学校と民間の架け橋となる人材が必要
本目 学校現場にも、民間にも、「公民連携で何か新しいことをしたい!」という熱をもった人たちがいると思うのですが、その人たちが尾崎さんのように公と民の壁を越えて、一歩前へ進むにはどうしたらいいと思いますか?
尾崎さん そうですね、学校と民間の間で「通訳」ができる、架け橋となる人材が必要です。学校と民間とでは、色んなことが違います。先生たちはパソコンの前にゆっくり座る時間なんてほとんどないんです。打ち合わせは放課後の1時間しかできません。民間の人たちは基本メールですが、先生たちには電話の方がスムーズなこともあります。夜に連絡を送ってもセキュリティ上見ることができないことも多々あります。言語も違えば、活動できる時間、使っているツールも違うので、なかなか噛み合わないんです。だからこそ、公共も民間も双方をよく分かっている「プロ人材」のような人が間に入って両者をつなぐべきだと考えています。両方の常識を分かった上で、落としどころを作れる人材を、これから増やしていくべきだと思います。少し時間はかかっても、学校と民間の間に立つポジションで、民間側からコンサルフィーをもらって稼げるようになれば、ある程度そこに優秀な人材が行くんじゃないかと思います。現状では、通訳ができる人材は希少性が高いので、私は会社と社員を守っていけるだけのお金を自社の方で稼がせてもらっています。
本目 尾崎さんが通訳できるようになったのは、生駒市に入ってからですか?
尾崎さん そうですね。業務委託で行政とお仕事をさせていただく機会は多かったのですが、やはり中に入らないと見られない景色や聞けない話というのがとても多いです。業務委託の時は「なんとなく入札ってこうするのかな」「関係性を築くにはこうしたらいいんだろうな」というイメージはありましたが、核心の部分は分かっていなかったように思います。変革を目指すなら、役所の中のルールや法律・条例を知らない限り、仕組みは変えられない。中に飛び込んでみなければ、こういうことが分からなかったと思います。
本目 官民を行き来できる人材は、やはり重要なんですね。
たぞえ やはり官民の架け橋となる「パブリック人材」を増やしていかなければいけないなと思いました。尾崎さんみたいな人はなかなかいないですけど(笑)。
本目 これからのキャリアプランがあれば教えてください。
尾崎さん 公教育から子どもたちの環境を変えて、2030年までに『世界で最も影響力のある100人』に選ばれたいという目標を置いています。今、会社の経営者、生駒市の公務員、企業の社外取締役と、マルチな角度から見る貴重な経験をしていますが、これらすべての知見をもった上で、1つのことに集中したら「私はどこまでできるんだろう!?」というのを試してみたくなっています。ちょうど2年後に、息子が中学校に上がり、私の会社が10年目を迎え、私は40歳になります。そこをターニングポイントとして、「自分のエネルギーのすべてを何に使えば、目標に早くたどり着けるのか?」を、問い直してみたい。2年後に自分が何を思うか、今はまったく予想もつかないんですけどね。それが分からないことに、今はワクワクしています。
たぞえ 尾崎さんを引き留めるのではなく、逆に「他のところへ行って改革しておいでよ!」と温かく見送ってほしいですね。
尾崎さん 会社のメンバーは「えりちゃんがトリストから離れたら、どのくらい飛べるんだろう?見てみたい!」と言ってくれていて、本当に嬉しく思っています。私自身、今背負っている仕事を全部下ろしてみた時に、どーんと飛んだらどのくらいの破壊力を持っているのかは、『天下一武道会』に出るぐらいのワクワクさがありますよ(笑)。
そして、『世界で最も影響力のある100人』に選ばれたら、世界の第一線を走る人とつながって、まったく別次元の世界を見て、その世界を子どもたちにも見せてあげたい。また、世界中の人とともに未来を語り、それを叶える仕組みを日本に残したい。私に残された60年ぐらいの人生の中で、影響力をもって世界を変えたい。ビッグマウスと言われても頑張ります!!
【インタビュー後記】
本目 今回のインタビューは、尾崎さんが立ちあげられたシェアサテライトオフィス「Trist」を、以前にたぞえ議員と視察させていただいたご縁で実現しました。インタビュー前、尾崎さんというと、大きな仕事を大胆に成し遂げられているイメージが強かったのですが、今日はその裏に、きめ細やかなコミュニケ―ションを取られる姿が垣間見えて、見える部分にも見えない部分にも心遣いのできる方なんだなと感じました。
たぞえ 「ずらす」という考え方が、とてもおもしろかったです。こんなにも目が離せない人物には、なかなか出会えないと思います。政治家向きなんじゃないか?文科省に働きかけたら、日本の教育が変わるのでは?と思うこともありますが、目を輝かせながら教育を語る尾崎さんを見て、今は教育現場が彼女にとっての活躍のステージなんだと思いました。
<おわり>
(文・PublicLAB編集部/人材事業部 冨山美欧)
【プロフィール】
尾崎 えり子(おざき・えりこ)
奈良県生駒市教育指導課教育改革担当
千葉県流山市ICT教育推進顧問
ICT授業作家
株式会社新閃力代表取締役社長
1983年香川県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、経営コンサルティング会社に入社。2010年、スポーツビジネス会社に転職。2013年、企業内起業という形で子会社(幼児向けのスポーツ通信教材の開発)の設立に参画し、その後代表取締役に就任。第2子の育休を経て退職し、2014年に株式会社新閃力を立ち上げる。千葉県流山市でプロデュースした民間学童「ナナカラ」は好評を博し、6店舗に拡大。2016年にはシェアサテライトオフィス「Trist」を開設し、テレワーク推進賞やWork Story Awardなどを受賞。2020年から奈良県生駒市教育指導課教育改革担当。社長兼公務員として、子どもの教育をさまざまな側面から「面白くする」ことを目指す。太田プロダクションお笑い養成所13期卒業生(放送作家コース)。
本目さよ(ほんめ・さよ)
台東区議会議員/WOMANSHIFT代表
横浜市・八王子市育ち。大学・大学院で心理学を専攻。(株)エヌ・ティ・ティ・データ・イントラマートに入社し、人事部で働きやすい職場にするための各種制度を策定。「性別に関わらずやりたいことができる社会をつくる」ため、2011年に台東区議会議員選挙に立候補し初当選。現在3期目。気軽に政治に関われる「ママインターン」を展開中。
田添麻友(たぞえ・まゆ)
目黒区議会議員
東京都目黒区生まれ。大学卒業後、専門商社に2年勤務し、ベンチャー系経営コンサルティング会社に転職。3児の母となり、待機児童問題に直面。高校生のときから環境問題等を解決したいという想いもあり、2015年に地元・目黒区から無所属で立候補し初当選。現在2期目。