福岡県古賀市長 田辺一城
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2023/09/13 より豊かな社会を先の世代につなぐ~田辺一城・福岡県古賀市長インタビュー(1)~
2023/09/15 より豊かな社会を先の世代につなぐ~田辺一城・福岡県古賀市長インタビュー(2)~
2023/09/18 クロスオーバーによる共創のまちづくり~田辺一城・福岡県古賀市長インタビュー(3)~
2023/09/21 クロスオーバーによる共創のまちづくり~田辺一城・福岡県古賀市長インタビュー(4)~
第1回、第2回に引き続き、福岡県古賀市の田辺一城市長のインタビューをお届けします(写真1)。今回はまちづくり施策について伺いました。市の将来を考えての勇気ある決断や徹底した現場主義など、田辺市長の熱量と胆力が感じられるエピソードが満載です。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)
(写真1)田辺市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)
道の駅を「つくらない」決断
小田 縮退社会における都市経営では、これまで以上に政策の取捨選択や優先順位付けが迫られます。田辺市長は就任1年目に、前市長時代から検討されていた「道の駅」の建設を「しない」という決断を下しました。そこに至る経緯や理由は何だったのでしょうか?
田辺市長 前市長の時代から「観光・物産と情報発信の機能を強化しなければならない」という課題認識があり、私もそれを共有していました。何もしなければ、その課題は解決しません。そこで前市長は、課題解決の手法として道の駅の建設を検討していました。
私は前市長にはお世話になり続けていますし、課題認識も正しいと思っています。しかし公共施設である道の駅をつくるとなると、コストや持続可能性の問題が付きまといます。道の駅を整備しなくても、観光・物産と情報発信の拠点機能の確保ができるのではないかと、もろもろの判断材料を集めて検討しました。担当課にも頑張ってもらいました。
結果、私が市政課題の「一丁目一番地」と位置付けているJR古賀駅周辺の再開発と、既存の公共施設に入っている農産物直売所の機能強化、そして民間活力の導入による開発との連動で、道の駅に期待されていた成果を出し得ると考えました。最終的には総合判断でした。
小田 ハレーションは起きませんでしたか?
田辺市長 いろいろな声がありました。ですので、私の考えを書いた文書を回覧板で全市民に届けました。観光・物産と情報発信の拠点機能を強化する視点はこれからも必要であること。それを民間活力の導入で具現化していくこと。主にこの二つについて書きました。
小田 市ホームページの「市長の談話」コーナーにも、「道の駅の整備可否の方針決定と今後の方向性について(令和元年8月26日)」とのタイトルで掲載されていますね。
「私の市長就任前から検討していた『道の駅』について、本日、『整備しない』という決定をしました」「道の駅の整備可否の方針決定と今後の方向性について以下、自治体経営者である市長としての責任において記す」と言い切るところに、田辺市長の強い意思を感じます。
田辺市長 こうしたメッセージは自分で思いを込めて書いています。施政方針もまずは自分で書きます。
小田 首長自身が言葉を大切にしながら書かれたものは、伝わり方が違いますね。
田辺市長 もともと新聞記者でしたから、言葉は大事にしています。政策を理解していただくのも大事ですが、やはり理念をどう伝えるかです。
小田 民間活力を導入するというお話がありましたが、現在はどうなっているのですか?
田辺市長 道の駅が立地すると想定されていた場所にはその後、株式会社ピエトロ(福岡市)の新工場が建つことが決まり、造成が始まっています。「コト消費」の機能を盛り込んでほしいと私がオーダーしたこともあり、食育イベントや料理教室などの場としても活用できるレストランが併設されたり、恒常的な工場見学ができるようになったりします。2025年秋に稼働予定です。
小田 道の駅をつくらないという決断には、相当な覚悟が必要だったと思います。
田辺市長 最終的に結論を出すときには、かなり懊悩しましたね。就任して1年目に下した決断だったこともあり、首長とはこういう仕事なんだと厳しさを味わいました。ただ、腹を決めてやるしかないと思いましたね。
チャレンジできるのは今しかない
小田 古賀市では現在、新たな開発を6地区で同時並行に進めています。この規模感とスピードには驚くばかりなのですが、それぞれどのような目的なのでしょうか?
田辺市長 工業団地と物流団地で五つ、残りの一つは居住機能強化という名目で住宅団地の造成を進めています。工業団地や物流団地として、今在家地区(約21.1ヘクタール)、青柳大内田地区(約18.9ヘクタール)、青柳釜田地区(約6.8ヘクタール)、青柳迎田地区(面積未定)、新原高木地区(同)。住宅団地として、新久保南地区(同)の計画を進めています。この規模の開発を六つ同時に行う自治体はなかなかないと思います。
小田 開発を進めるに当たっては、地元や県との調整で苦労もあるかと思います。
田辺市長 担当職員が地元との調整を含め、頑張っています。先んじて一つ投げたら、複数が返ってくるような働き方をしてくれています。県との調整も重要です。現職県議のご尽力が大きいのはもちろん、私が以前に県議だったこともあって関係は良好です。この点も非常に前向きに作用していると思います。
小田 これほどのスピード感を持って開発を進める理由は何でしょうか?
田辺市長 10年間のまちづくりの指針となる「第5次総合計画」が昨年度にスタートしました。そこでは、10年後に人口規模を維持する未来を描いています。現在の古賀市は社会増が自然減に追い付かなくなっており、人口は微減傾向です。この10年の間に持ち直しを図ろうとしており、そのために開発を進めています。
10年後から先は、たとえ福岡都市圏であろうとも人口が大きく減っていくことでしょう。それを考えると、産業力強化のための開発も、中心市街地活性化のための駅周辺の開発も、今やらなければならないと思っています。いずれは社会状況が、それを許さない時期が訪れます。やるなら今しかないのです。それくらい日本は、人口減少を含めて社会の縮小という意味では非常に厳しい局面にあります。
今チャレンジができるのは、むしろ恵まれています。福岡都市圏にある優位性や偶然性を生かしたい。「最後の」とは言いたくないですが、この客観状況からすると、今を逃したら今後はチャレンジすらも、しにくくなるとみています。なので今、必死に取り組んでいるところです。
小田 福岡都市圏でも、あと10年という危機感なのですね。他自治体では、もっとシビアな時間感覚が予想されますね。
田辺市長 稼働年齢層の絶対数が減りますから、縮小は避けられないですよね。都市圏も例外ではありません。将来はどの自治体も間違いなくチャレンジがしにくくなりますが、そうならないように地域づくりを少しでも息長くできるような意識が必要です。
(第4回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年8月21日号
【プロフィール】
福岡県古賀市長・田辺 一城(たなべ かずき)
慶大法卒。2003年毎日新聞社に入り、記者として活動。11年福岡県議選に初当選(15年再選)。18年同県古賀市長選に初当選し、現在2期目。