ワクチン接種の予約システム、東京の民間企業と開発 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(1)~

堀江和博・滋賀県日野町長
(聞き手)株式会社Public dots & Company

 

2021/11/2  ワクチン接種の予約システム、東京の民間企業と開発 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(1)~
2021/11/5  ワクチン接種の予約システム、東京の民間企業と開発 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(2)~
2021/11/9  組織の心理的安全性の上に成り立つ挑戦 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(3)~
2021/11/12   組織の心理的安全性の上に成り立つ挑戦 ~堀江和博・滋賀県日野町長インタビュー(4)~

 


 

滋賀県東南部に位置する人口約2万人の町、日野町。かの有名な近江日野商人の精神「三方よし(売り手よし・買い手よし・世間よし)」が息づき、豊かな自然環境や歴史的文化財が魅力の町です。

そんな地方自治体の一つである日野町が、先般注目を浴びたニュースがありました。

東京の民間企業との共創により新型コロナワクチン接種のウェブ予約システムを開発し、わずか3カ月ほどで、町内での本格運用に至ったのです。

さらには、マイナンバーカードを利用したワクチン接種予約システムの実証実験に全国で初めて取り組まれました。

この事例は、各種メディアでも官民共創のレアケースとして取り上げられたため、ご存じの読者の方もいらっしゃることでしょう。

 

メディア取材時の様子(出典:堀江町長オフィシャルブログ)

 

今回インタビューを行った日野町の堀江和博町長は、37歳の若き首長です。民間企業や町議を経て、2020年7月に就任しました。

「明確な答えが存在せず前例が通用しない時代においては、恐れずチャレンジする姿勢こそが大事である」と公言する堀江町長は、自ら積極的に情報収集を行い、新たな自治体運営の姿を模索しています。

先述した東京の民間企業とのつながりをつくったのも、堀江町長の采配によるものであり、有言実行の姿勢を見せる首長の一人です。

本稿では、堀江町長が考える官民共創の意義や、持続可能な地方自治の在り方、そして、新型コロナワクチン接種のウェブ予約システムを実装するまでの過程についてお届けします。(聞き手=Public dots & Company)

中小規模の地方自治体にとって官民共創とは?

PdC 堀江町長は、民間企業にお勤めの経験を経て行政の世界に入られています。ということは、両者の組織風土も理解されていると思うのですが、行政と民間企業で最も違うと感じる部分はどこでしょうか?

今、全国で官民共創の機運が高まる一方で、民間企業との意見の食い違いに悩む自治体職員の方も多いと思います。参考までにお聞かせ願えますか?

堀江町長 「サービスを提供する対象」と「数字への落とし込み」の意識に大きなギャップがあると思います。民間企業は、最初にサービスを提供する対象者を定めます。そして例えば売り上げなど、何らかの目標数値を設定します。そうやって、ある程度範囲を絞り込んでから事業を展開していきますよね。

一方で行政の場合は、税金で事業を展開します。ということは、サービスの対象者は原則的には住民全員です。公共性や平等性を重要視されますから、何か一つを仕上げるにしても、あらゆる層の人たちが利用できるものにしなければなりません。

ですから行政と民間企業では、事業の「とがらせ方」と、成果に対する捉え方に大きな違いがあると思います。

 

PdC 確かに事業のスコープに関しては、官民の意識のギャップは大きいですね。

さて今回のインタビューでは、堀江町長の視点での官民共創について伺っていきたいと思います。日野町は官民共創にとても熱心に取り組まれていて、新型コロナワクチン接種のウェブ予約システムの導入や、その発展形であるマイナンバーカードを使ったワクチン接種予約システムの実証実験を民間企業と行っています。

この事実に対して、読者の多くは「経済の中心地からそれなりに距離のある地方自治体で、どのように官民共創を行うのか?」や「中小規模の地方自治体が官民共創をする必要があるのか?」のような疑問を感じるはずです。

まずは、日野町という人口約2万人規模の自治体が官民共創を行う意味について、堀江町長のお考えをお聞かせいただけますか?

堀江町長 中小規模の自治体は政令指定都市のような大きな自治体に比べて、予算とマンパワーに限りがあります。大きな自治体であれば人材も豊富ですから、その中から特別チームを編成したり、適材適所にリソースを振り分けたりできるかもしれません。

しかし、中小規模の自治体はそこまで自由度は高くなく、予算も人員も限られる中でいろいろな事業を展開していくことになります。すると必然的に、1人の職員があらゆる業務を掛け持つ状態になります。そんな中、目の前に生じる課題はどんどん複雑多様化しているわけです。率直な表現をすると、もはや自治体単独では課題を解決できません。

ですから、どこに活路を見いだすかというと、やはり民間の方々の知恵です。住民、企業、団体など、地域内外、営利・非営利を問わず、いかに多くの民間の方に参画していただくか?そういう視点が大切ではないかと思います。

役所の「外」でできること

PdC 堀江町長のようなマインドセットの首長であればいいのですが、そうではない自治体の場合、官民共創の必要性を感じて悩んでいる職員の方は何をすればいいと思いますか?

堀江町長 首長の方針は小さい自治体であればあるほど影響力があります。トップの理解があれば事業にもすぐ着手できますから、何か変革を起こす際の前提条件にはなります。仮に首長にそのマインドがない場合、時間はかかってしまうかもしれませんが、小さなアクションから始めるほかないと思います。

例えば、同じ意識を持つ職員同士で勉強会を開催したり、役所の外でつながりをつくったり、情報収集をしたりなどです。役所の外でできることはたくさんありますから、まずは動いてみることが大切ではないでしょうか。

 

PdC なぜ、官民共創に対して意欲を持つ首長と、そうでない首長がいるのか? と考えたときに「選挙のテーマになりにくい」という答えが一つあると思います。仮に掲げたとしても、マニフェスト(政策綱領)の最初にはこないテーマです。ですから、官民共創に対して熱心に取り組む首長が就任するというのは、偶然に近いものがあるのではないかと思うのですが。

堀江町長 首長自身のバックグラウンドから、今まで培ってきた特性や、共創しそうな団体はある程度推測できると思います。例えば民間企業での勤務経験のある方が首長になると、やはり役所内でも官民共創について議論を積極的に行う傾向にあると思います。

もちろん民間経験がなくても、意識の高い方もおられるので一概には言えませんが。伊藤さんがおっしゃるように、確かに官民共創はマニフェストの最初にはこないテーマかもしれません。

 

第2回に続く


【プロフィール】

堀江 和博(ほりえ・かずひろ)
滋賀県日野町長

1984年生まれ。滋賀県出身。立命館大卒業、京都大公共政策大学院修了。民間企業、町議を経て2020年7月に第6代日野町長に就任(県内最年少首長)。住民、企業、NPOなどとの共創関係を築き、新しい発想で課題にアプローチしている。

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