幹であると確信しておられるのでしょう。

今回も、謙虚でありながら信念を貫くリーダー像を感じ取っていただければと思います。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

「本当の声」を聞く

小田 近年、行政経験のない方が首長に就任するケースが増えてきました。そうした方に伝えたい「自治体運営のポイント」はありますか?

仲田市長 本質的なことなので官民を問わずに当てはまると思いますが、まずは高い志を持ち、自らが夢を語ることです。ただし自治体トップの判断は住民の将来に大きな影響を及ぼします。ですから発する言葉の重さを自覚し、軽々しい発言や判断は控えた方が良いでしょう。

それから責任はすべて自分にあると考え、引き受けることです。このことは私自身、職員に日ごろから伝えています。国や県の責任にしたくなる場面もあると思いますが、逃げずに目の前の現実に向き合うことが大切です。私の座右の銘は「自反尽己」です。これは、まさに「すべてを自分の責任と捉え、全力を尽くす」という意味です。

もう一つ大切なのは「声なき声を聞く」ことです。基本的にトップのところには「本当の声」が上がってきません。正しい政策判断を行うためには、住民の皆さんと直接、対話して本当の望みを理解するよう努める必要があります。

結局は人間性です。「この人が言うなら」と多くの方から信頼を寄せていただけるよう、自己研鑽を続けるのみではないでしょうか。

 

小田 首長は人間性を見られるということですね。「声なき声」として、最近はどのような住民の本音をキャッチしましたか?

仲田市長 市は子どもたちにとって望ましい教育環境を整備するため、学校の再編や統合を進めています。関係者の本音は立場によって、さまざまです。

例えば、転入して来られたご家族は「子どもの教育環境を良くするために、早く小規模な学校同士を統合してほしい」と考えていますが、昔から地域にお住まいの方は「母校が統合され、なくなるのは寂しい」と思っています。3世代のご家庭で祖父母が地元の方の場合、他の地域から嫁いで来たお嫁さんは義理の両親の前で「学校を統合してほしい」とは、なかなか言えません。

また地域の代表を務めている方の中にも、学校の統合に対して立場上、反対の意思を示すものの、心の中では賛成している方がいるでしょう。本音とは、こういうところに隠れています。

このように建前と本音が違うことは往々にしてあります。言葉をそのまま受け取るのではなく、本当はどう思っているのかと深読みしながらコミュニケーションを行う必要があります。

 

小田 それは経験を積むことで習得できるスキルですね。仲田市長は県議会議員時代から多くの対話を重ねてこられたので、それが生きているのですね。

仲田市長 首長になると予算執行ができる立場になります。そうすると、なおさら「本当の声」が聞こえにくくなります。ですから、より一層傾聴するように心掛けています。

 

小田 仲田市長がそのようなスタンスであれば、住民も本音を話してくれるのではないですか?

仲田市長 頭が痛くなるような声も多いですよ。しかし厳しい声は期待の表れだと受け止めています。

 

小田 仲田市長は本当に人のことをよく見ていらっしゃいます。先頭に立って皆を引っ張っていくというより、人に寄り添いながら周囲を引き立てていくリーダーのように感じます。

仲田市長 私自身に能力はないと思っているので、できる人に任せようというスタンスですね。「俺が俺がの『我』を捨てて、おかげおかげの『下』で生きる」という言葉がありますが、まさにそのような姿勢で市政に臨んでいます。

 

※写真 仲田市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

流されず、本質的な判断を

小田 近年の自治体運営を巡る傾向について、思うところはありますか?

仲田市長 どの自治体も人口減少に立ち向かう必要はあるのですが、だからといって近隣自治体と「取り合い」をしていては国益になりません。自治体間「競争」ではなく「共存」であるべきだと考えます。

ただし、人々の価値観が少しずつ変化しているので難しい部分はあります。一昔前は「お上の世話にはならない」という気概を持つ方が多かったように感じますが、今は「もらえるものはもらった方が良い」という価値観が広がってきました。そうすると、いわゆるばらまき政策が支持され、繰り返されるようになります。このような時代の流れで本当に良いのかと疑問に感じています。

 

小田 時代の大きな流れにはあらがえないこともあるでしょう。それでも、いかに本質的な政策を行えるかという点で首長の手腕が問われますね。

仲田市長 やはり首長であれば、まちの将来を見据え、やるべきことをやる責任があります。市は今年度、議会の賛同を得て市民福祉年金の廃止を決定しました。もちろん厳しい声はありましたが、限られた予算の中で政策の優先順位付けをした結果です。こういう時代だからこそ、流されずに判断し、行動する必要があると思います。

 

小田 自治体の財源には限りがあります。仲田市長がおっしゃる通り、住民の本音をくみ取りつつ、政策に優先順位を付けて取捨選択することが求められます。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年3月11日号

 


【プロフィール】

仲田 一彦(なかた・かずひこ)

1972年生まれ。京都産業大法卒。衆院議員秘書、兵庫県議を経て、2017年同県三木市長に就任し、現在2期目。座右の銘は「自反尽己(じはんじんこ)。」

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