一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事
小田理恵子
2022/05/11 新時代の公務員像を探る~「三重県版デジタル庁」による新たな人材育成への挑戦~(前編)
2022/05/13 新時代の公務員像を探る~「三重県版デジタル庁」による新たな人材育成への挑戦~(後編)
オンライン開催で試行
前編にて紹介した四つのプログラムは管理職のマインド改革を目的としており、基本コンセプトに「異なる立場・異なる文化の人同士が交ざり合う」ことを組み込んでいる。最終的な理想形は、企業やNPOなど自治体職員以外の人との交流である。しかし、あまりにも違う者同士をいきなり交ぜることは、ハレーションが起きる可能性があるため、段階を踏んでいくこととし、初回は「庁内の異なる部署に所属する管理職が交ざる」ことを目的に据えた。
試行に当たっては、複数部署からの管理職の参加が前提となる。各プログラムの最少構成人数は10~20人程度、全4プログラムで延べ50人以上の管理職の参加が必須となる大掛かりな試行となるはずであった。昨秋の開催で準備を進めていたが、コロナ禍でいったん見送りとなった。感染症対策へさらなる人的リソース(資源)を投入する必要がある中で、50人の管理職が参集するのは困難だった。
それでも年度内には試行したいとの県側の意向に基づき、一つのプログラムに絞って実施する方向で再調整した。オンライン開催も可能で、かつ管理職以外が参加しても研修効果が得られるプログラムということで、プランBの「Mission impossible Program」が選定された。これは演劇的手法を用い、参加者が特定の立場を演じることで他者の視点や異なる考え方を理解するというものである。これをオンライン開催に改修して実施した。職員十数人が参加し、他者を演じるという点についても滞りなく進んだ。
参加した職員の感想
参加者に感想を聞いてみた。演劇的手法に対するハードルが高いのではないかと考えたが、非常にスムーズに対応できたとの評価を頂いた。一方で、次のような意見もあった。
【意見①】今回は参加する職員をあらかじめ選んで実施した(具体的にはこうしたワークショップに興味があり、積極的に参加してくれるであろう人材に声を掛けた)が、さまざまな部署の多様な職員を対象に実施した場合に同様の効果が得られるかは分からない。演劇的手法に戸惑いを感じる職員が参加したときにどう対応するか、工夫する必要があると感じる。
【意見②】オンライン参加に結構手間が掛かる。また希望者を募る形で実施するのは可能だが、全体を対象に実施するのは難しいのではないか。
ワークショップ型の研修は、参加者が前向きかどうかが影響する。また参加者の増加に伴い、ファシリテーター(進行役)をはじめとするスタッフを増やす必要がある。その点を指摘された形だが、演劇的手法については比較的高い評価を得た。演劇も仕事もある種の役割を演じるという点で、業務に生かせると感じた職員もいた。
まとめ
今回のプログラムは、対面でのプログラムをオンラインに変更して実施したものである。ただ、基本的には対面と同じ進め方で行った。オンラインの思わぬ効果として、対面よりも参加者同士のコミュニケーションや意見発信が活発に行われたことが挙げられる。オンラインの良さを生かし、オンラインを軸に研修プログラムを構築することも、今後は検討していきたい。
公民連携活性化協会の古田智子代表理事は「これまでの公務員の研修はインプット主体で進められてきたが、それだとすぐに元に戻ってしまう。いかに研修で学んだことを『自分ごと』として公務に生かしていくかという方向で、研修の概念を再構築する必要がある」と述べている。
今回は、多様な人たちとの関わりの中で自らを形作る、見直すということをコンセプトとした新しいプログラムを共同開発し、そのうちの一つをトライアルとして実施した。演劇的な手法を生かした研修だ。1人の職員は妻や夫、また地域の一員と、多様な役割を社会の中で果たしている。職員としてだけでなく、その他の役割にも意識を向けるような試みを行い、それによって多様な地域住民の立場になって物事を考える。そうした取り組みをケーススタディーとして実施したのである。
人材育成プログラムは単独ではなく、複数の研修を立体的に組み合わせることによって、成果が期待できるものである。今回は部分的な試行にとどまったが、従来の職員研修には見られない新たな手法を取り入れることで、さまざまな課題も見つかり、また可能性も見いだすことができた。今回の経験を糧に、さらに練り込んだ形で研修プログラムを開発、提供していけるのではないかと考えている。
本稿では、三重県のデジタル社会推進局の進める改革の中で、人材育成の取り組みを行っていること、そのために今何を進めようとしているのかを紹介した。コロナ禍で足踏みしたこともあり、公務員のマインド改革プログラムの具体的な中身はさらなるブラッシュアップが必要である。来年度以降も3者の共同研究・開発を続けていく予定である。プログラムの具体と成果については、また報告していきたい。
(おわり)
【プロフィール】
小田 理恵子(おだ・りえこ)
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事
2011年から川崎市議を2期8年務める。現在は官民双方の人材育成や事業開発(政策実現)を伴走支援するアドバイザーとして活躍。株式会社Public dots&Company代表取締役、福島県磐梯町官民共創・複業・テレワーク審議会長、総務省「地域づくり人材の養成に関する調査研究会」構成員など。