独自のまちづくりに込められた意図~中貝宗治・前兵庫県豊岡市長インタビュー(2)~

前兵庫県豊岡市長/一般社団法人豊岡アートアクション理事長 中貝宗治
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2022/10/11 独自のまちづくりに込められた意図~中貝宗治・前兵庫県豊岡市長インタビュー(1)~
2022/10/14 独自のまちづくりに込められた意図~中貝宗治・前兵庫県豊岡市長インタビュー(2)~
2022/10/18 立場が変わっても生き続けるビジョン~中貝宗治・前兵庫県豊岡市長インタビュー(3)~
2022/10/21 立場が変わっても生き続けるビジョン~中貝宗治・前兵庫県豊岡市長インタビュー(4)~

人口減少はなぜ問題なのか?

小田 今やどの地方自治体も人口減少を課題に挙げています。しかしなぜ問題なのか、何が困るのかという点について、明確に示すことができる人は意外と少ない気がします。中貝さんは「若者の流出が最大の問題」とおっしゃいましたが、その結果どうなるとお考えですか?

中貝氏 緩やかな人口減少はそこまで影響を与えません。問題は急激な人口減少です。量は破壊力を持ちます。

例えば人口が1万人減るとしましょう。1人当たりの年間平均消費金額は125万円ですから、1万人減ると単純に125億円の消費がまちから消えることになります。豊岡市は地方創生がうまくいったとしても、2040年までに人口が2万人減ると予想されています。消費金額に換算すると250億円です。

人口が8万人ほどのまちから、2万人が減ったらどうなるでしょうか。明らかに商店街は疲弊します。大型店は撤退するかもしれません。そして企業は労働力不足に陥ります。公共交通も維持できなくなり、住民の移動に影響が出ます。このように、まちが「まばら」になっていきますよね。そうするとさらに非効率になり、まちを一気に痛めつけていきます。

 

小田 生活のあらゆる分野で連鎖的に負の影響が出てくると?

中貝氏 学校など教育関連施設の統廃合も進むでしょう。住民感情のケアが必要になってきますね。上下水道に関しては、インフラをみんなで割り勘にして維持しているわけですから、人口が減れば1人当たりの負担額は増すでしょう。もともと地方は所得が低いですから負担が増えれば、たちどころに生活に困ってしまう人が続出します。

このような悪影響を和らげるための方策としては企業誘致が考えられますが、労働力のない所に企業はやって来ないでしょう。

 

ジェンダーギャップの影響

小田 企業誘致とワーケーションと観光。この三つは人口減少対策として自治体がよく挙げるものです。しかし個人的には、どこも同じことをやっていては結果が出ないと考えています。どんなポジションを取るか、戦略を立てることが重要だと感じます。

中貝氏 突き抜けることが必要ですよね。地方創生は中央との闘いですから。日本の中での中央、都道府県の中での中央と切り口はいろいろありますが、要するに地方から中央へ若い人たちが出て行くことで人口減少は起こります。マーケットの中で客の取り合いをしているようなものです。

先ほども述べましたが、中央に「大きさ」や「速さ」で勝負を挑んでも勝てません。次元を変え、十分に土俵に乗り得るような魅力を地方がつくらない限り、突破口は開けないと思います。

 

小田 私は2011~19年に川崎市議を務めましたが、当時の川崎ですら、隣接する東京に資源が流出しているような状況でした。中央の壁は厚いと感じます。

中貝氏 東京はコロナ禍で外国人が来なくなったり、郊外への移住が進んだりして、社会増がだんだん縮まってきています。それでもなお、20~24歳の女性に関しては地方から大量に転入して来ています。

地方に若い人がとどまらないのは、一つには経済的な魅力に乏しいからです。大企業がない、華やかな仕事がない、給与水準も低い。必然的に大都市に目を向けるようになります。もう一つは文化的な魅力に乏しいからです。おしゃれな空間やアーティストに触れる機会が圧倒的に少ないから、つまらないのですね。だから大都市へ出て行く。この二つが若い男女共に効いているファクターです。

 

※イメージ

 

ところが実際のデータを見てみると、女性の方が男性よりもはるかに地方を去っており、しかも帰って来ていません。女性だけに上乗せされて、効いているファクターがあるはずなのです。

それに対して私が市長時代に出した答えが、ジェンダーギャップでした。事実、さまざまな機関の調査で、地方の女性にジェンダーギャップが相当影響していることが分かっています。東京も世界から見たら、まだまだ後れを取っていますが、それでも日本の中ではジェンダーギャップの解消が進んでいる方なのです。

 

例えば、労働者数301人以上の企業は女性活躍推進法に基づき、女性が活躍できる行動計画の策定と公表が義務付けられました。その中には男女の賃金格差の公表も入っていますから、今後はいや応なしに企業は格差を縮める方向に向かうはずです。

他方で労働者数301人以上の企業が少ない地方は、恐らく何もしないままでしょう。若い女性にとっての生きやすさは、大都市と地方でさらに差が出ると考えられます。地方の人口減少に歯止めをかけるためには、こうした根本の部分を変える必要があります。

 

次回からは市長時代の取り組みもさることながら、その戦略眼の鍛え方や、退任後のセカンドキャリアについて詳しく伺います。

 

第3回に続く

 


【プロフィール】

前兵庫県豊岡市長/一般社団法人豊岡アートアクション理事長・中貝 宗治(なかがい むねはる)

1954年生まれ。京大法卒。78年兵庫県に入庁。91年同県議。2001年7月から21年4月まで同県豊岡市長。「深さを持った演劇のまちづくり」を進めるため、21年6月一般社団法人豊岡アートアクションを設立し、理事長に就任。

スポンサーエリア
おすすめの記事