北海道余市町長 齊藤啓輔
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2022/09/09 緻密なマーケティングでふるさと納税、13倍に~齊藤啓輔・北海道余市町長インタビュー(1)~
2022/09/13 緻密なマーケティングでふるさと納税、13倍に~齊藤啓輔・北海道余市町長インタビュー(2)~
2022/09/16 まちの将来を見据えた「選択と集中」~齊藤啓輔・北海道余市町長インタビュー(3)~
2022/09/19 まちの将来を見据えた「選択と集中」~齊藤啓輔・北海道余市町長インタビュー(4)~
第1回、第2回に引き続き、北海道余市町の齊藤啓輔町長のインタビューをお届けします(写真1)。就任1期目にして、同町のふるさと納税額を約13倍に、経常収支比率を約7%改善させた齊藤町長。緻密な分析に基づいたマーケティングを駆使し、早くも成果を挙げています。
「あるもので何かを作って売る」という「プロダクトアウト」型の発想ではなく、「誰に向けて何を作れば売れるか」という「マーケットイン」の発想から、町の主力産業の一つであるワイン醸造業に着目。世界の愛好家や富裕層をターゲットに自ら戦略を立て、実行してきました。「ワインで一点突破」のまちづくり。その背景には「選択と集中」の考え方があります。
今回は自治体運営における「選択と集中」について、齊藤町長の考えをさらに掘り下げていきます。「自治体の仕事とは何か?」を改めて考えるきっかけとなるでしょう。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)
首長の存在意義
小田 今は全国どの自治体にも潤沢な資源(リソース)がありません。本稿の読者も含め、恐らく自治体関係者の多くは、齊藤町長が体現されているような「選択と集中」が重要だと認識はしていると思います。しかし、合意形成の難しさから踏み切れないケースも多々あるでしょう。その点、齊藤町長は「覚悟が決まっている」ような印象を受けます。
齊藤町長 首長は最終判断するのが役割です。もちろん政策の方針は住民の意見を反映して決めますが、間接民主制で自治体のリーダーを選んでいる以上、首長が最終的な方向性を決定しないことには存在の意味がないと思っています。
小田 個人的には、自治体の行く末は「首長の腹のくくり方」で決まるのではないかと考えています。まちづくりは成果がすぐに表れるわけではありません。数十年、もしくは100年以上といった長期的なスパンで見て、ようやく変化が分かるものも少なくないでしょう。とはいえ、齊藤町長は短期間で目に見える成果を挙げています。各施策の時間軸をどのようにお考えなのでしょうか?
齊藤町長 短期軸と長期軸のどちらも考えています。
ワイン戦略で言えば、「世界のベスト・レストラン50」で何度も世界一に輝いているデンマーク・コペンハーゲンのレストラン「noma(ノーマ)」のワインリストに、町のワイナリー「ドメーヌ・タカヒコ」の「ナナツモリ ピノ・ノワール2017」が掲載されたことで、町への来訪者数は増えました。これは短期軸の施策の結果です。
他方で現在、「ヴァラエタル戦略」(指定のブドウ品種への補助金を手厚くし、改植を促す)により、ピノ・ノワールやシャルドネなどへの品種転換に力点を置こうとしていますが、これは長期軸です。ブドウの木が育つのに時間がかかるからです。余市産のワイン用ブドウの市場認知度を上げるために、長期軸の取り組みとして着手しています。
小田 「ドメーヌ・タカヒコ」は今や入手困難で、希少なワインとして愛好家の間では垂涎の品となってきています。一方、余市町はウイスキーも有名です。ワインもウイスキーも富裕層が好むイメージがありますが、町を訪れる人々の層に変化はありましたか?
齊藤町長 来訪者の属性は富裕層にシフトしてきており、数だけでなく質的変化も見られます。経済効果は大きいです(写真2)。
若手職員に「外の経験」を
小田 前回のインタビューで、世界最年少で日本人初のマスターソムリエの高松亨氏が「余市町地域おこし協力隊ワイン産業支援員」に就任されたと伺いました。今後、外部人材の登用を積極的に行う予定なのですか?
齊藤町長 そうですね。現在、PR系の外部人材はいますが、その他の分野についても、いずれは職員が自走できるように仕組みを整えなければと思っています。私がすべて着手するのは、あまり健全ではありませんから。
小田 庁内の人材育成はどの自治体も課題感を持っていると思います。齊藤町長が意識していることは何でしょうか?
齊藤町長 若い職員には、どんどん外の世界に触れてもらうようにしています。私の出張に同行させることもありますし、自分たちで出張を計画して行くようにとも伝えています。
私が町長に就任して最初にこのような指示を出した際、職員の中に若干の戸惑いがあるのを感じました。今まで、若い職員だけで出張に行く機会はなかったようです。
ですから内部の部長会議を経て、各部署から公平に人数を出すなどの調整が行われました。結果的に、どの部門でも若い人材を育てる環境になりましたから、良かったと思います。
(第4回に続く)
【プロフィール】
北海道余市町長・齊藤 啓輔(さいとう けいすけ)
1981年生まれ。早大卒。2004年外務省に入り、ロシア大使館、ウズベキスタン大使館、ウラジオストク総領事館、首相官邸国際広報室などで勤務。16年6月北海道天塩町副町長に就任。18年9月北海道余市町長に就任し、現在2期目。