企業版ふるさと納税の展望~官民協働が事業成功のキー ~(前編)

一般財団法人地域活性化センターフェロー
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事
吉弘 拓生

 

2024/09/11 企業版ふるさと納税の展望~官民協働が事業成功のキー ~(前編)
2024/09/12 企業版ふるさと納税の展望~官民協働が事業成功のキー ~(後編)

 


 

地域の活性化と社会課題の解決を目指すために、企業版ふるさと納税が注目されています。制度の創設以来、地方創生における民間の参画を促す新たな試みとして発展を遂げ、その成果が現在、全国各地で具体的に実現されつつあります。本稿では、企業版ふるさと納税の将来展望と、それを実現するために不可欠な官民連携の重要性について掘り下げていきます。

 

民間の資金・人材を地域に

2016年に創設された地方創生応援税制、通称「企業版ふるさと納税」。この制度は地方創生に民間の活力を取り入れる取り組みとして創設されて8年がたちました。

我が国の人口減少や少子化および高齢化が進み、地域の社会課題が複雑化・多様化する中で、自治体単独でこれらの課題を解決することがますます難しくなってきました。また、少子化によって地域経済が縮小することが想定される未来を目の前にして、地域内のリソースだけで全ての活性化を図ることも難しい状況です。そのため、地域力の向上を目指す、志を共にする企業などの民間の力を借りる官民連携が積極的に推進されています。近年は、持続可能な開発目標(SDGs)への関心が高まっており、地域の社会課題の解決に積極的に取り組む企業や人材も増えてきています。こうした社会課題に向き合う民間企業の資金や人材を地域に引き込むために、企業版ふるさと納税は有効な手段と言えるでしょう。

このような背景から、企業版ふるさと納税を積極的に活用する自治体や企業が増えており、その活用も単なる資金提供にとどまらず、企業の知識やアイデア、そして人材を生かした新しい地方創生の取り組みが、全国各地で展開されています。

企業版ふるさと納税は、個人版のふるさと納税とは異なり、返礼品はありません。その代わりに企業の法人税等を控除することができます。20年度の税制改正では、寄附控除額がそれまでの約6割から最大9割に引き上げられました。これにより、本制度を活用し地方創生事業に取り組む自治体も一気に増えました。

 

アドバイザー制度の創設

また最近は本制度を広く知らせると同時に、その活用に当たって 企業や自治体をサポートする体制も整えられました。内閣府では、企業版ふるさと納税に関する担当職員向けの研修を実施したり、他の省庁と合同での企業と自治体のマッチング会なども開催したりしています。専門的知見から助言を行う「企業版ふるさと納税マッチング・アドバイザー」の制度も創設されました。

マッチング・アドバイザーは、企業版ふるさと納税制度を活用したい自治体と企業の間を取り持つ専門家です。内閣府が主催するイベントに参加する自治体や企業に対して、プレゼンテーションする際のポイント解説を行うなど、制度活用の伴走支援も行っています。

私自身もマッチング・アドバイザーの一員です。24年4月1日時点で内閣府から任命されたアドバイザーは全国に4人います。

氏名 企業版ふるさと納税との関わり
山内 幸治

(やまうち こうじ)

令和2年度、内閣府主催企業版ふるさと納税リーダー研修会の講師を務める。企業の視点で人材派遣型をはじめ自治体と企業双方へ助言を行っており、人材派遣型のマッチングに関与した経験を有する。
吉弘 拓生

(よしひろ たくお)

令和2年度及び令和3年度、内閣府主催企業版ふるさと納税リーダー研修会の講師
を務める。群馬県下仁田町副町長在職時、本制度を活用した「ねぎとこんにゃく下仁田
奨学金事業」を創設(令和元年度地方創生担当大臣表彰受賞)。この経験をもとにした
地方自治体に対する助言等を実施している。
笠井 泰士

(かさい たいじ)

内閣官房に在籍中、令和2年度税制改正や企業版ふるさと納税の活用促進に関与す
るなど、制度に関する十分な知識を有しており、令和3年度から金融庁地域課題解決支
援チーム代表として、各省庁の政策間連携、自治体や企業に対して幅広く助言等を実施
し、現在も地方創生の実現に向けて各方面で活動。
鷲見 英利

(わしみ ひでとし)

企業や自治体と「善き前例をともにつくる」という理念のもと、多数の官民連携事例の
創出に携わる。企業版ふるさと納税を活用した官民連携の促進に向け、自治体や企業に
対して幅広く助言等を実施している。

出典:内閣府企業版ふるさと納税ポータルサイト

 

アドバイザーの業務は、前述の通り内閣府が主催する企業向け事業提案に対する解説や、企業と自治体のマッチングを進める役割が中心でした。しかし、23年度に入り、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に移行し、行動制限が解除されたことで状況は大きく変わりました。

これにより、道府県、市町村、金融機関やメディアが主催する対面での会議やイベントに出向いてアドバイスする機会や、企業と自治体が寄附に際して行う事業連携に関する相談を受ける機会が急増しました。

現場での対応は、地域ごとの具体的な課題やニーズを直接把握し、それに基づいた的確なアドバイスや伴走支援を行うためには重要なことです。地域の実情を反映した具体的な提案や、その推進体制の構築に関する助言を提供する機会も増えています。これには、地方創生に関するプロジェクトの企画や運営、効果的なコミュニケーション戦略の立案など、幅広い業務が含まれます。

これらを4人のアドバイザーでカバーしており、各アドバイザーが持つ専門性や強みを生かし全国各地に出向いて相談に応じている状況です。

 

後編に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年7月29日号

 


【プロフィール】

吉弘 拓生(よしひろ・たくお)
一般財団法人地域活性化センターフェロー
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事

ラジオDJ、森林組合職員、市職員を経て2015年群馬県下仁田町副町長に就任。在任中に金融機関と連携し「ねぎとこんにゃく下仁田奨学金」を創設(令和元年度地方創世担当大臣賞を受賞)。

19年から一般社団法人地域活性化センターでクリエイティブ事業室長、新事業企画室長を歴任。

総務省地域力創造アドバイザー、内閣官房地域活性化伝道師に任命されている他、21年初代「企業版ふるさと納税マッチング・アドバイザー」に就任。中央省庁、都道府県、市区町村の有識者会議委員として現場の声を伝える活動の他、「対話」の手法を取り入れたタウンミーティングの講師や、実務経験と官民ネットワークを活かし、地方自治体への伴走支援に取り組んでいる。

 

スポンサーエリア
おすすめの記事