SDGsにおける都道府県の役割
「SDGs中間支援組織(仮称)」の必要性と「若者の参加」
三重県議会議員
稲垣昭義
少子高齢化や過疎化が進み、地方は疲弊し、小さな市町村は非常に厳しい状況にある中で、筆者は自治体議員として、持続可能な地域であるためには広域自治体である都道府県の役割が重要であると考えています。
「誰一人取り残さない」ことを基本理念にしたSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが、次の世代まで地方を持続可能にすることにつながるのではないかと期待し、先進的な自治体の取り組みを調査するとともに、考察を行いました。
2015年9月、米ニューヨークの国連本部で「国連持続可能な開発サミット」が開催され、193カ国によって「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。その中核はSustainable Development Goals(SDGs)で、2016年から2030年までの15年間での達成を目指した17の目標と169の具体的な取り組みで構成されています。日本政府は2016年12月に「SDGs実施指針」を決定しています。
このSDGsの最大の特徴は全員が主役で、基本理念は「誰一人取り残さない」ことであり、先進国も発展途上国も、行政も民間も、国も地方も一丸となってパートナーシップを組んで非常に多岐にわたる目標達成に向けて取り組む点です。
筆者は地方自治体議員をしており、人口減少、少子高齢化の時代に過疎化が進み疲弊する地方への危機感を抱いています。この「誰一人取り残さない」ことを基本理念にしたSDGsの取り組みが、次の世代まで地方を持続可能にすることにつながるのではと期待しています。
2019年11月に、先進的な取り組み自治体の聞き取り調査を行い、地方の小さな市町村が持続可能であるために広域自治体としての都道府県が果たすべき役割を考察しました。
神奈川県の事例
神奈川県は2018年6月に都道府県として初めて、「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」に選ばれました。県庁内に、SDGs推進課を設け、部局長級のSDGs担当理事を設置し、各部局にSDGs調整官を配置することとし、推進体制を万全に整えました。政策局SDGs推進課の担当者によると、2025年までの基本構想の下、2019年度「かながわグランドデザイン」という2022年度まで4年間の実施計画を策定しました。
神奈川県内では、「SDGs未来都市」に横浜市、相模原市、川崎市、鎌倉市の4市が選ばれたことから、基礎自治体のSDGsの取り組みも積極的になっています。しかし、これら4自治体とのSDGsの取り組み連携は進んでおらず、それぞれが独自に推進している段階であるとのことでした。そのため小さな市町村も職員向けの勉強会は行っていますが、協議するような場は設けられていません。今後は企業とのパートナーシップが県の強みであることから、特に市町村と企業とをつなぐ役割を担うことを考えているとのことでした。担当者の「SDGsは、市町村が本気にならないと根付かない。流行りやブームで終わらせず、地域の具体的な機運を高め、定着するような取り組みにしていかなければならない」との言葉が非常に印象的でした。
また、横浜市は「ヨコハマSDGsデザインセンター」を設置し、具体的に企業と地域のパートナーシップを進めています。企業と企業、企業と市民団体(地域)とのマッチングや、「快適な移動手段の充実プロジェクト」「ヨコハマ・ウッドストロープロジェクト」など幾つもの独自プロジェクトをスタートさせています。責任者は「3年間の国の補助金を活用しているため、3年後は自走できるようにしなければいけない」と語っており、自立に向けて独自プロジェクトを積極的に手掛けているとのことでした。また自立するためには金融が重要であるため、金融機関と共に、「プロジェクトを評価し、プロジェクトに対する融資ができないか?」「そのための認証制度が考えられるのではないか?」といった金融スキーム(計画)を検討しています。新しいスキームの構築には「社会的インパクト評価」によって、いかにして社会的価値を可視化するかといったことが重要です。この点においては、神奈川県が「SDGs社会的インパクト評価実証事業」を立ち上げ、SDGsに沿った取り組みの社会的な効果・影響(社会的インパクト)を定量的、定性的に把握し、評価する仕組みの構築に取り組んでいます。担当者によると「2020年度に社会的インパクト評価の仕組みを構築する」とのことで、その成果を期待したいところです。
滋賀県の事例
滋賀県では、基本計画をこれまで4年間の計画として策定していましたが、2019年度の改訂に当たり、SDGsに合わせて、2030年度までの12年間の基本構想として策定しました。12年後の姿を考えることは難しいですが、基本構想策定委員会のメンバーには、従来の各団体の長や有識者ではなく、できるだけ現場に近い人や、未来の主役である高校生などを選びました。総合企画部企画調整課の担当者によると、今までの基本計画では、主語が「県が」でしたが、今回策定した基本構想では「みんなが」に変わり、2030年の滋賀県の姿が客観的に描かれたことから、まさに後述するバックキャスティングというSDGsの考え方が強く出ているように感じます。
市町村や企業・団体と連携して「滋賀×SDGs交流会」を設置し、SDGsの啓発、交流や連携の場としています。大津市や近江八幡市など比較的大きな基礎自治体は積極的に関わっていますが、小さな市町村の参加はないのが現状です。今後は参加できていない市町村に積極的に声掛けをし、小さな自治体にSDGsはチャンスである、といったことなどを伝えていきたいと話していました。しかし、小さな市町村の中には、「SDGsは世界の話であって自分たちはそれどころではない」といった抵抗感を抱く自治体もあり、トップのリーダーシップが重要なのではないかと感じました。
企業との連携に関しては特に力を入れており、滋賀経済同友会からの提言を受けて、「滋賀SDGs×イノベーションハブ」を設置し、企業と連携して社会的課題の解決を目指しています。「ヨコハマSDGsデザインセンター」と同様に国の補助金を活用しており、3年間で自走できることが求められているため、担当コーディネーターによると、事務局が県と金融機関によって構成されていることから、新しい金融スキームの構築や持続可能な組織づくりに関心を持っているとのことでした。経済団体と県によって立ち上げられたことから県の産業部局が関わっており、産業政策の意味合いが強い組織になっていて、地域や市町村との関わりはないとのことでした。県と企業だけではなく、市町村や多様な主体が関わる組織にしていくことで、新たな展開が期待できるのではないかと感じました。
三重県の事例
三重県では、2019年にSDGsの考え方を柱に「みえ県民力ビジョン第三次行動計画」を策定しましたが、その責任者の戦略企画部長から聞き取りをしました。この実施計画は2020年度から2023年度の4年間が対象であり、SDGsは、個々の政策に反映するのではなく、総合計画である「みえ県民力ビジョン」の「三重県らしい多様で包容力ある社会を実現する」といった、理念実現のための視点として位置付けられています。基本理念にSDGsの視点を入れたことから、各部局で観光振興基本計画、環境基本計画、教育施策大綱などの個別計画を策定、あるいは改定する際に、SDGsの視点が反映されるようになりました。また、環境基本計画のように、2年前倒しで策定し、計画の目標年次をSDGsに合わせて2030年とする個別計画も出てきています。
市町との関わりでは、市町と共に地方創生会議の場が設置され、年2回勉強会をやっているので、この場を活用してSDGsの啓発や具体的取り組みを進めていきたいとのことでした。SDGsの取り組みには現場を持っている市町の活動が非常に重要であるため、市町と県の各部局が具体的にどう関わっていくかがポイントであるとのことですが、持続可能な地域づくりは自立的に行う必要があるとの理由から、財政的な支援に関しては消極的な印象を受けました。
一方、企業との連携が一番のポイントと考え、これまで県が企業や団体とさまざまな分野で結んできた包括連携協定が50以上あることから、これらの窓口を県庁内で一本化し有効活用することを考えています。新しく組織や仕組みをつくることも重要ですが、このような既存の組織を活用して効果的に取り組むことも一つの方法であると感じます。今後、全庁的なSDGs推進体制を築いていく中で、例えば「SDGsパートナーシップ窓口(仮称)」として企業や団体との包括連携協定の窓口が一本化され、企業とのパートナーシップを求める市町にとっても活用しやすいものにできれば、市町のSDGsの取り組みを支える役割を担うことにつながると考えます。
第2回に続く
プロフィール
稲垣昭義(いながき・あきよし)
三重県議会議員
1972年三重県四日市市生まれ。県立四日市高校、立教大法学部、明治大大学院ガバナンス研究科卒。2003年三重県議会議員選挙初当選、現在5期目。現在、三重県議会最大会派新政みえ代表