一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事 小田理恵子
2021/05/07 自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(1)〜若者が定住できる産業振興を〜
2021/05/12 自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(2)〜若者が定住できる産業振興を〜
2021/05/15 自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(3)〜解のない地域課題を共に乗り越えるために〜
2021/05/19 自治体・地域が潤う官民連携の進め方とは(4)〜解のない地域課題を共に乗り越えるために〜
地域に果実をもたらすセカンドステージへ
さて、前回(第3回)で3つの自治体の取り組みについて紹介してきたが、これらが官民連携によって地域に価値を創出し、地域の産業振興・事業創出にまで至っているかというと、そこは発展途上である。
埼玉県横瀬町のよこらぼ(企業・団体・個人が実施したいプロジェクト・取り組みを実現するために、横瀬町のフィールド・資産を有効に利用し、横瀬町がサポートをおこなう取り組み)は、今まではあえて課題発想にしていなかった。
富田町長は「横瀬町の見えている課題にフォーカスせず、なんだか町のためになりそう、社会のためになりそうだったらどんどんやりましょうという発想だった」と話す。
門戸を広げて広範囲のものを受け入れ、チャレンジを重視する運営をしてきている。日本一チャレンジする町・チャレンジする人を応援する町・チャレンジする人が集まる町というブランドイメージを醸成し、初期目標は達成した。これからはセカンドステージとして効率よく実のあるものを進めていくとのこと。
「(採択した)90のプロジェクトの中で、大けがしたことはないが、小さな失敗はたくさんある。期待に達しなかったプロジェクトもある。体感で3分の1はなんとなくしぼんでいつの間にか無くなっていった。しかし、どのプロジェクトが育つかは分からないから、それでよい。一定の分母を持つ必要があるし一定は育たない。これまではそれでもよかった。しかしここからは、町のマンパワーの限界値などもあり、今までのように走り切るのは難しい」
「次のステージはある程度、町の課題を見せていくのが必要だと感じている。まちの課題を意識したつくり込みが必要、一方でつくり込み過ぎれば陳腐化していく可能性もあり、悩みどころである」
「しかしこれからは数ではなく、線の太いものを選んでいくことになる」と、富田町長は言う。
よこらぼのセカンドステージは町の課題を提示し、地域に果実をもたらすプロジェクトを選定していくということであろう。4年半にわたって民間、町民と交わってきた経験の中で、行政が地域課題を把握しているという自負がある一方で、課題を可視化しプロジェクトを募集して選定するというプロセスに時間をかければ、事業シーズとしては時すでに遅しとなることも認識していた。
地域課題の「鮮度」を失う前に民間企業と繋ぐことが重要である。第2回で述べた官民共創に不可欠な3要素である「天地人」は、この課題の鮮度維持に必要な要素であるとも言い換えられる。
神奈川県鎌倉市は、多くの企業と連携協定を結び取り組みを進めてきたが、一度立ち止まって考え直すタイミングに来たという。
「民間と連携するとき、市役所の職員は高い壁を感じている。公平性、透明性をどう確保するか?職員はそういう教えをずっとされてきている。不安があるので、できれば今のままがよい、やりたくないという前提がある。
そんな中で連携を進めていくので『何をやるのか決めてから進めましょう』では話がなかなかまとまらず、時間だけが過ぎていって、民間企業のスピード感からは待てずに他の自治体へ行ってしまう。
逆に協定を結んでから『何をやるか走りながら決めましょう』というケースも、やることがうやむやになって上手くいかなかった。
最初の段階でどこまで何をどうするのかを決めておかないと、後で『そこまではやると言っていない』『お金を出して貰わないとやれません』となる。一つか二つはどこまで何をやるのか決めてスタートするのが重要だ」と比留間部長。
民間との取り組みの中には、途切れてしまったものもあるし、今以上にもっと発展させられそうなものもある。鎌倉市ではそれら連携協定を一度すべて棚卸しして在り方を見直す「官民連携2・0」を進める。
「鎌倉市でやるという都市ブランドだけで来ている企業とはうまくいかない。そこを見極めたい。鎌倉市はこういう課題があって、ここに注力していると発信し、鎌倉の課題を一緒に考えてくれる企業と良い関係を築きたい」とのこと。
ブランド都市ならではの悩みとも言える。筆者の元に相談に来た企業の中にも「鎌倉市と協定を結ぶ」ことを目的とした所も存在した。そうした名誉協定は、広報的なメリットはあっても地域住民にとっての利はない。
故に鎌倉市は、「官民連携2・0では高齢化が進む中で、地域を見守るための協働などを促進したい」と話す。
すべての自治体が官民共創の扉を開けるように
こうした官民共創の先進自治体は民間企業や地域住民との対話と協働環境を構築することで、行政側にもオープンイノベーションのノウハウが蓄積されてきた。そしていよいよ地域への価値提供へと一歩踏み出したところである。
では今から官民連携を進めたい自治体はどうしたらよいのだろうか。一から自前で進めるのでは間に合わない。まずは自治体同士の横連携、官官連携から始めるとよいだろう。
福島県磐梯町は会津地域17市町村との横連携を進めている。磐梯町の改革の取り組みを講演や情報提供などを通じて各町村に横展開しているところである。
また、イベントの中で、磐梯町、横瀬町、鎌倉市はさらなる官官連携を進めていきたいとの意向を示していた。今後は自治体同士がノウハウを共有し、対話する場が必要となってくるだろう。
官民共創未来コンソーシアムでは、官民連携を官民共創へと昇華させるため、オープンイノベーションのプラットフォーム「CO─DO(コードゥ)」と、官と民をつなぐパブリック人材が伴走する仕組みを提供している。官同士の交流機能も提供しており、先行自治体との官官連携も可能である。
地域の課題をどうやって拾うのか、それをどうやって事業につなげるのか、そしてそうした取り組みを通して得た果実を地域にどう還元していくのか。民間と行政、両者とも解があるわけではない。
それは一緒に探すしかない。どちらか一方だけでは実現できない。そのため、社団では、行政が民間や地域との対話・交流を行いながら地域課題を把握するための人材育成・アクセラレーション(促進)プログラムを提供している。
自治体と地域と民間企業の3者が共にシーズとなる課題を洗い出し、事業を組み立てる。行政職員は民間や地域と協働の経験値を獲得でき、民間は事業化につながる課題を得ることができ、地域は起業促進や受注機会の獲得につながる「三方よし」の仕組みである。
これらのプラットフォームやプログラムを活用することで、後発自治体の官民共創の取り組みを短期間で先進自治体に近づけることができる。またこの仕組みは地域の若者に起業の機会を与えることにもつながる。
少子高齢社会を乗り越え、この国の住民が幸せに暮らすためには、各地域に産業を根付かせることが不可欠である。そのためにこうした場やノウハウは惜しむことなく自治体間で共有していく必要がある。
まず先進自治体や我々のような民間団体とつながることで官民共創への扉を開いてほしい。
(おわり)
【プロフィール】
小田理恵子(おだ・りえこ)
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事
神奈川県在住。大手SI企業にてシステム戦略、業務プロセス改革に従事。そこで手がけた自治体の行政改革プロジェクトを契機に地方自治体の抱える根深い課題を知る。未来の行政のあるべき姿を追求するため2011年より川崎市議会議員を2期8年務め、行財政制度改革分野でのさまざまな提言を行う。2020年、一社)官民共創未来コンソーシアムを立ち上げる。自治体と企業を繋いで、地域を都市と繋いだ価値循環の仕組みを支援。