「ロジック」と「ハート」のバランス感覚~片山象三・兵庫県西脇市長インタビュー(3)~

兵庫県西脇市長 片山象三
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/02/21 「か・け・ふ」の自治体経営~片山象三・兵庫県西脇市長インタビュー(1)~
2024/02/23 「か・け・ふ」の自治体経営~片山象三・兵庫県西脇市長インタビュー(2)~
2024/02/28 「ロジック」と「ハート」のバランス感覚~片山象三・兵庫県西脇市長インタビュー(3)~
2024/03/01 「ロジック」と「ハート」のバランス感覚略~片山象三・兵庫県西脇市長インタビュー(4)~

 


 

第1回第2回に引き続き、兵庫県西脇市の片山象三市長のインタビューをお届けします(写真)。

経営者時代の経験と知見を生かし、「か・け・ふ」(注1)の考え方を市役所内で共有する片山市長。組織のトップとして、関係者と方向性を合わせる「ベクトル合わせ」を常に意識していると語ります。それを象徴するエピソードとして、市内の民間事業者や町内会の協力を得て実施したマイナンバーカードの普及策が紹介されました。この取り組みにより、県内の全41市町で下から2番目だったカードの普及率が、1年弱で上から2番目へと躍進したそうです。

そんな片山市長の柔軟な発想力や関係構築力に今回も迫ります。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

注1=伊藤忠商事が掲げる「商いの三原則」。「か」は「稼ぐ」、「け」は「削 る」、「ふ」は「防ぐ」を意味する。片山市長はこれを市政運営に当てはめ、①情報や財源、市民満足度、市のブランドイメージを「稼ぐ」②業務の無駄を「削る」ことで、行政ならではのコア業務に集中する③不祥事や業務上のミス、自然災害、事故を「防ぐ」ため、リスクを可能な限り予測し、事前に対応しておく──ことが必要だと説く。

 

ワクチン接種会場でマイナンバーカード申し込み

小田 前回のインタビューを通じ、片山市長の強みは方向性を提示すること、あらゆる立場の人々を巻き込みながら物事を進めることではないかと感じました。

片山市長 現場の様子を見ているとヒントが得られます。例えばコロナ禍でワクチン接種が始まった頃のことです。ある日、接種会場を見に行くと、予想以上に混雑していました。特に車椅子を利用されている方の対応に職員の手が回っておらず、混乱を来していました。そこで私も会場運営に加わり、車椅子の方の介助や待ち時間中のコミュニケーションを行いました。

そうこうしているうちに、はたと気付いたのです。市民の皆さんはワクチン接種のためにわざわざ会場まで足を運んでくださいます。しかも本人確認証を持参してです。そして接種後は、最短でも15分間はその場で待機することが必要です。

であれば、待ち時間を使ってマイナンバーカードの申し込みをしていただくことが可能ではないかと。ワクチン接種の担当職員に提案してみたところ、最初はとても嫌な顔をされました。

 

小田 その発想はなかなか思い付かないですね。

片山市長 市民の皆さんの時間が節約できますよね。ですから、これは実施しようということで医師会の先生方の承諾を得て、ワクチン接種とカードの申し込み受付を同時に行ったこともありました。

 

小田 西脇市でマイナンバーカードの普及が進んだ背景には、そんな取り組みもあったのですね。

片山市長 県から「急に普及率が伸びたが、どうしたらこんなことができるのか?」と質問されました。

 

※写真 片山市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

 

市庁舎の敷地内に医師会館

小田 市と医師会の関係性について伺います。他自治体では両者の意見が食い違うことがよくあると聞きますが、西脇市では良好な関係が築けているということでしょうか?

片山市長 市庁舎の敷地内に医師会館が併設されています。市立西脇病院と医師会の先生方の関係は良好で、連携も取れています。

 

小田 市庁舎の敷地内に医師会館が併設されているのは、全国的にも珍しいですね。

片山市長 医師会からの提案を受けて実現したことです。相互に連携が取りやすいよう、歯科医師会と薬剤師会にもお声掛けいただき、地域住民の保健、医療、福祉の向上に資する施設として医師会館を建設しました。しかも医師会からは建設負担金として1億円の寄付を頂きました。

この体制が功を奏したのが、コロナ禍のワクチン接種のときです。医師の方々とスムーズな情報共有ができましたから、非常に助かりました。

 

小田 強い信頼関係が結ばれているのですね。

片山市長 地域を思うお気持ちと使命感のある先生方に恵まれていると思います。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、市立西脇病院に発熱トリアージ外来を設けたときも、医師会の先生方に助けていただきました。

皆さん、開業医ですから、罹患したら経営の保証はありません。そんなリスクを抱えながらも「地域医療を守るのが医師会の役目だ」とおっしゃって、診察に当たってくださいました。

 

小田 そこまでの関係性が築けているのであれば、ワクチン接種とマイナンバーカードの申し込み手続きを同時に行うという片山市長の提案に、医師会が同意したのもうなずけます。

片山市長 菅義偉前首相の時代に、ワクチンの1日100万回接種という目標が掲げられました。あのときの医師会の先生方は働き通しで、疲弊していました。

その様子を見て何とか勇気付けたいと考え、職員に「西脇市の日ごとの接種回数を記録して人口比を出し、その比率を国の人口に掛け合わせてほしい」と依頼しました。すると、あるときに160万回という数字が算出されたのです。西脇市が仮に国全体だとすると、1日160万回のペースで接種できていることになります。

この数値を現場の医師や看護師の方々に伝えに行くと、皆さん、達成感を覚えている様子でした。打てども打てども、終わりが見えないと感じていらっしゃったのかもしれません。私たちの報告を聞いて喜んでくださいました。

もしかしたら、このようなちょっとしたコミュニケーションの積み重ねが、良好な関係性につながっているのかもしれません。

 

小田 伝え方はとても重要ですよね。片山市長は経営者時代に、世界初の「多品種小ロット織物生産システム」を開発するに当たり、協力を仰ぐために20社の計70人以上を説得して回ったそうですね(注2)。何事も丁寧なコミュニケーションが土台となるということを教えてくれるエピソードです。

片山市長 全体の方向性と、関係者の皆さんのそれぞれにとってのメリットとデメリット、そしてデメリットについては、どこまで許容していただけるかという点に関する説明も丁寧に行います。根拠となるデータを共有することも意識しています。思いを数字に置き換えて分かりやすく説明することは、何事においても大切ではないかと思います。

 

注2=西脇市にある繊維機械商社・株式会社片山商店の社長だった片山市長は当時、市の基幹産業の一つである「播州織」の生産量が縮小しつつあった状況に危機感を覚え、安価な中国製品に対抗しようと、地元企業や大学などを巻き込んで、世界初の「多品種小ロット織物生産システム」を開発。コストを大幅に抑えつつ、高品質な織物の生産を実現した。同システムは「第1回ものづくり日本大賞」(2005年、経済産業省など主催)の製造・生産プロセス部門で内閣総理大臣賞を受賞し、国内繊維業界の可能性を切り開いた。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年1月15日号

 


【プロフィール】

片山 象三(かたやま・しょうぞう)

1961年、兵庫県西脇市生まれ。同志社大商卒。89年株式会社片山商店に入り、2000年代表取締役社長に就任。13年西脇市長選に初当選し、現在3期目。

 

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