小規模自治体の公務員はつらいよ〜幸福や楽しさを、仕事の中に見いだすには 〜(後編)

長野県佐久穂町政策アドバイザー・在賀耕平

 

2022/05/31 小規模自治体の公務員はつらいよ〜幸福や楽しさを、仕事の中に見いだすには 〜(前編)
2022/06/07 小規模自治体の公務員はつらいよ〜幸福や楽しさを、仕事の中に見いだすには 〜(後編)

挑戦や行動を生み出す源は…

さて、ここまで地方公務員の大変さについて論じてきたが、次に自治体の置かれている状況を簡単に整理しておきたい。

自治体が置かれている状況は厳しい。人口減少、少子高齢化によって起こるさまざまな問題(医療・福祉の空洞化、空き家の増加、田畑の荒廃、各産業における人員不足、財源不足など)が待ち受けている。それらの問題について既存事業をやりながら、しかも今より少ない人数で対応していかなければならない。

基本的にはさまざまな面でダウンサイジングや効率化を図っていくことが大切であるが、何かを減らすという行為は受益者からの反発が大きいため、困難な取り組みとなることが多い。またダウンサイジングや効率化だけでは衰退するので、地域での価値創造にも取り組まなくてはならない。

 

効率化も価値創造も、現在の役場の体制から生み出すのは非常に難しい。それはなぜか。

役場は業務の継続性を重要視し、組織をつくってきた。ベテランになれば、どこの部署に配属されても前任の仕事を引き継ぎ、きちんと仕事ができるゼネラリストを育てることを重視してきた。しかし現在は効率化も価値創造も、ゼロベースで本当に必要なこと、最適なやり方を考えていかなければならない。前例踏襲が良しとされてきた組織文化を変えていかなければならない。

そのためには創造性を発揮し、失敗を恐れずにチャレンジする個人やチームと、失敗を許容して再チャレンジを促す組織風土が必要である。役場のマネジメント層はもちろん住民や議会にも、このことを理解してもらう必要がある。

 

佐久穂町は、まち・ひと・しごと創生総合戦略を「コミュニティ創生戦略」と名付けている。自律し、多様なコミュニティが人々の暮らしを支え、挑戦や行動を支援する町を目指すという意思を示したものだ。この戦略は町全体を想定して作られたものだが、もちろん役場の中にも挑戦や行動が生まれることを期待している。

挑戦や行動が生まれるためにはどうすればいいのだろうか。ヒントとなるキーワードは「幸福」だ。矢野和男著「予測不能の時代」(21年、草思社)によれば、「仕事では、工夫をしたり、人に頭を下げたり、未経験のことに背伸びして挑戦できるかどうかで、結果は大きく異なってくる。主観的な幸福感やいいムードは、このような工夫や挑戦を行うための『原資』となる精神的なエネルギーを与えていたということだ」

 

しかし本稿の前段で見てきた通り、地方公務員の置かれている環境は厳しい。「どんどん新しいことにチャレンジしていこう」とハッパを掛けても「原資」がないことにはうまくいかない。では、原資である幸福を生み出すためにはどのようにしたらいいのだろうか。私は二つの方向性があると考える。

 

【1】職員を代替可能なパーツとしてではなく、一人の人として向き合う
【2】役場内にフラットなチームをつくっていく

職員を一人の人として向き合う

 

正解のない仕事を前に進めるためには、その分野に関して問題意識と仮説を深く持ち、現場を知っていて、何より情熱を持って問題解決を図りたいと思う職員が必要である。

職員一人ひとりを代替可能な存在ではなく、一人の人としてどのような志向を持ち、どのような得意・不得意、好き嫌いがあるのかを理解した上で、その人に向いた仕事をアサイン(割り当て)していくことが第一歩だと思う。一人ひとりが好きなことをしたら、役場全体が回らなくなるのではないかという批判もあるだろう。やってみなければ分からないのだが、思った以上に人の得意・不得意、好き嫌いは異なっている。

 

やつづかえり著「本気で社員を幸せにする会社」(19年、日本実業出版社)で紹介されている「株式会社パプアニューギニア海産」(大阪府摂津市)の事例で、「嫌いな作業はやらなくてよい」という制度がある。全パート従業員に各作業の好き嫌いを尋ねるアンケートを行い、「嫌い」と答えた作業はやらなくてよいというルールだ。「アンケートの結果、分かったのは『人間の好みは多様で、嫌いな作業は重ならない』ということでした」

公務員とは業種が全く違うので、どうなるかは分からないが、アンケートを取ってみるくらいはやってみてもよいのではないだろうか。

もちろん公務員の基礎教養として、体験しておくべき仕事はあり、大卒の新入職員であれば、入庁から35歳くらいまでの間に満遍なく経験してもらえばよい。その中で職員個人の適性や興味を見極めて人材データベースを作っていき、それを活用しながら人事異動を行っていくのがよいのではないか。

 

フラットなチームを組織内に

 

「予測不能の時代」は、幸せな組織の条件として①人と人とのつながりが特定の人に偏らず、均等である②5分から10分の短い会話が高頻度で行われている③会話中に体が同調してよく動く④発言権が平等である──という特徴を挙げている。

残念ながら、現在の役場は四つの特徴を満たしているとは言い難い。もともと役場は上意下達の組織を志向しており、フラットな組織体系とは相いれない。

会議は議論の場というより、偉い人が決めた方針の伝達であることも多い。急に組織全体をフラットにすることは難しい。しかし、特定のミッションを遂行するためのプロジェクトチームをつくり、その中をフラットにしていくことはできるのではないか。そして、その文化を徐々に組織全体に広げていくのはどうだろうか。

 

「ふるさとCM大賞 NAGANO」という動画のコンテストで、佐久穂町は18年の第18回大会で最優秀賞を受賞することができた。これはプロジェクトチームの成果のたまものであった。

地域おこし協力隊員がファシリテーター(進行役)になり、若手職員を中心としたチームを結成した。メンバーが自由に発言できる雰囲気をつくり、それぞれが自らの得意な領域を担当して動画の企画制作を行った結果、92作品の中から最優秀賞に選ばれたのだ。

プロジェクトチームをつくり、チームで事業を行うメリットは幾つもある。組織をいじらなくても組成でき、30代後半から40代前半の職員をリーダーに据えることで、係長になる前にリーダーシップの在り方やコミュニケーションの取り方を学ぶことができる。

 

自治体の仕事は今後、DXの流れから標準化が進み、「既に正解が決まっている仕事」は効率化が進み、人の手がかからなくなってくるだろう。残された「正解が分からない仕事」には、多様なバックグラウンドを持つ職員で構成されたチームで当たるべきだ。

若いうちからそのような仕事に携わることで、役場全体での問題解決能力も上がってくることが期待できる。

 

まとめ

さて、佐久穂町に開校した大日向小学校の建学の精神は「誰もが、豊かに、そして幸せに生きることのできる世界をつくる」である。

町の役場も建学の精神を体現するような職場になり、そして政策立案・実行能力が上がり、町民の幸せが生まれ、さらに多くの挑戦が町にあふれるように私も考え、行動していきたい。

 

(おわり)


【プロフィール】

在賀 耕平(ありが・こうへい)
長野県佐久穂町政策アドバイザー

1975年大阪府生まれ。大卒後に人材系ベンチャー、ナレッジマネジメントのIT系ベンチャー企業に勤務した後、長野県佐久穂町に移住。「Golden Green」の屋号で、無農薬野菜を宅配で全国に販売している。2016年より佐久穂町政策アドバイザーを務める。

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