【PublicLabセミナー報告】#保育教育現場の性犯罪をゼロに―国の対応と自治体の役割―

週1回ペースで実施されている“PublicLabセミナー”。地方議員向けに、さまざまな社会課題に関する勉強会を開催しています。今回はその一つをご紹介。社会課題の中には、解決の糸口が見つかったとしても実現までのハードルが高く、これからその解決策実現までの道筋を考えていかなければないのもあります。

今回取り上げた課題は、保育・教育現場における性犯罪。「先生が児童生徒へ」「大人が子どもへ」という優位に立つものがその立場を悪用し、教員や保育スタッフが犯行におよぶ例が後を絶ちません。2020年春のコロナ禍には、ベビーシッター・マッチングアプリを介して派遣された保育士が、保護者の在宅ワーク中、隣の部屋でわいせつな行為におよんで逮捕されたというニュースが、大きな波紋を呼びました。保育・教育現場における性犯罪をゼロにする方法はないのか、国や自治体はどう対応しているのか、私たちにできることは何か―。

2020年11月中旬、新宿のとある会議室にて、この課題に関して学び、情報共有を行うPublicLabセミナーを実施しました(ファシリテーター:目黒区議会議員・たぞえ麻友)。勉強会には、地方議員・元教員・保育研究家らが集まり、活発な議論の場となりました。今回はその様子をお伝えします。

 

【勉強会前半:講演】

「#保育教育現場の性犯罪をゼロに 国の対応と自治体の役割」
認定NPO法人フローレンス 前田 晃平 氏

 

前田晃平氏・自己紹介
認定NPO法人フローレンス職員。フローレンスの業務の傍ら、「#保育教育現場の性犯罪をゼロに」するため、ロビイング、ソーシャルアクション等を推進中。30歳で市長選に出馬した経験も。妻と娘の3人家族。
今日はみなさんと情報交換させていただき、問題意識を共有したいと思います。この問題のカタチを明確にした上で、解決策を見出し、その後包括的・実践的な制度を開発して、実装することを目標としています。

日本の保育・教育現場は、性犯罪の温床

まず問題を整理しておきたいと思います。性暴力の被害は、実は「面識のある人」から受けることが多く(6~7割程度)、通り魔的な犯行はごくわずか(1割程度)だということが分かっています。加害者は、教師・医師・スポーツコーチなどの優位な立場=「対等ではない関係性」を悪用しているのです。また、小児性わいせつは、再犯率と常習性が非常に高いことが分かっています。再犯率はなんと84.6%にも上り、他の性犯罪と比較して突出して高い数値となっています。

再犯率が高いというのに、免許制度に大きな問題があります。現状、教員はいかなる理由で免許を失効しても、3年で復職可能(教育職員免許法第五条、四など)。保育士は2年(児童福祉法第十八条の五の二など)。ベビーシッターに至っては、なにも制約がないという状況です。性犯罪者は、仮に一つの職を追われても、地域や職種を変えれば、いくらでも子どもと接する仕事に就くことができてしまいます。つまり、日本の保育・教育現場は、性犯罪の温床になっているんです。

英国DBSにならい、「日本版DBS」が必要

英国のDBSの仕組み
英国司法省管轄の犯歴証明管理及び発行システム(Disclosure and Barring Service)。業界をまたぎ、子どもや要支援者に関わる職場で働くことを希望する人は、DBSから発行される犯歴証明が必要。ボランティアであっても同様。この証明書を教育監査局Ofsted(Office for Standards in Education、学校の評価、監査を行う組織)に提出することで、就労が可能になる。

イングランドとウェールズ(合わせて人口6000万人)で、性犯罪の前科等を理由に「就業不適切者」とみなされる人は6万4000人います。日本の人口はちょうど2倍ですから、単純に計算すれば、日本に不適切者は12万8000人もいることになるんです!おそろしいことだと思いませんか?だから私は、日本版DBS(保育教育現場に就労する際は、無犯罪証明を義務付ける制度)が必要だと考えています。日本の学校は自治体ごとに縦割りなので、日本にも無犯罪証明書を発行する機関があれば、すべての保育・教育現場に適用できると思います。

「日本では犯歴の照会ができないの?」と思ってしまいますが、実は一部ですでに行われています。

  • 里親登録の際、都道府県が本人の意思を確認した上で、犯歴情報の照会を行っている。
  • 無犯罪証明書が必要な国で日本人保育者が就労する際、日本の警察は年間5万件の犯罪経歴証明書を発行している。

➡「なんで外国の子どもは守るのに、日本の子どもは守れないの??」という疑問がわきませんか?

「#保育教育現場の性犯罪をゼロに」キャンペーンを実施

2020年6月から、ソーシャルアクションやロビイングといった活動を開始し、これまで多くの方にご賛同いただきました。大臣や国会議員に署名と意見書を提出し、この問題が国会でも議論されています。
<活動内容>
・SNSで「#保育教育現場の性犯罪をゼロに」キャンペーンを実施
・記者会見で当事者の声を発信(7月)
・男女共同参画担当大臣、与党議員に署名と意見書を提出

現在の国の動きは・・・

1保育者の自治体データベース構築へ

厚生労働省社会保障審議会「子どもの預かりサービスに関する専門委員会」が開かれ、自治体データベース構築についての議論がスタートしました。しかし、犯罪者登録は、現状「自己申告制」で議論されており、それでは申告しない人が多いのではないでしょうか。犯罪者を漏れなくチェックできる制度設計が必要だと思います。

2教員の欠格事由の厳格化

文部科学省が、教育職員免許法の法改正に向けて動き出しています。具体的には、教員の免許取消期間を3年から、40年へ延ばそうというものです。しかし、厚生労働省には動きがないので、もし文部科学省管轄の教員にのみ適用されれば、教育現場から保育現場に性犯罪者が流れ込むだけになってしまいます。

実現を阻む5つの壁

1加害者の個人情報保護

「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」では、たとえ本人であっても刑罰に関する情報にはアクセスできないと定めています。これは、就職等の場面で、事業者が本人に刑罰に関する開示請求をさせる可能性が考えられるためだといいます。犯歴がある人の社会復帰を守るため、加害者の個人情報は保護されなければならないのです。

2加害者の更生機会の損失

「加害者の更生機会を奪うな」という声はSNS等でも極めて多いです。教員の免許取消期間を3年から、40年へ延ばそうという動きもありますが、一方で法務省の官僚は「如何なる刑も最大10年で効力がなくなる」(刑法27条及び34条の2)ので、そもそも、「免許取消期間を40年にするのは難しいのでは」と話しています。

3縦割り行政の弊害

教育の文科省と、保育の厚労省の壁は大きいですね。内閣府(助成金)や経産省(保育園を運営するのは民間企業)、法務省(法律)関連もあり、この問題は各省庁をたらい回しにされます。各省庁の担当の方は「どうにかしないとね」と仰るけれど、その人の立場上どうにもできない。それなら政治家がやるしかないのでは。「子どもはたった一つの大切な存在なのに、権利が分割されている。横串を刺して動かないとどうにもならない!」と思います。

4対象者が登録できない可能性

文科省の統計によれば、わいせつ教員(懲戒免職の原因の約7割はわいせつ行為による)が刑事告訴される率は6%しかないといいます。仮に立件されたとしても、暴行罪、住居不法侵入罪と判断された場合、性犯罪であっても無かったことにされてしまう可能性もあります。 文科省からは、教員による性犯罪が起きた際の報告を徹底するよう通知が出されていますが、いわゆる「事なかれ主義」で機能していないんです。国が通知を出しても、地方が実施しないのであれば、意味がありません。

5採用時に欠格事由を確認しきれない

教員免許状や保育士証のコピーが本物かどうか、失効中ではないか、事業者が採用時にチェックしきれていない、という現実があります。免許取消期間を延長してもらっても、雇う側の確認が十分でなければ、意味が無くなってしまうのです。

 

➡以上5つの壁があることが分かり、国が法律で制度を作ったとしても、このままでは現場の運営がボトルネックとなり、実効性のないものになってしまう可能性が高いのです。そこで私は今、「現場の仕組み、ガイドラインや条例で規制強化できないか?」という視点で情報を集めており、今日みなさんにも知見をいただければ幸いです。

 

【当講演のグラレコはこちら】

<作成:板橋区議会議員 南雲由子さん

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