市民との直接対話から始まる透明性ある市政~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(2)~

岐阜県美濃加茂市長 藤井浩人
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

2022/08/08 市民との直接対話から始まる透明性ある市政~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(1)~
2022/08/11 市民との直接対話から始まる透明性ある市政~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(2)~
2022/08/15 人に向き合い、人を中心に考える~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(3)~
2022/08/17 人に向き合い、人を中心に考える~藤井浩人・岐阜県美濃加茂市長インタビュー(4)~

まずは「聞く」ことから

小田 市民とコミュニケーションしていると、いろいろな要望も頂くと思います。中には難しいリクエストだったり、相反する意見を頂いたりすることもあると思うのですが、どのように対応されているのですか?

藤井市長 当初は「意見を聞き過ぎる」として、市職員からの抵抗がありました。市として模範的な回答ができなくなる懸念があったのだと思います。

しかし政治は本来、さまざまな意見がある中で進めていくべきだと思いますし、それらを踏まえて選択することが行政の役割です。住民の意見に耳を傾けないままに選択したり、勝手に仮説を立てて進めたりするのは危険ではないでしょうか。もちろん、市民から頂いた意見はできる限り検討しますが、できないものはできないとお伝えしています。

現場で市民と接していると、行政では把握し切れていなかった意見をよく聞きます。マジョリティーな意見とマイノリティーな意見の両方がありますが、それをまず聞くことが大切です。一体どんな状況なのかを把握した上で、最終的に何を実現するのかを決めるのが行政です。この位置付けを改めて確立しなければと思い、まずは「聞く」というところから実行しています。

 

小田 「聞く」には、怖さが付きまといますよね。どこまで聞いていいものか、どんな意見が出るのか。藤井市長の「まずは聞く」という姿勢は、本当に勇気を持って踏み出さなければできないことだと思います。

藤井市長 私が市議だった時代、市民の声を聞いて届けるまではできるものの、その先がブラックボックスになっているケースがよくありました。なぜこれができて、あれはできないのか。判断基準が外から見て、分からないのです。その部分には透明性が必要ですよね。何かしらの理由があって、施策の優先順位や予算配分は決まります。市長となった今では、そこをクリアにすることを日々心掛けています。

一方、市長が現場に出向くことは、マネジメントの観点では好ましくないとの意見もあります。組織のトップが現場に行ってしまうと、中間管理職の立場がなくなるという意見です。

しかし、これは大規模な組織で起こる話です。美濃加茂市の正規職員は350人ほどで、例えるならば中小企業です。各セクションの人数もそれほど多くありません。小回りが利く組織であると捉えて、私は現場の声を積極的に聞くようにしています。

 

実は、私が現場に行くことで得られる良い効能があります。中間管理職に程よい緊張感が出ることです。

通常、現場の職員から市役所のデスクに座る課長らに情報が伝わり、それが首長に上がってきます。要するに伝言ゲームです。それがいかに正確か、途中で話が変わってきたとすると、そこにはどういった意図が働いたのか。私が現場に出ると、それが分かるようになります。

ですから、もし現場の状況と乖離する情報が届けられたとしたら、「それは違うのではないか」と指摘することができます。このように、首長が時々でも現場に出向くと、市民の声を重視した意思決定や合意形成につながります。

 

藤井市長(上)へのインタビューはオンラインで行われた(出典:Public dots & Company)

 

市民を信頼する

小田 市職員も藤井市長が就任されてからは、市内に出て積極的に市民の声を拾うようになったのでしょうか? あるいは、藤井市長がそれを職員にも求めていらっしゃいますか?

藤井市長 そうですね、職員にはかなり求めるようになりました。当たり前のことですが、「市民の力をいかに引き出すかが市職員の仕事だ」と常々伝えています。

 

小田 職員は「聞く」ことに対し、怖がりませんか?

藤井市長 私は今年38歳になりますが、それくらいの、いわゆる若造が現場に率先して飛び込んで行くわけです。その姿を見ている年上の職員も、ならば一緒に飛び込むかという心意気で現場に出て来てくださっているような気がします。

 

小田 まずは自らの行動で示して見せる、ということですね。

藤井市長 そうです。現場に出て行けば出て行くほど、時には厳しい意見や極端な意見に遭遇します。しかし直接聞くことで、その意見がいかに極端であるかが肌感覚で分かるようになります。

反対に、クレームや厳しい指摘を怖がって現場に出るのを控えるほど、余計に怖くなりますし、偏った意見でも受け入れがちになってしまいます。そうやってコミュニケーションを閉ざすと、住民の目には「市は住民を理解していない」と映りますよね。

ですから、私もそうですが、とにかく職員には現場の声をどんどん聞きに行ってほしいと思います。職員は日頃から一生懸命、仕事しています。その内容を市民と共有できれば、きっと大多数の方は理解してくださるでしょうし、信頼関係も築けるはずです。「市民を信頼すること」が、これからの行政職員の働き方において大切な要素ではないかと思います。

 

小田 「市民を信頼する」とは、いい言葉ですね。

藤井市長 私自身、選挙や裁判の経験を通じて「信じる」ことの力を感じてきました。きっと、そんな背景から出てきた言葉だと思います。

 

小田 今回のインタビューでは、藤井市長が政治家を志すきっかけになった経験と、そこから生まれた信念、その信念を基にこれまで活動されてきた様子がよく理解できました。

一人ひとりに真摯に向き合うこと、一人ひとりがこれからの将来について主体的に考えること、そして正直であること。言葉にすれば誰もがそうだと納得することですが、実際にはそのように行動できないことも多いのではないでしょうか。何が起きても信念からぶれずに行動するという藤井市長の姿に、市民からの人気が高い理由が表れています。

次回は、現場の声に基づいて施策の事例や、藤井市長が考える公務員の人材育成・キャリア形成について詳しく伺います。

 

第3回に続く

 


【プロフィール】
岐阜県美濃加茂市長・藤井 浩人(ふじい ひろと)

1984年生まれ、岐阜県美濃加茂市出身。2010年10月、美濃加茂市議に初当選。13年6月、同市長に初当選。22年1月に通算4回目の当選を経て現職。趣味はスポーツと読書。好きな言葉は「義を見てせざるは勇なきなり」

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