一般財団法人地域活性化センターフェロー
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事
吉弘 拓生
2024/09/11 企業版ふるさと納税の展望~官民協働が事業成功のキー ~(前編)
2024/09/12 企業版ふるさと納税の展望~官民協働が事業成功のキー ~(後編)
寄附は8400件に
内閣府が23年8月に公表した資料では、寄附額は前年度比約1.5倍の約341億円、寄附件数が約1.7倍の8390件に増えておりその機運はますます高まりつつあります。
こうした国の動きに加え、昨年の夏以降は県主催の対面での相談やマッチング会が開催されるようになりました。アドバイザーは地域の相談先の期待に応えるためにも、1件1件丁寧に寄り添うように心掛けています。
具体的な事例として、県が主催したマッチング会を幾つか紹介します。埼玉県では、ハイブリッド形式で企業向けのイベントを開催しました。前半は企業版ふるさと納税を活用した事例の発表や、寄附対象となる自治体からのプレゼンテーションを行い、後半では参加企業と自治体との交流会も実施しました。
宮城県では、「みやぎ広域PPPプラットフォーム」を運営する七十七銀行がマッチング会を主催しています。この会では、民間企業向けに、県内の首長による事業紹介(ピッチ)が行われ、多くの自治体が参加しました。今年1月に行われたマッチング会には、県内約20団体の首長が登壇しました。
能登半島地震、900社超が支援
また、24年1月1日に発生した能登半島地震への復興支援に関する寄附が、多くの企業から寄せられました。被害が大きかった石川県は、被災者支援、復旧・復興のための企業版ふるさと納税を受け付けていますが、県のホームページ(HP)には、寄附を行った企業として900社を超える企業名が掲載されています。
この機会に、企業版ふるさと納税制度を初めて活用した企業も増えているようです。例えば横浜市に本社を置く不動産関連企業は、能登半島の復旧復興に役立ててもらいたいと、いち早く石川県の企業版ふるさと納税への寄附を行いました。
「官民共創」の視点
対面でのマッチング機会が提供される現場で、アドバイザーは、内閣府の職員と共に制度面での助言や企業へのアプローチ方法についてアドバイスを行っており、企業からの関心が集まる中で、実際に企業を訪問し、直接相談に乗ることもあります。
例えば、「企業の理念に合った自治体や、親和性の高い取り組みがないか」といった相談や、「寄附を実行する前の、企画・検討の段階から一緒に取り組みたい」という要望、さらには「企業側からの社会課題に対する提案に賛同し、逆提案をしてくれる自治体はないか」など、相談内容は多岐にわたります。これらの相談に対応し、企業と自治体との連携を円滑に行うためのサポートも一部担っています。
こうした相談が増えている中で最近共通するのが「官民共創」という視点です。一部の自治体には企業目線での事業提案を行うために積極的に営業活動、つまり企業訪問や提案活動に力を入れているところも出てきています。具体的には企業側の課題解決にもつながる提案を双方で協議し、プロジェクトを立ち上げ、その資金に寄附を充てていくというものです。
例えば宮崎市は、「企業版ふるさと納税の企業への効果的なアプローチの方法」をテーマに実証実験を行う企業を募り、広報活動や寄附企業のベネフィット(利益)の設定などを行いました。
市HPへの企業名および企業HPリンクの掲載、金額に応じた感謝状贈呈式の開催、市長との意見交換、マスコミへのリリース、市公式SNSでの紹介、対象施設への寄附企業のネームプレート設置などさまざまな取り組みを通して、宮崎市へ寄附を行う企業は増加しています。
自治体、特に人口や組織が小規模な団体は、独自の予算だけでは解決が難しい課題や案件を複数抱えています。それらに対して企業と協力することで、資金調達が可能になり、同時に社会課題の解決にも貢献できるのが企業版ふるさと納税の特徴です。この制度を活用して、多くの自治体が寄附対象となる事業をWEB上で公開し、寄附を募っています。
自治体は、自分たちの地域の課題を解決するための具体的な事業を提示し、それに賛同する企業との連携を期待しています。企業にとっても、自社の社会貢献活動として、自治体と協力しながら地域課題を解決することができるため双方にとって有益な仕組みとなっています。
制度延長を求める声
企業、自治体、そして同制度を活用して実施される施策の受益者の「三方よし」の関係を構築できるかどうか。その結果、官民連携による地方創生が進むと同時に、国民が豊かさを享受し、それを実感できる社会へと結び付けることができるのかどうか。
24年度でいったんの区切りを迎える企業版ふるさと納税制度。「故郷・愛着・ゆかりがある」ということをきっかけにした寄附の第一ステージから、「最大9割の税額控除が受けられる」第二ステージの終盤を迎えました。
この制度は官民共創による地方創生のために有意義であるとして活用事例が増えており、大規模災害に見舞われた地域の復興にも大きな力を発揮しています。そのため、25年度以降の制度延長を望む声が各方面から寄せられています。
延長に当たっては、昨今の社会情勢を踏まえた新しい尺度で、これまでに課題となった部分の精査が必要です。制度を悪用し、制度の趣旨を踏みにじるような事案の発生を防ぐために改善を加え、「官民共創による事業実施」も含めた新しいステージに進化していくことが重要です。
アドバイザーとしても個人としても、志をカタチにしていく持続可能な企業版ふるさと納税の仕組みであることを願っています。また私たちの活動が、企業の社会貢献に寄与し、彼らが地域とのつながりを深め、それが結果として全国の地方の活性化に結び付くことを願っています。
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年7月29日号
【プロフィール】
吉弘 拓生(よしひろ・たくお)
一般財団法人地域活性化センターフェロー
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事
ラジオDJ、森林組合職員、市職員を経て2015年群馬県下仁田町副町長に就任。在任中に金融機関と連携し「ねぎとこんにゃく下仁田奨学金」を創設(令和元年度地方創世担当大臣賞を受賞)。
19年から一般社団法人地域活性化センターでクリエイティブ事業室長、新事業企画室長を歴任。
総務省地域力創造アドバイザー、内閣官房地域活性化伝道師に任命されている他、21年初代「企業版ふるさと納税マッチング・アドバイザー」に就任。中央省庁、都道府県、市区町村の有識者会議委員として現場の声を伝える活動の他、「対話」の手法を取り入れたタウンミーティングの講師や、実務経験と官民ネットワークを活かし、地方自治体への伴走支援に取り組んでいる。