
熊本県高森町長 草村大成
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2023/01/30 「実行」と「実現」はセット、決めた以上はやり切る~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(1)~
2023/02/02 「実行」と「実現」はセット、決めた以上はやり切る~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(2)~
2023/02/06 「迷ったらフルスイング」で行動~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(3)~
2023/02/10 「迷ったらフルスイング」で行動~草村大成・熊本県高森町長インタビュー(4)~
熊本県の最東端に位置し、阿蘇カルデラに抱かれた豊かな自然が魅力の高森町。その町政運営に当たる草村大成町長は、民間企業の経営者を17年間経験した後、政治の世界に飛び込みました。2011年のことです。
民間仕込みの「実現力」をどのように発揮してきたのか。そのプロセスについて、お聞きしました。(写真1、聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

企業経営者から町のトップへ
小田 まずは就任当初のエピソードから伺います。町長選に立候補した当時の思いや、就任してから感じたことを教えていただけますか?
草村町長 高森町は熊本県阿蘇郡にある、いわゆる「田舎の町」です。町長選への立候補を決めた当時は、誤解を恐れずに言えば「何となく食べていける町」でした。
特に大きな挑戦や変革をせずとも、地元の方たちは生活を維持できていました。このように「何となく普段の生活ができる」というところに、すべてが落ち着いていました。
それに対し、私は「自分たちの町の将来を『何となく』で考えていいのですか?」と問い掛けました。当時はマニフェスト(政策綱領)を作る政治家は少なかったのですが、私は町の将来に対する取り組みを12~13ページにわたるマニフェストとして公表し、町長選に挑みました。
小田 それで当選されたのですから、町民の中にも「何となく生活はできているけれど、未来を見据えて何か変わらなければならない」という思いがあったのでしょうね。
草村町長 選挙に際し、私は常に「何となくでいいのですか?」と訴えました。政策説明会などの場でも具体的な政策とともに、こうしたメッセージを毎回伝えましたし、「私に任せてくれ」と、かなり強いメッセージも発信しました。それが住民の皆さんに伝わったのだと思っています。
小田 周囲の反応はいかがでしたか?
草村町長 私はもともと民間企業の経営者でした。政治経験が全くない状態で町長選に挑みましたから、初めはいろいろな方に反対されました。
首長の多くは役場の管理職や地方議員を経て就任しています。地方議会の議長を経て、首長になる傾向もあります。ところが私の場合は、民間からいきなり政治の世界へ飛び込もうとしましたから、「もう少し経験を積んでからの方がいい」「まずは議員をやってからの方がいい」とよく言われました。そんなふうに、周りからはかなり驚かれました。
しかしチャレンジするのは本人の自由です。町をどうにかしたいと思ったときに、実行しやすいのはやはり町のトップです。その思いに従って出馬を決めました。
小田 実際に町長になり、最初に感じたことは何でしたか?
草村町長 選挙のときから感じていましたが、やはり役所はしがらみが強いです。縦割りで、仕事を増やそうとしません。物事がなかなか進まないことに、非常にジレンマを感じました。
町長になったからといって、やりたいことがすぐに実行できるわけではないと分かりました。一つ一つの積み上げが必要だと、当時は強く実感した記憶があります。
公務員は基本的に、自身のキャリアと連動した40年という長いスパン(期間)で見て、少しずつ積み上げていくところに重心を置きます。しかし首長は任期がありますから、4年のスパンです。4年間である程度の答えを出し、住民の皆さんに理解してもらわなければなりません。その違いは大きいです。
マニフェストと総合計画のひも付け
小田 民間と行政の違いを実感しつつ、「何となくでいいのですか」と職員にも問い掛けたのですね。職員の反応はいかがでしたか?
草村町長 マニフェストを掲げて当選しましたから、ここに書かれていることを一緒になって実現していこうと呼び掛けるところからスタートしました。「『何となく』よりも、こんなふうにやろう」と、いきなり方向付けをしたので、当時の職員は戸惑いや違和感を覚えただろうと思います。
現在は3期目ですが、選挙の際は3回ともマニフェストをしっかりと作りました。それに総合計画や総合戦略をリンク(ひも付け)させて進めています。この「リンクさせる」ことに時間がかかりましたが、3期目ともなると職員も慣れてきています。
小田 民間の感覚で言えば、大きな方針とそれぞれの計画がリンクしていることの方が、しっくりときます。
草村町長 そう思いますよね。ところが、地方自治体の総合計画や総合戦略は対象期間やスタート時期がばらばらで、それぞれ独立して存在することの方が多いです。それらを首長の任期に合わせて相互にリンクさせることで、一つの期間の中で一つの起承転結が生まれます。その方が施策を実行しやすいと思います。2期目でようやく、その期間を合わせることができました。
小田 「言うは易く行うは難し」ですね。どのように実現したのですか?
草村町長 計画の変更や見直しには議会の承認が必要です。なぜ期間を変えるのか、その理由を丁寧に説明しました。「選挙で選ばれた方針を反映し、計画をより良いものにしていくためです」と繰り返し説明を行い、2期目にようやく承認が得られました。
小田 自らの示した方針を形にして公開することには、覚悟が必要ですね。
草村町長 自分で明示するわけですから逃げ場はありません。しかし情報はきちんと表に出すと、就任当初から決めていました。たとえ小さな自治体でも、そういう姿勢を住民に見せることは大事なことだと思っています。
小田 今回のインタビューに当たり、草村町長の1期目の就任あいさつを拝読しました。そこでも「情報公開」に触れられており、就任当初から透明性の高い町政を意識されていたことがうかがえます。
草村町長 情報を公開することはプラスの面が大きいという判断の下、そのように書いた記憶があります。それまでは一つ一つの情報に対し、公開するのかしないのかといった議論もされないまま、慣例に従った発信が行われていました。それを思い切って改革しようと考えたのです。
小田 情報発信を活発にするという方針に対する周囲の反応はいかがでしたか?
草村町長 議会からは反対されました。「情報公開するにしても、もっと慎重に、丁寧に行うべきではないか」といった声が多かったです。私はどちらかといえば、まずは発信してみて、不都合があれば修正すればよいと思っていたので、その感覚の違いを埋めるのに苦労しました。
(第2回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2022年12月19日号
【プロフィール】
熊本県高森町長・草村 大成(くさむら だいせい)
1967年生まれ。日大文理卒。2011年熊本県高森町長選で初当選。当時作成したマニフェストで、第9回マニフェスト大賞の首長部門で優秀賞を受賞。現在3期目。信念は「仕事は『まっすぐ・ぶれず』にやりぬく!」