ニューノーマルにおけるこれからの図書館(3)

ニューノーマルにおけるこれからの図書館
ブームの火付け役はどこから生まれるのか

株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役 岡本真

2020/9/23 ニューノーマルにおけるこれからの図書館(1)
2020/9/25 ニューノーマルにおけるこれからの図書館(2)
2020/9/28 ニューノーマルにおけるこれからの図書館(3)
2020/9/30 ニューノーマルにおけるこれからの図書館(4)


国立国会図書館のデジタルアーカイブが力を発揮する時がやってくる

伊藤: さて、マインドセット(考え方)の話に加えてデジタル化という部分もお聞きしたいのですが、前回、他の行政サービスに比べては総じて図書館の電子化・デジタル化は進んでいるとおっしゃっていました。でも正直、その実感はありません。

 

岡本: 一般にはあまり知られていませんが、日本の国立国会図書館のデジタルアーカイブ事業は目を見張るものがあります(図表1、2)。少なくとも1968年までの日本語の刊行物で国会図書館が所蔵しているものはデジタル化されています。

なぜ、そんなことができたのかといえば、長尾真さんという方が国立国会図書館長を務めた時期があったから、です。長尾さんは日本を代表する情報工学学者で、電子情報通信学会や情報処理学会の名だたる学会の会長を務めたほか、京都大総長も務めた方です。そんな長尾さんを当時、衆議院議長だった河野洋平氏が口説いて、国立国会図書館長に一本釣りしました。

それまで国立国会図書館のデジタルアーカイブ事業の予算は年間1億円しかなかったのが、一気に100億円になって、この時、デジタルアーカイブが進みました。国家プロジェクトとしても世界と比較しても、第一線級と言っていいでしょう。

<図表1:国立国会図書館デジタルコレクション>(出典:国立国会図書館HPより)

 

 

<図表2:国立国会図書館 電子図書館事業の沿革>

(出典:国立国会図書館HPより抜粋)

実際、長尾真氏が図書館長を務めた2007~2012年に多くの事業が動き、法改正も行われている。

主な取組
1994 パイロット電子図書館プロジェクト
1995 G7(G8)電子図書館プロジェクト(→世界図書館プロジェクト)
1996 次世代電子図書館研究開発プロジェクト
1998 国立国会図書館電子図書館構想
電子展示会「ディジタル貴重書展」提供開始
電子図書館全国連絡会議を開催
2000 国立国会図書館蔵書目録(~2017)、国会会議録検索システム、貴重書画像データベース(~2011)を公開
2002 関西館開館、関西館に電子図書館課を設置
近代デジタルライブラリー(~2016)、インターネット資源選択的蓄積実験事業(WARP)(~2006)、データベース・ナビゲーション・サービス(Dnavi)(~2014)を公開
2004 国立国会図書館電子図書館中期計画2004
日本法令索引データベース公開
2005 NDLデジタルアーカイブシステムの開発に着手
デジタルアーカイブポータルプロトタイプ試験公開
帝国議会会議録検索システム公開
2006 インターネット情報選択的蓄積事業(WARP)(~2010)本格事業化
2007 デジタルアーカイブポータル(PORTA)(~2012)を正式公開
2009 NDLデジタルアーカイブシステム運用開始
ワールドデジタルライブラリーに参加
リサーチ・ナビ提供開始
経済危機対策のための平成21年度補正予算(第1号)による大規模デジタル化(2か年で実施)
著作権法改正(2010年1月施行)⇒当館において、資料の保存を目的としたデジタル化を著作権者の許諾なく行うことが可能となる
国立国会図書館法改正(2010年4月施行)⇒国等のインターネット資料を許諾なく当館が収集することが可能となる
2010 デジタル情報資源ラウンドテーブルを設置
インターネット資料の制度収集開始に伴い、インターネット情報選択的蓄積事業をインターネット資料収集保存事業(WARP)に拡充、インターネット資料収集保存事業(著作別)(~2011)を公開
日中韓電子図書館イニシアチブ協定を締結
国立国会図書館サーチ(開発版)公開
2011 国立国会図書館デジタル化資料(~2014)公開
歴史的音源公開
2012 国立国会図書館サーチ公開
歴史的音源、公立図書館等への配信提供開始
著作権法改正(2013年1月施行)⇒当館がデジタル化した資料のうち、入手困難な資料を図書館等に送信することができるようになる
国立国会図書館法改正(2013年7月施行)⇒民間機関等がインターネット等で出版(公開)する電子情報で、図書または逐次刊行物に相当するもの(電子書籍、電子雑誌等=オンライン資料)を収集することが可能となる(当面、無償かつDRM(技術的制限手段)のないものに限定)
2013 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)公開
オンライン資料収集制度(e-デポ)を開始
2014 国立国会図書館デジタル化資料を国立国会図書館デジタルコレクションにリニューアル
図書館向けデジタル化資料送信サービスを開始
視覚障害者等用データ収集・送信サービスを開始
電子形態の博士論文の収集開始
2015 電子書籍・電子雑誌収集実証実験事業を開始
2016 近代デジタルライブラリーを終了し、国立国会図書館デジタルコレクションに統合
2018 国立国会図書館オンライン公開
著作権法改正(2019年1月施行)⇒デジタル化資料のうち絶版等で入手困難な資料を外国の図書館等にも送信可能になる
2019 ジャパンサーチ(試験版)を公開
次世代デジタルライブラリーを公開
外国の図書館等にも図書館向けデジタル化資料送信サービスを拡大

 

伊藤: それだけのプロジェクトでありながら、国立国会図書館は一般に私たちには非常に馴染みもないですし、そのデジタルアーカイブは私たちでも利用できるのでしょうか。

 

岡本: そこが問題です。ウェブで公開されているものもありますが、国立国会図書館の館内や国会図書館からデータ配信を受けている公共図書館、大学図書館の館内からしかアクセスできないものも多数です。著作権など法律上の問題と、それにまつわるさまざまなステークホルダー(利害関係者)が存在するからです。そこを整理しないといけない。

 

伊藤: 地方自治体は財政も大変厳しいですし、これから図書館を再整備するというのもかなりハードルが高くなっていくことは間違いありません。ましてや5万点、10万点の書籍を整えるだけでも、その費用たるや結構な金額になります。その国立国会図書館のデジタルアーカイブにアクセスできれば、ネットワーク型の新しい図書サービスがつくれそうです。

 

岡本: 今、その辺は著作権法を所管する文化庁や、経済産業省、総務省などが動き始めています。今回のアフターコロナで、図書館DXも誰もがオンラインで本が読めるようになる、というのはすごく分かりやすい変化、住民ベネフィット(利益)になります。そういうことを立法府が予算をつけることで動かせます。

 

伊藤: なるほど。立法府が動きやすいように、地方自治体や地方議会がアクションを起こす、という方法もありそうですね。100億円以上使った財産として国立国会図書館にデジタルアーカイブがあるわけですから、それをオープンにしていこう、と。それを各地方議会が求めていくという動きは社会を大きく動かす力を持ちますね。地方議会が持っている、正当な政治パワーの使い方ですし、クリエーティブです。

 

岡本: 最終的には国立国会図書館法や著作権法等の改正が必要になるでしょうが、そういう声が全国の地方議会から上がってくれば、大きな社会運動になりますね。地方自治体が個々に電子図書館を一から設計するよりもはるかに安価で済むはずです。本をはじめとする情報は人の目に触れて初めて、価値を持ちますから、この議論には乗ってくる地方議員もいるのではないかと思います。

第4回につづく


プロフィール
伊藤大貴(いとう・ひろたか)伊藤大貴プロフィール写真
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。

 

岡本真さんプロフィール写真岡本真(おかもと・まこと)
アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役
1973年生まれ。1997年、国際基督教大学(ICU)卒業。編集者等を経て、1999年、ヤフー株式会社に入社。Yahoo!知恵袋等の企画・設計を担当。2009年に同社を退職し、アカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg)を設立。「学問を生かす社会へ」をビジョンに掲げ、全国各地での図書館等の文化機関のプロデュースやウェブ業界を中心とした産官学民連携に従事。著書に『未来の図書館、はじめます』(青弓社、2018年)ほか。

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