「稼いでも残らない」地域経済からの脱却 -「漏れバケツ理論」で考える、人口減少時代のスモールビジネス支援 - ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(2)~ 

 

2026/3/25 「稼いでも残らない」地域経済からの脱却 -「漏れバケツ理論」で考える、人口減少時代のスモールビジネス支援 - ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(1)~

2026/3/26 「稼いでも残らない」地域経済からの脱却 -「漏れバケツ理論」で考える、人口減少時代のスモールビジネス支援 - ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(2)~ 

 

4.自治体自身がつくっている「最大の穴」

漏れバケツ理論を自治体の立場で考えると、避けて通れない視点があります。それは、多くの地域において、行政自身が地域最大の経済主体であるということです。

公共調達、業務委託、施設管理、物品購入。これらはすべて、地域経済に直接的な影響を与えます。にもかかわらず、価格や効率のみを重視して地域外企業に一括委託すれば、税金は地域内を十分に循環することなく、地域外へ流出します。

また、補助金制度や支援事業の要件が、知らず知らずのうちにスモールビジネスを排除しているケースもあります。実績要件、資本金要件、複雑な申請手続きは、結果として「支援できる事業者を減らす穴」になってしまっています。

 

バケツの穴を広げる原因となってしまう例

①調達・委託の地域外集中

「コスト削減」や「一括管理による効率性」を優先するあまり、清掃、給食、システム維持、消耗品の購入といった自治体の業務委託が、結果として都市部の大手企業に集中しているケースが見られます。その場合、税金として集めたお金が地域内で十分に循環せず、短期間のうちに地域外へ流出してしまう構造になりがちです。

 

②大手チェーン・大規模事業者優遇の制度設計

「実績の有無」や「資本金の規模」を入札参加条件や補助要件に据えることで、地元のスモールビジネスが参入しにくい制度になっていないでしょうか。こうした設計は、安定した供給という利点がある一方で、地域外へ利益が流出しやすい構造を結果的に固定化してしまう側面も持っています。

 

③補助金・イベント中心主義

単発のイベントや設備投資への補助に重点を置く支援は、その瞬間の需要を生み出す効果はありますが、必ずしも地域内にお金をとどめる仕組みにはつながりません。特に、イベント運営を域外事業者に委託した場合、予算そのものが地域外へ流出することもあります。事業者が本当に求めているのは、一時的な支援ではなく、日常の取引の中で利益が残る、持続可能な商圏の形成です。

 

5.なぜ今、スモールビジネス支援なのか

ここで言う「スモールビジネス」とは、地域の個店や農家、家族経営の事業者などの小規模事業者のことです。具体的には、地元の食材を活かす飲食店、独自の視点で選定した雑貨店、こだわりの作物を育てる若手農家、あるいは代々続く小さな町工場などが含まれます。

これらは一般に「規模が小さい」「効率が悪い」「成長しにくい」と見なされがちです。しかし、漏れバケツ理論の観点から見ると、その評価は百八十度逆転します。

スモールビジネスは、仕入れや外注が地域内で完結する割合が高く、得られた収入も生活消費として地域で再び使われるため、地域内乗数効果(注2)が相対的に高い存在だからです。同じ売上額でも地域内での循環回数が多くなるため、長期的に地域経済に大きな効果をもたらします。

また、人口減少社会における「レジリエンス(復元力)」の観点からも、1社の大型企業誘致に依存するより、月商数万円から数十万円規模の利益を安定的に生み出すスモールビジネスが多数存在する方が、経済構造としてのリスク分散効果は高くなります。

多数のスモールビジネスが存在する地域では、1事業者が撤退しても地域経済全体への影響は限定的です。一方、大型企業1社に依存する構造では、その撤退が地域経済に壊滅的な打撃を与えるリスクがあります。

 

ここで強調したいのは、スモールビジネス支援は「情緒的な応援」や「福祉的な施策」ではないという点です。地域経済を安定させるための、極めて合理的な政策です。

これからの行政支援は、事業者を「マージンやコストの流出」から守り、地域内でお金が循環する時間を延ばす「継続・循環型の支援」へ軸足を移す必要があります。

 

注2=地域内乗数効果:地域内で発生した所得が、域内での消費や投資を通じて繰り返し循環し、当初の所得額を上回る経済効果を生み出す現象を指します。地域内調達率が高い事業者ほど、この効果は大きくなります。

 

6.自治体に求められる視点転換

これまで説明してきたように、これからの自治体に求められるのは、「どれだけ稼がせたか」ではなく、「どれだけ地域からの漏れを減らせたか」という視点です。売上額や参加者数といった分かりやすい成果だけでなく、地域内循環の度合いや地元事業者との取引の広がり、事業が継続している年数といった観点にも目を向ける必要があります。

スモールビジネス支援とは、事業を急成長させることではありません。地域に残り続けられる条件を整えることです。小さな取引、小さな改善、小さな循環を積み重ねることが、結果として地域の底力になります。

では、こうした視点転換を具体的な施策に落とし込むには、どのような道筋があるでしょうか。

次に、支援施策を検討する際の思考の枠組みを、ステップ形式で例示します。

 

具体的な取り組み(例)

スモールビジネス支援の在り方は、地域の産業構造や人口規模、自治体の役割によって大きく異なります。以下に示す施策は、特定の自治体にそのまま当てはめることを意図したものではなく、「どのような選択肢があり得るのか」を考えるための一例です。

 

STEP1:「利益を残す」基盤整備(コスト削減・効率化)

まずは流出している経費を抑え、挑戦のための「時間」と「お金」を捻出します。

  • DX導入による事務コスト削減:共通POSレジや会計ソフトの導入支援
  • 固定費の「変動費化」:シェア厨房や共同発送拠点の整備
  • デジタルツールの一括契約:自治体が利用環境を整え、安価に活用できる仕組みを提供

 

STEP2:「稼ぐ筋肉」の強化(教育・伴走)

「忙しいのに儲からない」状態から脱却し、利益率の高い経営体質へ転換します。

  • 「月5万円」特化型ワークショップ:身の丈に合った着実な利益の出し方を習得
  • 副業人材等による専門家コーチング:実務経験者とのマッチングによる課題解決
  • アトツギ(後継者)の新規事業支援:既存資産を活かした第二創業を後押し

 

STEP3:「価値を届ける」販路・広報(情報発信・出口戦略)

良いものをつくっていても「知られていない」状態を解消します。

  • 店舗の「顔」改善:看板やファサードについて専門家が助言
  • パッケージ刷新支援:少量多品種に対応したデザイン共通化
  • 陳列・POPの標準化:伝わる売り場づくりのルールとツール提供
  • 写真・動画の素材バンク化:自治体が共有資産として整備

 

STEP4:「意味(価値)」を載せるIP活用(高付加価値化)

価格競争から脱却し、選ばれる理由を付与します。

  • 地域IPの活用:自治体キャラ等を使い、低コストで物語性を付加
  • メジャーIPとの連携:自治体が窓口となり、可能な範囲でコラボを支援
  • 「推し活」経済圏の創出:特定ファン層が回遊する仕掛けづくり

 

STEP5:「持続可能」なエコシステム構築(組織・評価)

施策を一過性で終わらせないための仕組みづくりです。

  • 地域商社等への実務移譲:民間のスピード感を活かす
  • 成果報酬型コーディネーター:評価軸を「事業者の利益増」に設定
  • 地域内循環の測定:地域内でお金が何回循環しているかを測定し効果を検証する

 

7.まとめ

人口減少は避けられない現実ですが、それは直ちに地域の衰退を意味するものではありません。

成長を前提とした「大型誘致」の呪縛から一度距離を置き、足元のバケツの穴を丁寧にふさぎ、小さな循環を幾重にも重ねていく。これは、不確実な時代において地域が生き残るための、極めて現実的で再現性の高い戦略です。

本稿で示したような施策は、すでに個別の担当課が試行錯誤しながら部分的に取り組んでいるケースも少なくないでしょう。重要なのは、それらを単発の事業として終わらせるのではなく、「バケツの穴をふさぎ、地域経済を循環させる」という共通の視点の下で再構築することです。

各施策が、どのように地域内での資金循環を高め、スモールビジネスの継続を支えているのか。

その位置付けを明確にすることで、施策全体の効果は飛躍的に高まります。

 

あすから試せる「はじめの一歩」

  • 自らの「穴」を知る:自治体の調達のうち、地域外へ流出している割合を概算してみる
  • 現場の「流通」を聴く:事業者に「どこに卸すと一番利益が残るか」という現場の声を聴いてみる
  • 指標を用いる:次の施策の重要業績評価指標(KPI)に「地域内保持率」や「事業継続年数」を加えてみる

 

その「小さな視点の転換」が、地域のバケツを満たし、住民一人ひとりのウェルビーイングを着実に高めていきます。筆者として、この「漏れないバケツ」を皆さまと共につくっていけることを願っています。

 

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年2月2日号

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