まちづくりへの思いと政治哲学~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(3)~

福島県本宮市長・高松義行
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

2025/01/14 「住みよさ県内No.1」を支える独自の地域連携~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(1)~

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2025/01/21 まちづくりへの思いと政治哲学~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(3)~

2025/01/23 まちづくりへの思いと政治哲学~高松義行・福島県本宮市長インタビュー(4)~

 


 

福島県本宮市長、高松義行氏のインタビュー後編をお届けします。

前編では、「へそのまち協議会」を通じた他自治体との連携や英国との友好都市交流など、本宮市の独自の取り組みについて伺いました。

本宮市は、2011年の東日本大震災や19年の東日本台風、さらには新型コロナウイルス感染症の流行と、幾多の困難を乗り越えてきました。そんな中、「住みよさランキング(東洋経済新報社)」で福島県内No.1を12回も獲得し、現在も転入超過を維持しています。

しかし、出生数の急激な減少など、本宮市も地方都市特有の課題に直面しています。

「人口の減らない市」を目指し、本宮市ふるさと暮らし体験住宅「和暮和暮」の運営など、独自の施策を展開する高松市長。「楽しみながら悪あがき」の姿勢で、厳しい状況下でも前向きに取り組む高松市長の目に、これからの地方自治体に求められる「生き残れるまちづくり」はどのように映っているのでしょうか。

まちづくりへの思いを、引き続き伺っていきます。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

高松市長へのインタビュー(上)はオンラインで行われた(出典:官民共創未来コンソーシアム)

 

「楽しみながら悪あがき」ユニークな人口維持戦略

小田 本宮市では移住促進のためにさまざまな取り組みをされていると伺いました。具体的にどのような施策を行っているのでしょうか。

高松市長 移住促進は本宮市にとって重要な課題の一つです。その中でも特に力を入れているのが、本宮市ふるさと暮らし体験住宅「和暮和暮」という取り組みです。これは、本宮市での生活を体験してもらうための施設で、古民家を改修して造りました。

実は、この「和暮和暮」の予約率が驚くほど高いのです。年間を通じて75%の稼働率があり、今年の土日に至っては100%の予約率となっています。さらに嬉しいことに、この施設を2回利用した首都圏の方が、実際に本宮市に家族で移住してくれるという事例も出てきました。

 

小田 それは素晴らしい成果ですね。この体験住宅「和暮和暮」の存在をどのように周知されているのでしょうか。

高松市長 移住フェアでパンフレットを配布しているほか、住宅関連企業にお願いしてインターネット上で情報を配信してもらっています。そうしたところ、予想以上に多くの方が興味を持ってくださいました。特に、インターネットでの情報発信は効果が高いですね。若い世代を中心に、地方移住に関心を持つ人が増えていますから、そういった方々にリーチできているのだと思います。

 

小田 「人口の減らない市」を目指しているそうですね。

高松市長 そうです。最初にこの目標を掲げたときには「なんと欲のない」といわれましたが、実はこれほど欲張った話はないと思います。できる限り人口を減らさないようにしていきたい。そのためには「悪あがき」でも何でも、できることは何でもやっていく覚悟です。ただし、楽しみながらやることが大切だと考えています。楽しくないと続きませんからね。

 

小田 移住を考えている方々に、本宮市の魅力をどのように伝えていますか。

高松市長 人それぞれ、自分の生活の満足度をどこに置くかが重要だと思います。確かに地方に来れば収入は少し減るかもしれませんが、物価が比較的低く抑えられており、生活コストの面で優位性があります。また本宮市は、都市部へのアクセスの良さと、落ち着いた生活環境を両立させた地域です。都市的な利便性を享受しつつも、ゆとりある暮らしが可能な環境を提供しています。

特に子育て中の方々には、「このまま都会で子育てするよりも、もっと自然豊かな所で育てた方が子どもにとって良い影響があるのではないか」と考える人が多いのではないでしょうか。そういった方々にアピールしていきたいと思っています。

 

小田 移住を検討する方にとって、教育環境も重要な要素だと思います。本宮市では教育に関してどのような取り組みをされていますか。

高松市長 おっしゃる通り、特に子育て世代の方々にとって、教育環境は移住を決める大きな要因の一つです。実は、福島県全体の教育レベルを課題として捉えており、本宮市でも改善に努めています。

そこで現在、教育長を中心に5年計画で教育レベルの向上に取り組んでいます。目標は、まずは全国平均を上回ることです。具体的には、学力向上委員会を組織して現状の課題を踏まえた授業改善、ICT(情報通信技術)を活用した教育の推進、教員の指導力向上のための研修などを実施しています。

ただし、学力だけが教育の全てではありません。本宮市では、前回お話しした英国との交流事業など、国際感覚を養う取り組みも重視しています。また、地域の歴史や文化を学ぶ郷土教育にも力を入れています。

 

合併の経験から学んだ市政運営

小田 高松市長は町議を3期、07年の合併後は市議を2期務められ、初代議長にも就任されていますね。

高松市長 はい。本宮町議会の最後の議長と、本宮市議会の最初の議長を務めさせていただきました。その後、11年から本宮市長を務めています。

 

小田 合併時にはどのような課題がありましたか?

高松市長 本宮市は、旧本宮町と旧白沢村が07年に合併してできました。やはり自治体が違うと、地域の慣習も考え方も少し違うところがあります。それらを一つにまとめるのは、本当に大変なエネルギーを要しました。

 

小田 その経験から学んだことはありますか?

高松市長 私は当時、本宮町の議長で、町長が新しい市の市長になりました。その流れの中で、合併後にどのように自治体を運営していくべきか、じっくりと学ぶことができました。人口の少ない自治体がどのように新しい市に溶け込んでいくか、課題にどう対処すべきか、合併の2年間で本当に多くのことを学びました。

これらの経験は長い時間をかけて生きてきており、現在の市政運営にも大いに生かされています。

 

小田 合併から時間が経った今、地域間の状況はどのように変化していますか?

高松市長 時間はかかりましたが、確かに変化は起きています。例えば、旧白沢村の方は今、人口減少が進んでいます。一方で、旧本宮町は人口が増えている。旧白沢村エリアに住んでいる人たちの不安はあると思います。

 

小田 その状況にどのように対応されていますか?

高松市長 我々としては、それぞれの地域の特色をどう生かしていくか、行政の施策をどう進めていくかを、地域の方々に根気強く説明し続けてきました。そうすると、「そういうことか」と理解してくれる方が少しずつ増えてきました。私自身は、現状非常にバランスが取れていると感じています。合併して良かったなと思っていますね。

 

(第4回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年12月2日号

 


【プロフィール】

福島県本宮市・高松義行市長高松 義行(たかまつ・ぎぎょう)

1954年生まれ。大正大仏教学部卒。
1995年から旧本宮町議を3期、2007年から本宮市議を2期務める。
11年1月の市長選で初当選。現在4期目。

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