「和而不同」のリーダーシップ~栁田清二・長野県佐久市長インタビュー(2)~

長野県佐久市長・栁田清二
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

2024/11/12 「和而不同」のリーダーシップ~栁田清二・長野県佐久市長インタビュー(1)~

2024/11/14 「和而不同」のリーダーシップ~栁田清二・長野県佐久市長インタビュー(2)~

2024/11/19 偏りに対し「問いを投げかける存在」に~栁田清二・長野県佐久市長インタビュー(3)~

2024/11/21 偏りに対し「問いを投げかける存在」に~栁田清二・長野県佐久市長インタビュー(4)~

 

官民連携は「相手を思いやる」ことから

小田 Xの運用もさることながら、栁田市長の取り組みは時代を先取りしているように感じます。10年にはご自身が育児休暇を取得されましたし、23年には市内全域でデマンド交通の本格運用を開始しました。ジェンダーギャップ解消の取り組みにも注力されています。どういったところから着想を得て施策に落とし込んでいるのでしょうか?

栁田市長 全国青年市長会など、全国の自治体の首長が集まる場での情報交換です。先進的な取り組みを推進する首長の話を聞いて刺激を受けています。「こんなアイデアは自分には思い付かなかった」と悔しい思いをすることもありますが、地域にとって良い刺激になったり、佐久市民の皆さんにとって有益となるアイデアであったりすれば、持ち帰って実行しようというつもりで情報収集をしています。

先日も官民連携に関するイベントで他自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを耳にしました。佐久市もDXを推進していますが、先進自治体と比べると、まだまだできることがたくさんあると感じましたね。

 

小田 佐久市として民間企業との協働について思うところはありますか?

栁田市長 私は民間企業の方々に対して「自治体の内情を知った上でご提案いただきたい」と伝えています。各自治体には予算編成を行うためのスケジュールやルールがあります。佐久市の場合は、各課から企画課へ7月末までに事業の実施計画をエントリーし、企画課の査定が通った計画のみ予算要求ができます。ハード事業であれば1億円以上、ソフト事業であれば50万円以上の計画が査定対象になります。こういった時間軸や枠組みがあるということを知った上でご提案いただけると、スムーズな官民連携につながるのではないかと思います。

 

小田 官と民の時間軸がずれることで噛み合わなくなるという話は、他の自治体でも耳にします。

栁田市長 行政職員は官民連携という手法を用いて良いカードを切りたいと考えています。しかし、予算編成のスケジュールやルールからあまりに外れてしまうと、民間の方々の提案を現実味を持って受け取ることができません。我々もそうですが、官と民はお互い「相手を思いやる」ことをベースに連携することが大切です。

 

小田 職員の方たちも、納得した上で仕事に取り組みたいと思っているはずです。組織文化の異なる官と民では、「相手を知って思いやる」という基本態度により意識を向ける必要がありますね。

栁田市長 職員が納得感を持ちながら進めた仕事は成果が出やすいです。これは官民連携に限らず首長と職員の間にも言えることです。なぜ、これをやるのか? 目的をしっかりと共有し、双方が納得感を持った上で進めることが大切です。

 

誰もが納得感のある施策を

小田 職員の方たちと納得感を持って進められたと感じる事業はどんなものが挙げられますか?

栁田市長 昨年度から本格運用を開始したデマンド交通事業です。これを始めたきっかけは「従来の巡回バスが誰の満足度も上げていない事業なのではないか?」と感じたことでした。佐久市は車社会なので、そもそも巡回バスに乗る人の数が少ないです。当時の平均乗車人数はバス1台当たり0.9人でした。ほぼ空気を運んでいるようなものです。バスを利用する住民の方からしても、1時間に1本しか便がなく、乗ったとしてもあらゆるバス停を巡回するので目的地まで遠回りになります。誰の満足度も上がっていませんよね。バスを利用しない方からは、ムダ遣いだと指摘されていました。

 

長野県佐久市デマンド交通の利用ガイド

デマンド交通の利用ガイド(出典:佐久市)

 

なぜこのような路線でバスを継続運行しているのかと疑問に思い、現場の様子を確認したり、担当職員の話を聞いてみたりしました。すると出てきたのが「今の路線での運行を続けないと、国から補助金が下りてこない」という理屈でした。一見すると住民本位でない考えではありますが、偽らざる職員の気持ちであることは確かでした。

 

小田 現場の職員には、その方たちなりの内情があったということですね。

栁田市長 その通りです。実は当時から、現在とは別の形でデマンド交通の導入を進めてはいました。私が職員に対して大枠の指示を出し、現場の職員に細かい調整を任せるような形です。しかし、職員が導入を進めていたデマンド交通は赤字体質でした。私からは「デマンド交通を実現させてほしい」と言われたので形にしなければならない。一方で、事業を委託する企業から提示された金額は運賃収入を上回るものであった。この狭間で職員は悩んでいたのです。結果、赤字であっても導入するという方向で話が進んでいました。

これは私の現状認識が甘かったことと、職員への説明が不足していたことから招いた事態だと猛省しました。ですからいったん計画を白紙に戻し、もう一度デマンド交通の目的や、私がイメージする導入計画を職員に共有するところから始めました。そうしたところ、現場の職員の方からさらに良い計画案が出てきました。

 

小田 目的がしっかりと共有されたことで、職員の方たちの中に納得感が生まれたのですね。

栁田市長 職位によって決断できるレベルは違います。現場の職員がデマンド交通をやるか、やらないかの決断はできません。納得感がなくとも、上長から下りてきたものであればやらざるを得ないのです。決断できる職位の者が、現場の情報を正確に理解した上で、なぜやるのか? 何のためにやるのか? を判断しなくてはなりません。その判断(例えば「やめる」「改善する」)と理由を丁寧に説明することが肝要です。そのことにより、現場の職員の理解は深まり、新しいアイデアが想起されます。こうした経験をデマンド交通事業ではしました。もちろん、現在のデマンド交通事業は現場の職員から提示された案を採用しています。

 

小田 ありがとうございます。今回のインタビューでは、どのエピソードからも「現実をつぶさに見ることが重要」という栁田市長のメッセージが伝わってきました。物事の大局を見ることももちろん重要ですが、現場レベルでは何が起きているのか掘り下げて解像度を高めていくことで、個々の事象を含めて全体を立体的に把握できたり、ボトルネックの発見につながったりします。そんな栁田市長の「視点の移動」を体感できたインタビューでした。

 

次回も、栁田市長の視点とリーダーシップにさらに迫りたいと思います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年9月30日号

 


【プロフィール】

長野県佐久市柳田市長プロフィール写真栁田 清二(やなぎだ・せいじ)

1969年生まれ。中央大経済学部卒。井出正一・元厚生相秘書を務めた後、佐久市議会議員(1期)、長野県議会議員(3期)を経て2009年4月に佐久市長に就任。現在4期目。

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