横須賀市議会議員
株式会社Public dots & Company調査研究員・小林伸行
(第1回の投稿はこちら)
図書館とオープンデータが重なる歴史
筆者がオープンデータを図書館になぞらえる背景を説明するために、図書館と情報流通の歴史を概観しておきましょう。
約5000年前に文字が生まれ、記録を書き残す媒体も粘土板から木や皮を経て、中国で発明された紙に代わっていきました。国家官僚を中心に記録を保存するようにもなり、それらは必要に応じ、手で書き写して複写もされるようになっていきます。国家運営上の事務的な記録だけでなく、歴史・文学や科学技術なども蓄積されるようになったのです。
これらの情報を蓄えるため図書館が生まれ、国を挙げて情報が収集されるようになり、図書館は知識層が情報を求めて閲覧する場所となりました。
この間、印刷の技術も進展しました。ギリシャのクレタ島では約3700年前に、粘土板に押し付ける活字が発明されていたことが分かっています。その後、中国で6~9世紀の間に木版印刷が始まり、11世紀には木製の活字を使った活版印刷が生まれました。これが西洋に伝わり、15世紀には有名なグーテンベルクによる金属の活字を使った実用的な活版印刷が発明されます。
これにより、本の量産が可能となり、非常に高価だった本の値段が下がったのです。厳重に管理された書庫で読む物だった本は、多くの人が手に取ることができる環境になり、利用者も支配階級から大衆へと広がっていきます。その後、リトグラフや写植も生まれ、本の製造コストはさらに軽減されていきました。次第に一般大衆に本を貸し出すようになったのです
また、複写の技術も進展しました。圧力をかけてインクを染み込ませる方式から、青焼きなどの感光式となり、1959年にはゼロックス社が現在のように普通紙が使えるコピー機を発売。コンピューターも進化し、1973年にはゼロックス社のパロアルト研究所で現在のMacやWindowsにつながるマウスやアイコンなどを使ったGUI型OS(基本ソフト)が開発され、情報のコピー&ペーストも容易になりました。
さらに、1960年代には米軍がインターネットの基礎を開発。当初から、図書館的な役割が想定されていたのは興味深いことです。1980年代からインターネットで世界中が結ばれるようになり、情報の流通が劇的に変化しました。今や、組織や個人を問わず世界中のあらゆる人々が、研究から商用まであらゆる用途でインターネット上に情報を流通させ、いつでもどこでも情報にアクセスできるようになっています。
このように見てくると、公共性が高い情報を誰もがアクセスできる公共の場所で提供する点で、図書館とオープンデータは相似形と言っていいように思います。
また、公共図書館は時代を超えた人類共有の財産であろうと努め、時の権力者による焚書・禁書や検閲といった幾多の苦難の中で理念を明確に打ち立ててきました。米国図書館協会の「図書館の権利宣言」をはじめ、日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」や国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「公共図書館宣言」などが高らかに謳われ、図書館の権利や地位を守ろうとする営々たる努力が払われてきました。こうした公共図書館の精神や理想は、〝Share〟(共有)・〝Free〟(自由・無料)・〝Open〟(公開)といったインターネットが内包する精神にも通ずるように感じます。もちろんインターネット上では美点だけでなく悪徳も増幅されるため、共有というより「晒し」だったり、自由というより「言いたい放題」だったりしますが、基本的には、世界の中心だった当時の17世紀オランダから連綿と続く自由な学術的風土が、インターネットには息づいているように思われます。
地域経営のアウトソースとしての自治体オープンデータの可能性
閑話休題。主題は自治体オープンデータでした。
とどのつまり、地方自治体はオープンデータにどう向き合うべきでしょうか?
地方自治の重要性が叫ばれて久しいです。かつては地方が分権を勝ち取ろうとする構図でしたが、近年では人口減少・税収減・高齢化・扶助費増といった難局を迎え、国が手に負えず地方を切り離し始めたような面も見え隠れします。ただし、いずれにしても地方分権は進み、自治体の裁量と責任は増大していくでしょう。
こうした中、どのように舵取りしていけばよいか。現在、多くの自治体は財政に余裕がなく、仕事は増える一方なのに職員不足で、目の前の仕事をこなすことに精いっぱいとなり、総合職ばかりで専門家が少なく、革新的な発想も生まれにくくなっているように思います。だからこそ、自治体には、市民や民間事業者の知恵を借り力を借りて、効果的に公共サービスを提供することが求められています。つまり、公民連携です。
かつての行政においてはパターナリズム(父権主義)丸出しで、「お上として下々の民草のため、いかに善政を敷いてあげるか」という発想が濃厚ではなかったでしょうか。しかし、今は行政よりも民間が多くの知的・人的資源を抱える分野も広がっています。従来の単純業務を外部に投げる「上から目線的アウトソース」ではなく、地域経営の一端を担ってもらう「一緒にお願い的アウトソース」がこれからの公民連携でしょう。
公開情報を基に、市民から政策を提案して行政と一緒に解決したり、ITを駆使して行政に頼らず市民自らが課題解決に当たったりする事例は、よく耳にするようになりました。つまり、オープンガバメントです。これは、行政に限ったことではありません。自治体を株式会社になぞらえれば、株主である市民自らが経営状況を把握して「株主提案」をするようなものであり、民間でも株主提案の事例は増えています。行政や政治家にお任せではなく、市民や事業者が自ら地域経営に参画するのはありがたいことですが、自治体も手助けを求める以上は情報を公開して土台を用意しておかなければならないのです。今後、オープンデータは行政にとって必然の流れとなるかもしれません。
第3回に続く
プロフィール
横須賀市議会議員 小林伸行 こばやし・のぶゆき
1975年福島県生。筑波大卒。地域情報誌と環境コンサルティングに携わった後、政治を志す。政策秘書資格試験に合格後、国会議員秘書を経て2011年より現職。無所属三期目。マニフェスト大賞実行委員会事務局長。かながわオープンデータ推進地方議員研究会所属。株式会社Public dots & Companyのサロンメンバー。