
兵庫県宝塚市長 森臨太郞
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2026/10/14 「対話と決断」の自治体経営~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(1)~
2026/10/15「対話と決断」の自治体経営~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(2)~
2026/10/21 国際的な視点から見る、少子化・高齢化対策の本質~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(3)~
2026/10/22 国際的な視点から見る、少子化・高齢化対策の本質~森臨太郎・兵庫県宝塚市長インタビュー(4)~
兵庫県宝塚市長、森臨太郎氏のインタビュー後編をお届けします。前編(1)(2)では、市民の声を徹底して聞きながら、最後は自信を持って決める「対話と決断」の自治体経営に焦点を当てました。今回、注目するのは森市長の「言葉」と「人口減少論」です。
森市長は、小児科医を経て、英国や世界保健機関(WHO)、国連人口基金(UNFPA)で医療・人口政策に携わってきました。とりわけ国連ではアジア太平洋地域の少子高齢化を担当し、人口政策を国際的な文脈で見詰めてきた経歴を持ちます。また、「政策は文書、政治は言葉」という言語観の持ち主でもあります。
政策を「文書」で設計し、政治を「言葉」で届けることの関係から、職員の文章力と人工知能(AI)を巡る課題、そして少子化・高齢化対策の本質へと話は進みます。「少子化だから少子化対策を」という語られ方を、森市長は国際的な視点から問い直します。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)
政策は「文書」、政治は「言葉」
小田 森市長は、さまざまな国で仕事をされ、「政策は文書、政治は言葉」という趣旨のお話をされています。これについて、言語体系の違いが政策判断に影響を与えることはあると思いますか?
森市長 影響するとは思います。ただ、私が政策の現場で使うのは英語か日本語です。途上国に行っても、現地の言葉は英語通訳や翻訳に頼りましたし、国連も英語がメインです。言語体系に左右されると思う半面、突き詰めていくとそんなに違いはないのかな、という思いもあります。私が政策を勉強したのは英国でした。そこでよくやっていたのは、ワード文書に私が言葉を打ちながら「これならどう思いますか」と皆で詰めていく作業です。私は英語がネーティブではないので、誰かが「こう言い換えては」と言えば、その場で打ち直して、「この言葉ならどうですか」とさらに詰めていきました。
面白いのは、オーストラリア、英国、米国で、言葉の扱いが違うことです。特に英国では、語彙を変えることで合意形成を図る傾向が非常に強かったです。日本語でも、「調査していきます」と「検討していきます」では、ニュアンスが違いますよね。英語でも、そういった語彙の選び方で合意形成をしていくことがあるのだと感じました。
小田 文書と言葉、という点で、他にも気付かれたことはありますか。
森市長 英国の議員連盟では、政策を作る側の私たちは発言せず、議員が市民代表に行う説明をずっと聞いていました。そこで気付いたのは、議員の専門性が高く「自分の言葉」で話しているということです。当然党派が違えば意見も異なりますが、専門知識をベースに本質を捉えた話し合いがされていました。
英国は二大政党制で、党の色が強いです。党で勝負するので、どの選挙区に出ても最後は党に入ります。だから議員本人は、自分の専門性をつくることができます。すると党全体で見たときにも、専門性が育ちます。そういった構造になっているという気付きはありました。
小田 次に、「話す言葉」と「書く言葉」の違いについてはどうお考えですか?
森市長 「話す言葉」は、音楽と同じだと思います。どう話すかがかなり重要で、そこに思いが乗るから伝わります。単に上手に発声すればいい、という意味ではなくて、思いがどこにあるのか。英語を話すにしても、日本語でも、その重心の置き方は同じです。
小田 ところで、最近は文章を一般の人が読まなくなってきましたが、「書く言葉」の大事さとは何でしょう。
森市長 言い方に左右されないことだと思います。ファクトに立ち返るときには、やはり文章になっていきます。私自身、SNSでは動画での発信もしますが、文字の方がかなり多いです。
小田 行政職員は、話すことと文書で伝えること、どちらの能力も必要になると思います。
森市長 管理職、特に部長職以上は「話せる」ことが重要になってきます。議会答弁では、同じ言葉を発していても、自信があるかないかで受ける印象が全然違ってきます。委員会では課長級が中心になりますが、そこも同じです。ただし最終的には、市役所の職員としては、文書の方をより大切にしてほしいと思っています。
小田 最近はAIによる業務効率化が進んでおり、文書作成にかかる時間も大幅に少なくなりました。一方で、このままではAIで出力した文書だらけになるのではないかと思っています。
森市長 難しい問いだと思います。もちろんAIを活用することで良い面もあるのですが、知的能力全体が落ちてこないか、という懸念があります。便利な道具が目の前にある中、筋トレのように自分で言葉を紡いで書き続けるのはなかなか難しい。だからこそ、これから私たちが文字をどう扱うかは、とても重要な局面だと思っています。
少子化・高齢化対策の本質とは
小田 森市長は、前職の国連にてアジア太平洋地域の少子高齢化や人口政策に携わってこられました。日本の自治体では、人口減少が衰退や危機として語られがちですが、どうお考えですか?
森市長 国連職員の時代に、学者や各地域の話に触れる中で、人口減少に対する自分の考えが少しずつ変化してきた感覚があります。
少子化・高齢化・人口減少を短絡的に捉えると、まず「高齢者が増えるから、高齢者のケアを充実させないと」という考えになります。しかし、高齢者が増えようが増えまいが、高齢者はいるわけで、高齢者向けの制度はもともとあるべきなんです。それが第一の発見でした。
第二に、少子化になると「子育てはお金がかかって大変だから、子育て世帯を応援しないと」という考えになります。もっと極端な方向に進むと、「もっと子どもを産んでもらわないと」と、女性の意思決定を侵すような話になっていきます。私がいた国連組織はジェンダーの課題も扱っているところなので、それはおかしいだろうとずっと訴えてきました。子育て支援をすれば少子化を抑止できるかといえば、そうではありません。
では、なぜ子どもを産みたいのに産めないのか。それを深掘りして聞いていくと、将来への不安、仕事の選択肢のなさ、経済格差、住宅が高いなどといった話が出てきます。さらには、国連で働いていると紛争地域を目の当たりにすることもあります。紛争のある環境では、子どもを産みたいとは到底思えない。人間を生物として見ても、安心感がなく将来の見通しも立たない場所では子どもを持てないんだと強く感じてきました。
そう考えを進めていくと、人口問題への対応とは結局、今の市民、そして近未来の市民に必要なことを公平公正にやる、ということに尽きると思っています。人口が減っていくなら、どう小さくしていくかを考え、粛々とやらざるを得ない。増えてきたら増えてきたように対応するのです。
しかも多くの場合、背景には価値観の多様化と働き手の減少があります。その状況も踏まえて最適な社会にしていかなければなりません。そういうときにやるべきことは、たいてい不人気な政策です。不人気な政策をやり切るだけの人気がリーダーには必要です。そんな話を先日、北マケドニアでの人口問題会議でしてきました。すると会場からは、とても良い反応が返ってきました。
小田 「子どものため」「高齢者のため」などと掲げられた政策はたくさんあります。しかし根本的には、縮小に合わせたまちのリデザインが必要です。そういった本音の部分での共感が得られたのでしょうね。
森市長 人口問題会議のシンポジウムでは、パネリストが順番に「うちの国では、こんな子育て支援をやっています」などと、いわゆる「良い施策」の発表をしていました。最後に私の番になったので今の話をしたら、「その通りだ」と、場の雰囲気が変わってしまいました。建前ではそう言うけれど、現実はよく考えたらこうだよね、と。皆さん、思っていても言えなかった、あるいは言わなかったところがあるのだと思います。
(第4回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年9月14日号
【プロフィール】

森 臨太郎(もり・りんたろう)
1970年生まれ。岡山大医学部卒業、同大学 院医学研究科博士課程修了、ロンドン大学 で公衆衛生学・熱帯医学大学院修士課程を 修了。小児科医として国内外で勤務した後、 英国・国立医療技術評価機構(NICE)、世界 保健機関(WHO)、東京大学大学院准教 授、国立成育医療研究センター政策科学研 究部長、国連人口基金(UNFPA)アジア太 平洋地域事務所地域アドバイザーなどを歴 任。2025年4月、宝塚市長に就任。

