「課題解決」「価値向上」のスマートシティ構想~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(2)~

兵庫県加古川市長 岡田康裕
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/01/15 「課題解決」「価値向上」のスマートシティ構想~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(1)~
2024/01/18 「課題解決」「価値向上」のスマートシティ構想~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(2)~
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2024/01/25 すべては市民の幸福感向上のために~岡田康裕・兵庫県加古川市長インタビュー(4)~

 

「デシディム」を国内初導入

小田 市のスマートシティ構想でもう一つ注目されているのが、国内初導入となった「加古川市版Decidim」です。これはまちづくりや政策に対し、市民がオンライン上でオープンかつ気軽に意見を投稿できる参加型のプラットフォームです()。どういう経緯で導入に至ったのでしょうか?

岡田市長 当時のスマートシティ推進担当が一般社団法人コード・フォー・ジャパンの代表理事の方たちとつながりを築き、持ち込んでくれました。スペイン・バルセロナで開発されたこのプラットフォームは、世界30カ国以上の自治体で活用されています。

もともと加古川市は情報のオープン性や市民参画をかなり重視していました。例えば私の1期目の4年間には事業の妥当性や必要性を公開の場で議論し、市民評価委員にご評価いただく「公開事業評価」を行っていました。

このように市民が政策作りや事業の企画・実施に主体的に関わった方が、より良いまちづくりができると考えていました。デシディムの話を担当者から聞いたときは「近い将来、このようなツールが日常生活で当たり前に存在するようになるのではないか」と直感し、すぐに導入を決めました。

 

(図)加古川市版Decidimの参画ステップ(出典:加古川市)

 

小田 市役所内や議会から反発は出なかったのですか?

岡田市長 当初から面白そうだと感じた職員も多かったはずです。議会からの反発も耳にしませんでした。議員の方々も身近な支援者だけでなく、全市的な声を聞くためには有用なツールだと感じられたのだと思います。これを使えば市民は市政に対し、スマートフォンから気軽に意見が投稿できるようになり、われわれ行政側はその声を政策に反映できるようになります。

誰にとっても良い話でしたから特段、反対意見は出ませんでした。

 

小田 どんな議題が掲載されているのですか?

岡田市長 現在はJR加古川駅周辺のにぎわいづくりのアイデアやご意見を募集しています。過去には公民館と子育てプラザの複合施設の名称や、スマホ講座に関するご意見を募集しました。市のスマートシティ構想に対するご意見も定期的に募っており、それを踏まえて構想をブラッシュアップしています。

デジタルツールは、導入することが目的ではありません。あくまでも市の課題を解決したり、暮らしの価値を高めたりするための手段です。ならば市民の声をしっかりと拾い上げ、共につくる体制を築く必要があります。加古川市版デシディムはそのために一役買っています。

 

小田 若い世代の政治参画にもつながると思います。登録者の年代層に特徴はありますか?

岡田市長 登録者の約4割が10~20代です。現段階では、自然と登録者数が増える状況にはありません。担当者らが積極的に高校に出向くなどして宣伝してきた経緯もあり、そのような傾向がありますが、若い人たちが市政に興味を持つきっかけになっていると思います。

デジタルが苦手な層に対しては(以前からある)オフラインのワークショップ(リアルな機会)でご意見を頂くようにしています。そのときは(オンラインの)デシディムに寄せられた意見を開示しています。逆にワークショップで出た意見はデシディムにアップロードし、公開しています。このようにオンラインとオフラインの両方で、市民の意見を収集するようにしています。

 

職員の自己研鑽を制度で支援

小田 加古川市のスマートシティ構想の陰には、当時の担当者の尽力があったと伺いました。その職員はどんな能力を発揮したとお考えですか?

岡田市長 やはり人間力だと思います。彼はデジタル技術の専門家ではありませんでしたが、市民の声や民間事業者のさまざまな提案の中から大切なものを見いだし、市役所の中で周囲の理解を得て、迅速に実現できるように動いてくれました。今でも外部アドバイザーとして市に関わっていただいていますが、本当に頼りになる存在です。

 

小田 良いモデルになる職員がいると、人材育成や人事評価の面でも気付きがありそうですね。

岡田市長 彼のような積極的な職員がどんどん出てくることが理想です。そのための仕組みとして、例えば「職員提案制度」を設けています。これは、市長や副市長の前で職員がアイデアをプレゼンテーションする機会です。

聞く側のわれわれ幹部としても、良い提案であれば補正予算を編成してでも実現しようとしています。「職員提案から新たな取り組みが生まれた」ことを記者会見などでもあえてPRし、提案者に少しでもスポットライトが当たるよう心掛けています。

他に「資格取得支援制度」を22年度に始めました。対象となる資格は当初、47種類でしたが、23年10月に22種類を追加し、現在は計69種類となっています。参考書購入や受験料などの半額補助を行っており、自分が所属する課の仕事と関係ないものであっても、他部署に関係する資格であれば補助対象となるルールで運用しています。意欲ある職員の自己研鑽を応援する仕組みです。

 

小田 やる気がある職員のモチベーションをさらに高くする仕組みですね。

岡田市長 長い人であれば30~40年もの間、庁内で働くことになります。職業人生の大部分をここに費やしていただくわけですから、働くことを通じて自ら幸せになってほしいと考えています。そのためには「自分のやりたいこと」を見つけることが大切だと思います。それが途中でどんどん変化・進化していっても構いません。

常に何か目標を持ち、新しいことへの挑戦や自己研鑽をする文化が根付けば、やがてアイデアや提案という形になって表出してきます。結果として市民サービスの向上につながれば、と考えています。職員研修では、いつもそういう話をしています。

 

小田 加古川市のスマートシティ構想の背景には「まちの課題解決と市民生活の価値向上」という、揺るぎない軸があることがよく分かりました。目的が明確だったからこそ、単なるツールの導入に終わらず、アウトカム(成果)が生まれるところにまで至っているのですね。構想は市民の声を踏まえ、アップデートしていくとのことなので今後の展開が楽しみです。

次回は組織づくりや人づくりについて伺います。

 

第3回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年11月27日号

 


【プロフィール】

兵庫県加古川市長・岡田 康裕(おかだ やすひろ)

1975年生まれ。米ハーバード大学院修士課程修了。経営コンサルティング会社勤務などを経て、2009年8月~12年11月衆院議員。14年6月兵庫県加古川市長選に初当選し、現在3期目。

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