福島県本宮市長・高松義行
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子
2025/01/14 「住みよさ県内No.1」を支える独自の地域連携~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(1)~
2025/01/17 「住みよさ県内No.1」を支える独自の地域連携~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(2)~
2025/01/21 まちづくりへの思いと政治哲学~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(3)~
2025/01/23 まちづくりへの思いと政治哲学~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(4)~
転入超過の実態と課題
小田 本宮市は転入超過とのことですが、現状をどのように捉えていらっしゃいますか。
高松市長 確かに転入超過の状態が続いています。これは一見、喜ばしいことのように思えますが、実際はそう単純ではありません。社会動態(転入と転出の差)では本宮市はプラスになっていますが、自然動態(出生数と死亡数の差)の面で大きな課題を抱えています。
小田 自然動態の面での課題とは、具体的にどのようなものでしょうか。
高松市長 最近、特にここ2年ほどの間に、出生数が急激に減少しているのです。一方で、高齢化社会の中で亡くなる方の数はそう急には変わりません。結果として、生まれてくる子どもの数が亡くなる方の数を下回る状況が続いています。
小田 社会動態のプラス面については、どのような分析をされていますか。
高松市長 現状では、近隣自治体との間での人口の移動が主となっています。しかし、これでは地域全体としての人口は増えません。つまり、近隣自治体との人口のやりとりをしているだけで、根本的な解決にはなっていないのです。
私たちが本当に目指すべきは、首都圏からより多くの方々に移住して来ていただくことです。そのためには、本宮市の魅力をどのように発信し、関心を持ってもらえるかが重要になってきます。
小田 東京一極集中の問題についてはどのようにお考えですか。
高松市長 これは非常に難しい問題ですね。東京都が手厚い子育て支援を行えば行うほど、地方には人が来にくくなる。その中で地方の良さをどう発信していけばいいのか、これは全ての地方自治体が直面している課題だと思います。
対策としては、まずは「発信力を付けること」が大切だと考えています。どんなことでもいいので、外部にアピールする力を付けることで本宮市の魅力を伝えて、移住してくれる方を増やすことにつながると思っています。
小田 人口維持・増加に向けて、どのような施策を展開されていますか。
高松市長 子育て支援に特化するだけではなく、バランスの取れた施策を展開することが大切だと考えています。赤ちゃんからお年寄りまで、すべての世代の方々がある程度のレベルで暮らせるまちを目指すことが、結果的に住みやすいまちづくりとなり、人口の維持・増加につながると思っています。
地道に本宮市の魅力を高め、それを効果的に発信し続けることで、少しずつ前進していくと信じています。
「住みよさランキング」で県内No.1
小田 本宮市は東洋経済新報社による市区別の「住みよさランキング」で、福島県内No.1を獲得されています。この評価の理由をどのように分析されていますか。
高松市長 ありがたいことに、2年連続12回目の受賞となりました。この評価で面白いのは、本宮市には「突出して良いところ」も「極端に悪いところ」もないという点です。つまり、バランスの取れた「普通の良さ」が評価されているのではないかと思います。
小田 バランスの取れたまちという点を、どのようにアピールされているのでしょうか。
高松市長 そうですね。突出して良いところがないということは、言い換えれば「何もない」とも取られかねません。そこが発信の難しいところです。
しかし、必ず自治体には特色があり、アピールできるところがあります。私たちは、まちの特色をしっかりと認識しながら、「こんな楽しいことがありますよ」「こんなインフラが整っていますよ」というふうに発信していきたいと考えています。
小田 ちなみに、都会から移住して来た方々の中で、車の運転ができない人への対応はどうされていますか。
高松市長 これは実際に課題となっています。首都圏から来られた方々にとって、移動手段の確保は大きな問題です。本宮市の場合、移動手段が自転車やタクシーに限られてしまいます。バスもありますが、路線バスが細かく走っているわけではありません。JRも30分に1本あるかないかの頻度です。
一方で、首都圏の方々は運転免許を持っていないことが多いのです。
本宮市は車がないと生活できないような状況ですが、都会から来た方たちにとっては、来てみたら「何もない」「どうやって移動すればいいのだ」という話になってしまう。これは私たちにとって大きな課題であり、今後の改善が必要な点だと認識しています。
英国との友好都市交流
小田 本宮市は英国との友好都市交流も行っていると伺いました。その経緯について教えていただけますか。
高松市長 はい、本宮市は24年4月にロンドンのケンジントン&チェルシー王室特別区と友好協定を締結しました。この交流のきっかけは、11年の東日本大震災に遡ります。震災後、ウィリアム王子(現皇太子)が本宮市を訪れ、被災した子どもたちを元気づけてくださいました。
小田 ロンドンには「福島庭園」が造られたと伺いました。どのような経緯だったのでしょうか。
高松市長 ウィリアム王子の訪問に先立ち、ケンジントン&チェルシーにあるホーランドパークという非常に大きな公園の中に「福島庭園」が造られました。これは「ロンドンから福島を応援しよう」という趣旨で設置されたものです。
小田 本宮市の「プリンス・ウィリアムズ・パーク英国庭園」はそれを受けて造られたのでしょうか。
高松市長 その通りです。「福島庭園」設置の際、当時のケンジントン&チェルシー王室特別区の区長さんから「福島にも英国庭園があったら良い交流ができるかもしれませんね」と言っていただきました。それを受けて、本宮市に「プリンス・ウィリアムズ・パーク英国庭園」を造ることになりました。
その後も交流を続け、24年に正式に友好協定を結ぶに至っています。
小田 具体的な交流の内容について教えていただけますか。
高松市長 最も重要な取り組みの一つが、中学生の相互交流です。毎年約15人の中学生をロンドンに派遣し、現地の同年代の子どもたちと交流してもらっています。選抜方法は、希望者から作文と面接で選んでおり、単なる観光旅行ではなく、市の外交使節団のような形で派遣しています。
また、ロンドンからも本宮市に子どもたちが来てくれ、市内の中学生と交流をしています。このような相互交流を通じて、フレンドリーな関係が築かれています。
未来へつなげる もとみや英国訪問団(出典:本宮市Instagram / Facebook)
小田 この交流は市民にどのような影響を与えていますか。
高松市長 市内や福島県内で「イギリス」や「ロンドン」という言葉を聞くと、「本宮」と言っていただけるくらいまでになってきました。子どもたちにとっては、海外に行きたいという強い動機付けにもなっています。
小田 「プリンス・ウィリアムズ・パーク英国庭園」について詳しく伺えますか。
高松市長 庭園には、チャールズ国王(当時皇太子)やウィリアム皇太子、テリーザ・メイ元首相、ボリス・ジョンソン元首相(当時外相)らからのお祝いメッセージが展示されています。これらのメッセージを見ながらバラを楽しめる英国庭園は、市民の励みになっています。
また、この英国庭園は新しい観光スポットとして子育て世代からも非常に人気があり、市民だけでなく市外からも多くの方が訪れるようになりました。
小田 英国との交流を通じて、本宮市の魅力発信にどのようにつなげていますか。
高松市長 こうした交流を通じて魅力を国内外に発信し、多くの人に興味を持ってもらえるよう努めています。単に人口を増やすだけでなく、本宮市で仕事をしながら生活できる環境を整え、それを効果的に発信していくことが重要だと考えています。
どうしたら本宮というところに興味を持っていただけるか、どうしたらここで仕事を持ちながら生活できるかといったことを、うまく伝えられる形をつくっていきたいですね。この点については、職員と一緒になって知恵を出していきたいと思います。
小田 本宮市の魅力をさまざまな方法で発信し続けてこられたことが、非常に強く伝わってきました。「へそのまち協議会」を通じた他自治体との連携や、英国との友好都市交流など、独自の取り組みが印象的です。
一方で、都市部からの移住者に対する交通手段の確保など、課題にも正直に向き合っておられる姿勢に、高松市長の誠実なリーダーシップを感じました。
次回のインタビューでは「まちづくりへの思いと政治哲学」について高松市長のお考えを伺います。
(第3回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年11月25日号
【プロフィール】
高松 義行(たかまつ・ぎぎょう)
1954年生まれ。大正大仏教学部卒。
1995年から旧本宮町議を3期、2007年から本宮市議を2期務める。
11年1月の市長選で初当選。現在4期目。