自ら考え行動する住民と行政によるまちづくり~片山健也・北海道ニセコ町長インタビュー(2)~

北海道ニセコ町長・片山健也
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

2024/12/17  自ら考え行動する住民と行政によるまちづくり~片山健也・北海道ニセコ町長インタビュー(1)~

2024/12/19  自ら考え行動する住民と行政によるまちづくり~片山健也・北海道ニセコ町長インタビュー(2)~

2024/12/24 住民自治により、まちへの誇りを醸成する~片山健也・北海道ニセコ町長インタビュー(3)~

2024/12/26 住民自治により、まちへの誇りを醸成する~片山健也・北海道ニセコ町長インタビュー(4)~

 

自ら考え行動する組織

小田 「住民参加のまちづくり」という言葉からは、行政と住民が一枚岩となる様子がイメージできます。しかし先ほどの「ニセコルール」のお話では、異なる意見のぶつかり合いがあったことが想像できました。片山町長が考える「住民参加」とはどのような形なのでしょうか。

片山町長 何に関心を持つかは、人それぞれ違います。私はむしろ、一枚岩という状態は不自然なのではないかと思います。多様な意見を持つ個人や組織がいて、それぞれが多様な行動をするからこそまちづくりの価値は上がります。私は「多様性」と「自由度」がまちづくりの基本だと考えています。

 

小田 町長のお考えは役場組織の風土にも反映されているのではないかと思います。どのくらいの多様性と自由度なのでしょうか。

片山町長 基本的に、職員が自ら考えて行動します。職員は私に気軽に意見を言ってきますよ。

 

小田 気軽にですか。それはかなり珍しいですね。その風土が形成されるまでには時間がかかったのではないでしょうか。

片山町長 私がニセコ町役場で職員として働き始めたのは1978年です。当時は、皆が町長を見て仕事をしているような状態でした。細かな業務にも逐一町長の決裁が必要で、自ら考えて行動する自由度はありませんでした。この風土を変えたのも逢坂元町長です。

 

小田 逢坂元町長の方針は片山町長に多大な影響を与えていますね。

片山町長 逢坂元町長は地方自治を本来の姿にするべく組織改革を行いました。地方自治の本来の姿とは、団体自治と住民自治が両方機能することです。税を徴収する権力を持つ団体自治(役所)の存在ばかりが強調されますが、住民の皆さんが自ら考え行動する住民自治もあってこそ、価値あるまちづくりができます。

住民の主体性を後押しするのが役所の役割であるのに、役所の内部がトップの命令でしか動かないようでは機能不全です。

そこで逢坂元町長は、職員の採用方式を変えたり、研修にかける予算を大幅に増額したりするなどして人材育成に注力しました。驚いたのが、研修予算の増額幅です。年間約300万円だったものを1600万円にまで引き上げました。北海道大の大学院や他県の観光協会に職員を派遣するなど、役場外での経験値を上げる育成案が盛り込まれました。

 

小田 それは驚きですね。議会承認を得るのに一筋縄ではいかない増額幅だと思います。

片山町長 もちろん議会からは「職員の物見遊山に血税は使えない」と、相当な反発がありました。当時私は総務課参事を務めていましたが、私のところにも議員がやって来て「こんなことは許されない」と声を荒らげました。

 

小田 どのようにご対応されたのですか。

片山町長 私自身は、職員の能力を高めるための投資は必要だと考えていました。というのも、ニセコ町は過去に痛い失敗をしていたからです。

かつて国が農業構造改善事業を実施した際に、役場は農家や畜産家の皆さんにこぞって参画を促しました。事業に対して国から7割以上の補助金が降りてきたからです。しかし、ふたを開けてみると、町の養豚業者は0軒になりました。国の基準に従って多額の設備投資を行ったものの、豚肉の輸入自由化が始まり、負債を返せなくなったことが原因です。

このように、「国の政策だから」と実施した事業が行き詰まった事例は他にもあります。このことから私は「自分たちで考えて行動できる自治体になること」の重要性を痛感していました。国に提言を行うくらいの強い組織でなければ、これからの地方自治体は生き残っていけません。

そのためには、外の世界を知ったり質の高い学びを得たりして、職員の能力や経験値を高める必要があります。

当時の私は議員の方々に対し、自ら考え行動できる組織の重要性をお話しさせていただきました。その後もいろいろと議論が交わされましたが、最終的には職員研修予算の増額について議会承認を得ることができました。

 

小田 逢坂元町長から片山町長に引き継がれた「自ら考え行動する組織」の精神が、今のニセコ町役場の多様性と自由度を支えているのですね。

 

首長に権力を集めない

小田 職員の皆さんの主体性を育むために、工夫された点はありますか?

片山町長 他の自治体の取り組みで興味関心のあることについては、今の職種にかかわらずとも、報告書を提出すれば視察に行ける制度をつくりました。例えば、税務担当職員が、他の自治体の観光政策を視察しに行くようなケースです。後に海外視察に関する制度もつくりました。これにより、職員の外に情報を取りに行く意欲を高めることができました。

毎日同じような業務を繰り返していると、モチベーションはどうしても下がってくるものです。自ら考え行動する人材でい続けるための仕掛けをつくったことで、職員は少しずつ変わってきたように思います。

 

小田 「多様性」と「自由」は今の時代のトレンドワードですが、ニセコ町役場はそれを概念だけにとどめずに体現しているように感じます。

片山町長 職員の6割近くは社会人採用です。民間企業に勤めていた者、海外在住経験のある者、元青年海外協力隊員や、国外のNGO(非政府組織)で働いていた者など、実に多様です。

私自身は首長という立場ではありますが、権力や過度な統治は必要ないものと考えています。トップダウン型でうまくいく自治体もありますが、ニセコ町は多様性と自由を重視します。たとえトップが代わったとしても、持続するまちをつくりたい。そのために権力を集中させず、忖度もない組織づくりをしています。

 

小田 住民も含めた多様な人材によるまちづくりをどう進めるのか、関心を寄せる読者も多いはずです。また、「権力が首長に集中しない組織づくり」についても非常に興味深く、ぜひ後編で詳しくお聞かせいただきたい内容です。

次回はニセコ町役場の組織風土や体制、住民自治にまつわる具体的なエピソードを伺います。

 

(第3回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年11月11日号

 


【プロフィール】

ニセコ片山町長片山 健也(かたやま・けんや)

1953年生まれ。物流業界での勤務経験を経て78年にニセコ町役場に奉職。町民総合窓口課長、環境衛生課長、企画環境課長、総務課参事等を歴任し、2009年7月に退職。同年10月に町長就任。現在は4期目。

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