元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO 樋渡啓祐
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役/官民共創未来コンソーシアム代表理事 小田理恵子
2022/05/18 首長のセカンドキャリアとは ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(1)~
2022/05/20 首長のセカンドキャリアとは ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(2)~
2022/05/24 官民のルールを知り尽くした先に挑む事業展開 ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(3)~
2022/05/27 官民のルールを知り尽くした先に挑む事業展開 ~元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡啓祐氏インタビュー(4)~
社会問題の解決が本分
小田 これまで3回に渡ってインタビューして参りましたが、樋渡さんの在り方はエッジが立っていて、どのお話もとても面白いです。
樋渡氏 僕は15年に佐賀県知事選に落選し、いわゆる「負けた政治家」になったわけですが、その後でも素晴らしい人生を歩めるということを体現したいと思って活動しています。その方法は、やはり社会問題を解決することです。そこでしっかりと収益を得ることです。
今の所得は市長時代の10倍以上になりましたが、基本的に稼いだお金は寄付したい。手元には自分が生活できるくらいの金額と、一緒に働いてくださる方の賃金分があれば十分です。
その他は例えば動物保護施設や児童養護施設など、頑張っているけれども、なかなか自分たちで収益を上げることが難しいところにお渡しします。先日、大阪府東大阪市長のフェイスブックを拝見し、3月に市内の子ども食堂や児童養護施設に1700食分のカレーパックを持って行きました。こんなふうに、困っていらっしゃるところにどんどん寄付していきたいです。
完成形より修正形
小田 前回のインタビュー中「循環」というキーワードが出てきました。樋渡さんが考える都市部と地方の循環とは、どのようなものでしょうか?
樋渡氏 「都市」「地方」という枠組みはあまり意味がないと思っています。先ほど構想をお話ししたコロナワクチンのプラットフォームについても同じで、大きな都道府県も小さな町村も同じ土俵の上に乗るイメージです。「都市」「地方」というように分けると、「あれは都市部だからできた」「あれは地方だからできた」という言い訳になります。言い訳をして逃げ道をつくっても何も進まないので、切り分ける必要はないと思います。
小田 その視点はとても面白いですね。
樋渡氏 よく「うちは田舎だから……」という意見を耳にしますが、田舎には田舎の強みがあります。都会より競争が激しくない分、勝率が上がります。一方、都会はマーケットが大きいので、それが強みになります。
ないものに目を向けるのではなく、今そこにあるさまざまな強みに着眼し、それを伸ばす意識が必要です。大きいとか小さいはあまり関係ないと思います。強みは伸ばし、弱みは合従連衡で補うとした方がいいのです。人は弱みばかりを見ると暗くなるし、長続きしません。
小田 確かにそうですね。一方で強みも弱みも、行動してみないと見えてこない部分がありますよね?
樋渡氏 僕が自分の強みだと思っているのは、先に物事を深く考えないことです。いったん行動してみて、それから考える。いつもこのパターンです。日本はそんな動き方に対し、長らく弱みだとか、恥ずかしいとする見方をしてきました。だから、こんなに衰退してきているのだと思います。
僕はよく「あれはどういう意図があって動いたのか」と質問されます。武雄市長時代の図書館改革や病院の民営化もそうでした。答えはいつも決まっていて、「動いた後に考えます」です。むしろ考えることは大学教授や評論家の仕事だと思っていますから、僕の仕事はとにかく動いて形にすること、これに尽きます。これは社会人としてスタートした官僚時代から全く変わりません。
小田 日本は、成功するイメージが100%見えないと動かない人がとても多いと思います。しかし、そういったケースは既にビジネスとしても、他の自治体の取り組みとしても、形になっていることが多いです。これからの時代は、失敗を恐れずにどこまで行動するのかというマインドが必要ですね。
樋渡氏 コツは二つあります。まずは失敗を楽しむことです。失敗しても命を失うわけではないので、楽しんだ方がいいです。
もう一つ大事なことは、完成形より修正形を重んじることです。武雄市図書館の改革は当初5年かかるといわれていましたが、5カ月で行いました。だから、オープンのときは不完全な部分がたくさんあったのです。でも7割の完成度でいいから世に出そうと判断しました。後の3割は、実際に訪れた来館者にいろいろとご指摘いただきながら改善していこうと。
完成形より修正形です。これからは「修正する喜び」を皆さんに味わっていただきたいと思いますね。
小田 時代の変化が予測できない中でどう動くのか。これからの自治体にとって、とても重要な問いになると思います。樋渡さんのように、まずは動いてから考える自治体が今後増えるといいですね。ちなみに、現在も首長をはじめとした自治体関係者の方とつながりはあるのですか?
樋渡氏 全国の首長が150人ほど集まるLINEグループを運営しています。これもプラットフォームですね。面白い取り組みをしている市長や知事は大体参加しています。そこからまた紹介があって、人数が増えている感じです。
通常のコミュニケーションだと、間に秘書課などが入ります。だから首長同士の意思疎通が難しい場合もあります。なので、もっと距離が近いコミュニケーションができるようにと、LINEグループをつくりました。おかげさまで皆さん、とても仲が良いですし、不定期で勉強会などもオンラインで開催しています。
コロナ禍になったことで、こういうデジタルプラットフォームがつくりやすくなりました。LINEを気軽に手軽に使うところが、僕の得意分野である「組み合わせ」です。
小田 素晴らしいですね。とても活発なコミュニケーションが交わされている印象を受けます。
樋渡氏 参加メンバーが1対1でつながることができるのが大きいです。もちろん全員に向け、「1対N」の配信をすることもありますが、やはりコミュニケーションとしてうれしいのは1対1ですよね。こんなふうに、1対1も1対Nも同時並行できるのが今の時代の強みだと思います。
小田 樋渡さんが今されている活動は(売り手良し、買い手良し、世間良しの)「三方良し」ですね。そこも重要なポイントだと思います。
樋渡氏 役人を12年、首長を9年、民間を7年経験していますから、何でもご相談に乗っていきたいと思っています。「日本の地方創生の母」のような役割を果たしたいですね。
小田 「首長のセカンドキャリア」というテーマでお話を伺ってきましたが、本当に金言あふれる内容でした。
【編集後記】
まるでジェットコースターのような自身のキャリアを終始、軽快に語ってくださった樋渡氏。あっという間のインタビューでしたが、その中には今の日本社会全体に必要なメッセージが散りばめられていたように感じます。
「失敗を恐れず、むしろ楽しむ」「動いた後に考えればいい」。これらは頭では理解しているものの、実際に「自分ごと」として捉えるには相当の勇気と覚悟が必要です。樋渡氏はそれを自らのセカンドキャリアで体現し、わだちなき道を開き、ロールモデルをつくろうとしています。
この日本において、全く後ろ髪を引かれずに挑戦できる環境が整うのはまだ先のことかもしれません。しかし、その未来にたどり着くスピードは、今の私たち一人ひとりが持つマインドや行動で決まると言えるでしょう。本稿が、読者の「今」に良い変化を与えるきっかけになれば幸いです。
(おわり)
【プロフィール】
元佐賀県武雄市長、現樋渡社中Founder & CEO・樋渡 啓祐(ひわたし けいすけ)
1969年佐賀県武雄市生まれ。93年総務庁(現総務省)に入り、大阪府高槻市市長公室長などを経て、2005年退職。06年、当時全国最年少の36歳で武雄市長に就任。3期目の途中に辞任し、15年1月の佐賀県知事選に出馬するも落選。現在は樋渡社中株式会社代表取締役として、まちづくり支援などを手がける。