生物多様性の保全が人々の利益につながる社会へ(3)~環境保全を日本の次世代産業に~

株式会社バイオーム代表取締役・藤木庄五郎
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

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第1回第2回に引き続き、生物多様性や生態系の保全に向けた事業を展開する株式会社バイオームの藤木庄五郎代表取締役のインタビューをお届けします。

同社は、人工知能(AI)の画像解析技術を用いたスマートフォンアプリ「Biome(バイオーム)」を開発し、日本や世界各地の生物の生息状況を収集、ビッグデータ化して環境保全の取り組みへの活用を促しています。

 

前回までは地方自治体と連携し、住民参加型で外来種の一斉調査を行った事例や、学校教育や観光分野でのアプリ活用の事例を紹介しました。ゲーム感覚で利用できるアプリがユーザーの「楽しい」を喚起し、環境保全に有用なデータとなっていく様子に、環境問題の解決につながる一筋の光を感じることができました。

今回からは、多くの自治体で対策が急がれる侵略的外来種について、また同社が思い描く自治体・企業連携の理想像などについて伺います。(聞き手=Public dots & Company 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

生物多様性が失われたときの影響

小田 近年頻発している生物の大量死などのニュースを見ると、環境の専門家でない私にも生物多様性が失われつつある現状が感じられます。専門家の藤木さんから見ると、どうでしょうか。現在の日本で危機的だと感じる事例があれば、ご紹介ください。

藤木氏 やはり外来種問題は早急に対策が必要だと感じます。特に「特定外来種」と呼ばれる、生物多様性を大きく脅かす種については、全国の至る所で被害が確認されています。

 

小田 バイオーム社は特定外来種の調査にも携わっていますよね?

藤木氏 幾つか具体的な事例をお話しします。まずは、大阪の淀川水系で増えてきているアメリカナマズです(写真1)。その名の通り、米国が原産の種ですが、もともとは食用目的で国内に移入されました。それが養殖場から逃げ出すなどして国内の河川などにすみ着き、個体数を急速に伸ばしています。

アメリカナマズが特定外来種に指定されている理由は、雑食性で在来種を食べてしまうからです。またヒレに鋭いトゲを持っており、網に掛かった際に漁業者がけがをするといった被害も報告されています。

 

写真1 淀川水系で見つかったアメリカナマズ(出典:株式会社バイオーム)

 

このような影響があるため、生息が確認された水系では防除などの対策を講じる必要があります。

当社は国立環境研究所と連携し、何度も淀川水系でアメリカナマズの調査を行っていますが、時には調査開始から30分ほどで大型のものを発見するなど、繁殖力の強さがうかがえます。

生態系への影響を考えると、完全に定着する前に防除しなければなりません。そこで生息地域を特定するため、「Biome」を使ってアメリカナマズの発見情報を募っています。

 

淀川水系では、ナガエツルノゲイトウという外来水草の影響も懸念されています。この植物は「地球上最悪の侵略的植物」といわれるほど、繁殖力が高いのが特徴です。

水際から水面に覆いかぶさるように生え、在来植物の生育を阻害したり、水路に詰まったりする上、農地に侵入すれば農作物の生育にも影響を及ぼします。駆除しても茎や根がわずかに残っていれば、あっという間に繁殖するので対策が難しいのですが、それでも地道に駆除を続ける他ありません。このナガエツルノゲイトウについても「Biome」で発見情報を集めています。

 

最近は、このような外来種の発見事例がどんどん増えてきています。水田に生息して稲を食べてしまうジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)、サクラやウメ、モモを食害するため、果樹園に被害が出ているクビアカツヤカミキリなどです。いずれも生態系のバランスが崩れることによる影響が心配されます。

 

小田 外来種が在来種を侵略することによる一番の影響は何なのでしょうか?

藤木氏 ある1種が優先的になり、生物多様性が失われると、その土地は「不安定」になります。今お話ししたような直接的被害が発生することもそうですが、その1種が仮に干ばつなどで絶えた場合、その土地に生物がいなくなります。生態系というのは、多様だからこそ安定します。

 

小田 人間社会と同じですね。人間も多様性がなければ、社会が不安定になりますから。会社も同様で、会社の生存可能性はさまざまな人材がいるからこそ高まると言えますね。

藤木氏 本当にその通りだと思います。

 

小田 バイオーム社が調査対象としている生物には、他にどのようなものがあるのでしょうか?

藤木氏 基本的に、国内の動植物はほぼすべて調査対象です。地上も水中も、ミジンコのような小さなものからクジラのように大型のものまで、すべてです(写真2)。

 

写真2 調査の結果は分布図などで可視化される(出典:株式会社バイオーム)

 

位置・日時情報も活用

小田 「Biome」はスマホをかざすだけで、その生物種が何であるのかが分かります。これは画像解析の技術だと思うのですが、AIの機械学習も組み合わせて精度を高めているのでしょうか?

藤木氏 基本的には機械学習ですが、特に画像を用いた深層学習(ディープラーニング)で判定しています。ただし生物の特定は、見た目だけでは判断できない場合も多く、かつ成長過程で形態が変化するものも多いので、画像だけで全種類を完璧に判定するのはほぼ不可能です。そこで当社は、撮影された画像の位置や日時といった情報も判定に活用しています。

実は生き物というのは、いつ、どこで出現するのかが大体決まっています。例えば、京都の鴨川デルタ周辺で4月に見られるチョウは、数種類ほどしかいないかと思います。

ですから、そのとき、その場所で撮影したチョウだと分かれば、その候補は画像を使わなくても数種類まで絞ることができます。位置情報や日時情報を活用することで精度が高まります。

 

小田 生き物ならではの難しさがあるのですね。

藤木氏 今は地球温暖化で生き物の生息地域がどんどん変化しているので、そうした情報は随時、AIに追加で学習させています。

 

小田 藤木さんご自身もエンジニアですものね。民間企業では、テクノロジーをどのように使いこなすかが生存戦略の要になるといわれていますが、バイオーム社の場合は生き物に特化させているということですね。

藤木氏 テクノロジーの使い道は無数にありますが、当社のチームは生物のモニタリングに特化して利用しています。

 

(第4回へ続く)

 


 

【プロフィール】

藤木 庄五郎(ふじき・しょうごろう)
株式会社バイオーム代表取締役

1988年生まれ、大阪府出身。京都大学院博士号(農学)取得。位置情報システムと画像解析技術を専攻。大学時代に東南アジア・ボルネオ島で2年以上キャンプ生活をしながら調査を続け、衛星画像解析を用いた生物多様性可視化技術を開発。2017年5月株式会社バイオームを設立。

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