市民に「責任」「自立」を促すリーダーシップ~片岡聡一・岡山県総社市長インタビュー(1)~

岡山県総社市長 片岡聡一
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2023/06/27 市民に「責任」「自立」を促すリーダーシップ~片岡聡一・岡山県総社市長インタビュー(1)~
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2023/07/05 何よりも「人の幸せ」を最優先に~片岡聡一・岡山県総社市長インタビュー(4)~

 


 

岡山県の南部に位置する総社市。2005年に旧山手村、旧清音村と合併して現在の姿になった時点での人口は約6万7000人でしたが、今では約7万人となっています。この人口増加の要因について調べたところ、07年に就任した片岡聡一市長が手掛けた政策にあるのではないかとの仮説にたどり着きました。

同市では「障がい者千人雇用」()や「有料ごみ袋変動相場制」など、ユニークな取り組みが行われてきました。その背景にあるのは、誰に対しても寄り添う多様性・多文化共生の心と、市民の自立を促す働き掛けです。

今回は、そんな政策を打ち出した片岡市長の政治信条に迫ります。(写真)(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

=2011~15年度の5年間で、障がい者1000人の雇用を目指すプロジェクト。目標値は、11年4月1日時点で市内に居住する身体、知的、精神障がい者のうち、一般的な就労年齢といわれる「18歳以上65歳未満」の人数が約1200人だったことに由来する。取り組みを始めた当初の就労者数は180人だったが、17年5月に目標を達成した。

 

写真 片岡市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

マイノリティーのために働く

小田 片岡市長の政策からは、多様性や多文化共生の意識を強く感じます。特に「障がい者千人雇用」政策は、実際に1000人の雇用を達成し、現在は「障がい者千五百人雇用推進条例」が施行されるまでに発展しています。多様性や多文化共生を重んじる背景には、どのような考えがあるのでしょうか?

片岡市長 国の定めがあやふやで、地方自治体に委ねられている課題が幾つかあります。性的少数者(LGBTQ)への対応、引きこもり支援、さらには多文化共生、そして障がい者の雇用です。

マイノリティーに該当する方々の住みやすさが自治体によって異なるのは、国として問題です。本来ならば、これらは国がしっかりと注力すべき分野なのですが、何せ「実際の現場」から離れているため、きめ細かな施策にはなりづらいのです。

彼らの置かれている状況や困り事を最もよく知っているのは「実際の現場」です。ですから総社市は徹底的に取り組み、多様性や多文化共生の政策を得意分野にしていこうとしています。一つの市でこれだけのことができると示せば、他の自治体も手を挙げるようになり、ひいては国全体に広がりをみせると信じています。

 

小田 17年9月に「千五百人雇用条例」を施行し、引き続き官民協働で障がい者雇用の促進に取り組んでいます。現状はいかがですか?

片岡市長 今年3月1日時点で1274人になりました(図1)。この取り組みを始めた当初、企業は障がい者の雇用を嫌がりました。やはり足手まといになるという意識が強かったのでしょう。

しかし実際に雇用してみると、他の従業員が思いやりを見せるようになり、組織全体の雰囲気も良くなりました。その結果、企業の団結力を高めることにつながりました。今では市の企業は、障がい者を貴重な戦力として見ています。

 

図1 障がい者の雇用数の推移は公表されている(出典:総社市ウェブサイト)

 

小田 組織変容が起こったのですね。障がい者の1000人雇用を目指すと宣言した当時、職員からの反応はいかがでしたか?

片岡市長 できない理由をとにかく訴えられました。障がい者の雇用は当時、厚生労働省が管轄するハローワークの専権事項で、自治体には就労あっせん権がなかったのです。しかし、障がい者の方々が実際に住んでいるのは総社市です。最も身近な基礎自治体が何もしないことに違和感がありました。ですから反対の声はあったものの、このままではいけないと考え、スタートさせました。

 

小田 片岡市長の正義感と、人への愛が伝わってきます。

片岡市長 政治家である以上、マイノリティーの方々のために働くことを躊躇してはならないと考えています。障がい者雇用を着実に進めてきたことで、最近うれしいニュースが二つもありました。

一つは総務省が選ぶ「ふるさとづくり大賞」の自治体表彰を受賞したことです。もう一つは、受賞のハードルがとても高いとされている「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の特別賞を、自治体としては全国で初めて受賞したことです。

これは総社市で働く障がいのある方はもちろん、そのご家族やサポートしてくださる事業所の方々、さらには障がい者雇用を理解し、応援してくださる市民、みんなで受賞した賞です。これは本当にうれしかったし、これを励みに一層、寄り添っていきたいですね。

 

信頼し、託す

小田 片岡市長は強いリーダーシップを発揮する一方で、市民との対話を重視されているという印象を受けます。市が21年3月にまとめた第2次総合計画・後期基本計画の序文に、その姿勢を示す一文があります。「多くの意見を伺い、皆様とともに考え、一緒に後期基本計画を作り上げました」という部分です。

また、19年まで実施されていた「ガラス張り公開市長室」(市民が市長に対し、意見や提言を直接伝えることができる集会。新型コロナウイルス禍で現在は休止)の開催記録を拝読したのですが、市民のあらゆる意見を受け止め、市の方針や市長の思いを明確に伝える様子が印象的でした。

片岡市長 市長就任後にまず着手したのが、市民と職員の立ち位置や関係性を明確にすることでした。職員だけが仕事をするのではなく、市民と協力して社会をつくっていきたかったからです。ですから、お互いにまちの将来に責任を持つという意識付けを行ってきました。

職員に対しては、しっかりとした人事評価制度に基づき、評価を行っています。評価制度は経済産業省のモデルを参考に、コンピテンシー(優れた成果を生み出す個人に共通する行動特性)を重視して作成しました。一方で、市民に責任を持っていただく取り組みにもトライしてきました。

 

小田 市民の責任とは、例えばどのようなことでしょうか?

片岡市長 まずトライしたのは「有料ごみ袋変動相場制」の導入です。市民が出すごみの総量の増減によって、ごみ袋の値段を上げたり下げたりする仕組みです。ごみの総量が増えたら値段が上がり、減ったら値段が下がります。

提案当初は「私たちの税金で成り立っている市が、そのような協力を強いるのはおかしい」と市民から猛反発を受けました。それに対し、私は「ごみを減らす努力をして、ごみ袋の値段を下げるという結果を市から勝ち取ってください」と伝えました。そうしたところ、ごみの総量がどんどん減っていき、結果としてごみ袋の値段も下がる社会ができたのです。

 

小田 それは面白い取り組みですね。

片岡市長 「有料ごみ袋変動相場制」がうまくいったので、さらに違うこともできると確信しました。そこで「地域づくり自由枠交付金(旧・地域づくり一括交付金)制度」を設けました(図2)。これは、従来の補助金制度に付き物だった「使い道の制限」を取り払ったものです。

市域を17の小学校区などに分け、各地域の人口規模や道路・水路延長、自主防災組織の構成世帯数などに応じて算出した金額を一括で交付します。お金の使い道を市から指定することはなく、その地域の判断に委ねます。次年度に繰り越すこともできます。名称通り、自由に使える交付金です。

これを始めた結果、市民の創意工夫が見られるようになりました。例えばある地域では計画的に積み立てて、防犯灯を一斉にLED(発光ダイオード)化したり、防水型掲示板を整備したりしました。なるべく余計な出費をしないようにと、地域内でボランティア活動が促進されました。従来の補助金制度のときに起きていた「陳情合戦」も、ぴたりとやみましたね。

 

図2 地域づくり自由枠交付金の仕組み(出典:総社市ウェブサイト)

 

小田 市民の中で、補助金に対する考え方が切り替わったのですね。

片岡市長 従来は行政が使い道を決め、申請したら交付しますよ、という「施し」の仕組みだったのです。これでは市民の発想力が一向に高まりません。それどころか、補助金の取り合いになることもあります。

市民を信頼し、「自分たちでできることは、できる限り行ってください」とお金を託す方が、皆さんの自立性が高まります。その分、行政の仕事を減らせるので、国から要請されなくても役所のスリム化ができます。

 

小田 まさに、市と市民が協力して社会をつくってきたのですね。「市民にも責任を」と聞くと、市民の負担が増すように感じますが、市民アンケートの結果を確認して驚きました。

「市政に市民の声が反映されていると思うか」の問いに対し、16年は「よく反映されている」「どちらかといえば反映されている」が計27%でした。それが20年には47.1%に上昇しています。市民に自立を促すことが、市政に対する満足度の向上につながっています。

片岡市長 「市民の考えが市政に反映されている」というよりも、「市民が考えたやり方が市政に反映されている」と表現した方が正しいですね。市民と職員の立ち位置や関係性を明確にしたことで、互いに自立性が生まれるようになってきたのだと思います。このように、地域全体が自立する方向に変えていきたいと考えています。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年5月15日号

 


【プロフィール】

岡山県総社市長・片岡 聡一(かたおか そういち)

1959年、岡山県総社市生まれ。青山学院大法卒。84年橋本龍太郎事務所に入り、首相公設第一秘書、行政改革・沖縄北方担当相秘書官を務める。2007年総社市長に就任し、現在4期目。

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