県議時代の経験生かし、まちの姿を変える~小林哲也・埼玉県熊谷市長インタビュー(3)~

埼玉県熊谷市長・小林哲也
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

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埼玉県熊谷市、小林哲也市長のインタビュー(後編)をお届けします。前回(6月3日号)は、就任からわずか2年で大規模な公共事業を三つ推進した背景や、国や県との調整の仕方についてお話しいただきました。「まちの持続可能性を高めるためのインフラには投資をする」としてスピーディーに事業を推進する市長の行動には、5期18年務めた県議会議員時代の経験が生かされていました。

今回は、市内を流れる二つの1級河川、荒川と利根川を生かしたまちづくりや、市長という仕事の醍醐味について伺います。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

県北部の拠点として

小田 前回のインタビューで、公共事業を進めるために小林市長が国や県に足しげく通い、関係性を築いていったというお話がありました。首長になる前の埼玉県議会議員5期18年のご経験から、国や県とのパイプを太くすることの重要性を理解しての行動だったと推察します。

小林市長 埼玉県はこれまで、ほぼ目立った要望活動をせずともインフラが整ってきました。立地上、首都圏と地方を結んだ線の上に位置するからです。高速道路はもちろん、上越新幹線や東北新幹線は地方の熱心な要望により実現していますが、埼玉はいずれも通り道になるため、インターチェンジや駅が特に努力せずともできてきました。恵まれていたのです。

ですから、私が国土交通省をはじめ国の機関を訪問するときには、「埼玉県の首長が訪ねて来るのは珍しい」とよく言われます。珍しいからこそ覚えていただけますし、それだけこちらの意欲も受け取っていただいていると感じます。

これから更にまちを発展させるためには、国や県に対する働き掛けは引き続き重要です。

 

小田 これからが勝負なのですね。市長のお話からは、熊谷市が県北部の発展をリードする存在になろうとしている様子が窺えます。

小林市長 まさに、そのようにしたいと考えています。かつて市は「熊谷県」だった時代があり、高速道路と新幹線ができる前は、交通の要衝として栄えていました。それが、高速道路ができたことにより人の往来が減り、新幹線ができたことによりまちを通り過ぎる人が増えました。車の交通量は増えても商業用車が多く、観光バスはほとんど通りません。これでは地域経済に好影響がもたらされないことから、手立てを考える必要があります。そこで拠点性を持たせ、市民の皆さんからも、県北の他の自治体からも頼りにしていただけるまちにしようとしています。これは熊谷市の役目だと思っています。

 

小田 熊谷市はスポーツ施設が充実しています。観光やレジャーで人が訪れることを想定すると、この強みを生かせるのではないでしょうか?

小林市長 2019年にラグビーのW杯(ワールドカップ)が行われた「熊谷ラグビー場」は、21年にプロチームの「埼玉パナソニックワイルドナイツ」のホストスタジアムになりました。女子ラグビーチーム「アルカス熊谷」もあり、ラグビーを通じたまちづくりの取り組みが進んでいます。

 

ラグビーに関する情報は市のウェブサイトからもアクセスできる(出典:熊谷市)

 

また、このラグビー場がある「熊谷スポーツ文化公園」では04年に「彩の国まごころ国体」が開催されたことから、陸上競技場やテニス、フットサル等ができるドーム(多目的運動場)などが整備されています。こういったものがあるおかげで、スポーツという切り口でまちづくりの核ができています。

 

小田 熊谷市は国内屈指のラグビータウンとして知られていますが、その他のスポーツについても盛んなのでしょうか?

小林市長 ジュニアサッカーの強豪チームが活動しています。女子プロサッカーチーム「ちふれASエルフェン埼玉」のホームスタジアムは、「熊谷スポーツ文化公園」内の陸上競技場です。野球の独立リーグチーム「埼玉武蔵ヒートベアーズ」の本拠地も熊谷です。このように、多様なスポーツに対応できる環境はそろっています。

 

水辺を生かしたまちづくり

小田 熊谷市には荒川と利根川が流れています。これらの河川敷を活用したスポーツ振興も見込めそうですね。

小林市長 荒川の河川敷に関しては、国の「かわまちづくり支援制度」を活用し、隣接する荒川公園エリアと一体的に新たなにぎわいを創出する整備を検討しています。

利根川には、滑空時間・飛行回数共に日本一を誇る「妻沼グライダー滑空場」があり、学生グライダー競技会のメッカとしてにぎわいを見せています。このグライダー場も、利根川新橋が架かる関係で移転新設される見込みです。施設が新しくなることで1日当たりの発着回数が増える可能性がありますから、今後は更に「スカイスポーツのまち」として打ち出すことができるのではないかと考えています。

 

上空を滑空するグライダー(出典:熊谷市)

 

小田 スポーツを核としたまちづくりが進めば、熊谷市に訪れる人の数は増えそうですね。

小林市長 その点で一つ課題だと思っているのが、熊谷駅周辺の市街化区域の範囲です。現状、移住定住を望む人が増え住宅のニーズが高まったとしても、駅から直近のエリアでも農地として指定されているため宅地開発ができません。これに関しては土地利用に関する計画との調整が必要だと考えています。

 

小田 水辺の活用により、交流人口のみならず定住人口も増やそうとしておられるのですね。熊谷市にとって重要な位置付けの取り組みであることが分かりました。

小林市長 荒川の河川敷は熊谷駅から徒歩5分ほどです。市外からもアクセスしやすく、地元住民の皆さんにとっては憩いの場となっています。まちの景観を考えると何でもかんでもつくれば良いわけではなく、自然と共生しながらあるのがベストです。

現状の荒川河川敷の施設は1967年の国体で使われたもので、レイアウトに無駄が多く、老朽化が進んでいます。今回の整備については、グラウンドゴルフやターゲットバードゴルフなど、多様化するスポーツ施設や、ドッグラン、バーベキュー場といった要望も頂いています。今回の整備により、地域の魅力を高め、住みたくなる、住み続けたくなるまちづくりを目指すとともに、小さなお子さまから高齢者の方まで安心して使える水辺の環境をつくりたいと思っています。

 

小田 文化やスポーツはこれからのまちづくりに重要ですよね。これまでインタビューをした他の自治体の首長も、都市基盤整備が進んだ次は文化・スポーツ施策だとして、住民の生活の豊かさや幸福度向上のために注力すると仰る方が多いです。熊谷市はすでにスポーツという土台が備わっています。これは大きな強みだと思います。

 

第4回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年6月10日号

 


【プロフィール】

小林 哲也(こばやし・てつや)

1959年生まれ。中央大経済学部卒業後、83年に岡三証券株式会社入社。86年には家業である有限会社小林瓦店入社。

2003年から5期18年間にわたり埼玉県議会議員を務め、21年11月に熊谷市長に就任。

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