埼玉県横瀬町長 富田能成
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
2021/1/18 埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(上)
2021/1/20 埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(中)
2021/1/22 埼玉県横瀬町 富田能成町長インタビュー(下)
次なる一手は「地域商社」
伊藤 「カラフルタウン」を実現するためのピースには、他にどんなことを考えていますか?
富田町長 まだ組み立て中なんですが、新しい経済循環をつくり、新しい地域の価値をつくることです。町のブランド力を上げていきたいですね。例えば、食品加工物などで名物を作り、ふるさと納税の返礼品にするなど。横瀬町には、よこらぼで培った多様な人的ネットワークがありますので、川下(商品化の出口)には自信があるんです。クリエイターがデザインした綺麗なパッケージや、特色あるストーリーを活かすところから遡って、売れるものを作っていきたい。売れると分かれば、遊休農地を使って、新しい作物をみんなで作ることもできますし、川上と川下がつながるじゃないですか。それが機動的にできるように、つなぎになる「地域商社」をつくりたいです。
伊藤 地域にちゃんとフィットした、お金と人の循環の仕組みをつくることで、新しい価値が生まれ、幸せに近づけるということですよね?
富田町長 そういうことです。そこにスケールは要らないんです。地域の中でお金が循環すればよくて、それがしっかり価値として世の中に認められていく。もちろん、経済システムの中に組み込まれるので、商品はより高く売った方がいいけれど、それが世界市場を制覇しなくていいわけです。地域の中での循環をつくっていくことに意味があって、消費者は「便利さ」ではなくて「意味」にお金を払う、それが叶えられる地域商社をつくりたい。小さい町で特産品や特徴的なものが出てくると、小さい町の方が「ブランド色」が生きてくると考えているわけです。
伊藤 地域商社への期待は膨らみますね!
富田町長 空き家対策も大事ですよね。町全体で空き家が二百数十軒あって、そのうち30軒弱が古民家です。地域商社も連携して、良い物件をきちんとリノベーションして、価値をつくれる人たちに入ってもらうことも視野に入れています。
伊藤 地域商社はどういう仕組みでつくられるイメージですか?
富田町長 地域おこし企業人の制度を活用しようと考えています。企業から社員を派遣してもらって、町にアイデアを提供してもらえれば。これはまだ決まっていませんが、派遣後に、そのまま現地法人をつくってもらうプランも考えています。
伊藤 新しい官と民によるビジネスのつくり方ですね。
富田町長 今総務省が用意している、地域おこし協力隊と地域おこし企業人という制度は、さまざまなトライアルができるので、有意義に活用すべきだと思います。ただ、外の人が来て帰って行くだけではダメで、いかに地元にコミット(関与)してもらえるかが大事。その人たちが、何らかの価値を生むとか、生活の軸足を置くとか。仮に現地法人をつくったとして、この町でビジネスチャンスを掴めるのか、事前にしっかり検討しなければなりません。
小さな町から未来をつくる
伊藤 富田さんは銀行出身で、お金をいかにスケール(増加)させるかという、資本主義の側からいらっしゃったわけですが、人口8000人だとスケールしないですよね。スケールすべきか否か。二者択一ではなく、歩み寄る方法があるのか。両方の立場を経験されている富田さんから見たときに、利益を追求する側にいる民間のビジネスマンに対して、メッセージをお願いします。
富田町長 利益のみを追求する、行き過ぎた資本主義は、もう曲がり角ではないかと思っています。そろそろ世の中は次の価値観を模索しているところではないでしょうか。おそらく自分の年齢とも関係があるのですが、20代前半で働きだして、最初の20年、後半の20年。そのちょうど折り返しの時に、初めて「死ぬまでに何をしないといけないか」という、引き算をしたんですね。その時、気付いたんです。お金はもちろん欲しいけど、それよりももっと大事なことがあるなと。もちろん資本主義の経済循環は否定しないし、そこには乗らざるを得ない。横瀬町で実施することもすべて経済効率を考えるわけです。お金を稼ぐという行為は、手段であって目的ではないはず。その先に幸せがあるわけだから、幸せにダイレクトにいくにはどうしたらいいのかをいつも考えています。幸せを追求するときには、必要以上のスケールやあくせくは要らないんです。そういうライフスタイルを実現していきたいという思いがあります。
伊藤 なるほど、それが叶う場所が横瀬町というわけなんですね。
富田町長 横瀬町から、新しい価値や価値観を発信していきたいと思っています。バランスの取れた生活であったり、豊かな自然の中での生活であったり、田舎と都会の良いとこ取りだったり。幸せなライフスタイルや、幸せの在り方をつくっていきたいし、世の中に問うていきたい。そうすると、世の中の人の価値観が少しずつ変わってくるかもしれないですよね。大それたことを言うと、「小さな町から未来をつくる」みたいな。だから、私たちがやっているのは、幸せな地域づくりのプロトタイピング。そういう使命感はあります。
【インタビューを終えて】
多様性をカラフルという言葉に置き換えることで、難しく感じがちな行政の施策を柔らかく伝える。富田町長の言葉、取り組みに徹底した顧客(住民)視点を感じました。そんな富田町長の次なる一手、「町の中でお金が循環する仕組みをつくる」。銀行出身だからこそ分かる資本主義の仕組みと、そのメリットとデメリット。町のサイズに合わせた循環型の資本主義をデザインするというお話に、未来の自治体のモデルを垣間見ました。
(おわり)
【プロフィール】
富田能成(とみた・よしなり)
埼玉県横瀬町長
1965年横瀬町(当時は横瀬村)生まれ。国際基督教大(ICU)卒後、1990年日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。法人営業・海外留学・海外勤務等経て、不良債権投資や企業再生の分野でキャリアを積む。
2011年4月から横瀬町議会議員を経て、2015年1月より現職。2019年1月再選(無投票)し、現在二期目。
伊藤大貴(いとう・ひろたか)
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。