なるほど。それはつまり、park-PFIの本質を行政が正しく理解していないと感じたのかもしれませんね。
あのとき、市民からも色んな声が届きました。「計画については長年の地域要望であり、自代表者の方々にも説明してある。」と相模原市から説明を受けたから、「もう自分たちの思いは聞いてもらえないんだ。」と思ったという声もありました。しかし実際は、地域の要望は老朽化に対応してほしいという要望であって、あえて公園の中に建ててほしいとういう声があったわけではありません。それはあくまでも行政がつくった計画です。また、地域の代表者に対して「スピード感をもって進めないと公有地が売れなくなる」という旨の説明もされていました。そしてこうした一連の流れは、代表者の皆さんは知っていても、地域の多くの住民にとっては「寝耳に水」でした。
そうした中、いよいよ12月に住民説明会を開催するということだったので、バラバラに私にメールなどをくれた人たちが一度、集まったほうがいいなと思ったんです。せっかく同じことを考えているのに、どういう人がいるのか、お互い、知ったほうがいいと。
僕はあのとき、「署名運動にしないほうがいい」と思いました。署名運動にすると、政治運動になってしまって、特定の政党の色がかなり強くなってしまうから。そうなると、静かに見守っているサイレントマジョリティの人たちが参加できなくなってしまいます。
そうなんですよね。12月に集まってもらった時に、「署名したい」とか「駅で演説したい」とか、いろんな声が上がったのですが、そういうアクションをするとどうしても特定の政党の色が強くなってしまいます。それでは賛同の輪が広がらないし、その段階で大事なことは賛成、反対をはっきりさせることではなく、対象となっている公共施設の老朽度や市の財政状況、まちづくりの方向性に対する考え方などの情報と、長年愛されている鹿沼公園や淵野辺駅に南口周辺の景観や公共施設などに対する市民の思いをちゃんと共有することが大事でした。
なので、署名や街頭演説という手法をとると、特定の政党の色や「反対者」というレッテルを付けられてしまう危険性もあり、結果、議会や市長に本質が伝わらなくなる恐れがあり、当初のフェーズでは得策ではないことを伝えました。議会としての、そういう実態を市民は知らないので、仕方ないと思いますが、「とにかく署名!」という発想の先に、市民が望む未来は描けないので、違う方法を考えましょう、という流れにしました。
署名活動にしなかったのは、一つのポイントですね。とはいえ、今伺っている状況からの、行政と市民のコミュニケーションのデザインは簡単ではありません。
いくつか、ポイントがありまして、中でも重要なのはチームを2つ作ったこと。1つは純粋な市民のチーム。もう1つは専門家を集めたチーム。それぞれのチームがフェーズ、フェーズで役割を果たしていて、行政とも様々にコミュニケーションを図ってきました。
まず、市民チームからお話をしますと、先ほど述べたように市民からの声は巻き起こっていたわけです。とはいえ、署名活動や反対運動にしてしまうと、絶対にいいカタチにならない。そんな時、全員協議会が開かれ、淵野辺駅周辺公共施設再整備についての進め方について説明がありました。
この全員協議会で、私が「市民説明会が1回というのは、あまりにも少なくない。」と質問したところ、相模原市が「市の主催は1回だけど、市民の要望があれば、何度でも説明会を開催します」って答えてくれたんです。
この点はとても重要で、とにかく計画自体を知らない市民が多い中で、「知ってもらうために説明会に足を運んでもらうことが大事」ということと、「話をもっと聞きたいと思ったら、説明会を要請できます」ということを市民に伝えました。重要なことなので、もう一度、言いますが、とにかく「反対運動にしないこと」は意識しました。
結果的に、市民説明会は9回開催され、そのためにパブリックコメントも延長になりました。市民向けの説明会が終わっていないのに、パブリックコメントが締め切りっておかしいですもんね。
市民説明会の開催を市民が求めるって、簡単なようだけど、やっぱり市民からするととてもハードルが高いと思うんですよね。そんなに簡単に「じゃぁ、開催してもらおう!」ってなるようには思えない。
もちろん、この問題に関心を持っていたお母さんたちと話し合って、呼びかけ方は工夫しました。「住民説明会に参加して、反対の声をあげよう!」みたいなことは一切やらず、「どうなる!?鹿沼公園、?どうする!?淵野辺」というチラシをつくって、とにかく、計画の内容を知る市民を増やそう、そして自分たちの気持ちと向き合おう、その声を行政に伝えよう、と提案しました。それって、賛成とか反対とか、そういう態度を決める前のアクションとして重要だと思うんです。その手順もなくて、賛成、反対と言い合うことに意味があるとは思えなかった。
もしかしたら、そういうアクションだったから、行政も多少安心してくれたところがあったかもしれません。本来の予定から大きく外れて、9回も説明会を開催してくれたのは、市民側のコミュニケーションの工夫が奏功した部分もあったのはないかと。
実際、小学生を対象にした説明会も開かれたんですよ。