奈良県三宅町長 森田浩司
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2023/04/20 心を交わして小さな成功体験を~森田浩司・奈良県三宅町長インタビュー(1)~
2023/04/24 心を交わして小さな成功体験を~森田浩司・奈良県三宅町長インタビュー(2)~
2023/04/27 「対話・挑戦・失敗」がバリューのまちづくり~森田浩司・奈良県三宅町長インタビュー(3)~
2023/05/01 「対話・挑戦・失敗」がバリューのまちづくり~森田浩司・奈良県三宅町長インタビュー(4)~
公共政策や官民連携の分野で近年、注目されている町があります。人口約6600人の奈良県三宅町。面積が4.06平方キロと、「全国で2番目に小さい町」です。
同町は、24時間いつでも専門医に相談できる「オンライン診療」や、新型コロナウイルス禍に対応した県内市町村に先駆けてのウェブ会議システムの導入、官民連携拠点「交流まちづくりセンターMiiMo(みぃも)」の開設、複業人材を登用しての行政プロジェクトの推進など、スタートアップ(新興企業)さながらのスピード感とチャレンジ精神で、さまざまな取り組みを行っています。
2016年に32歳の若さで就任した森田浩司町長はどんなビジョンを持ち、どのようにリーダーシップを発揮して、町政運営に当たっているのでしょうか。今回は、町民や職員とのコミュニケーションの在り方を中心に伺いました(写真1、聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)。
「変わらなければ」という危機感
小田 町民に「町長選に出てほしい」と、泣きながら懇願されたことが立候補のきっかけと伺いました。
森田町長 もともと政治家を志していたわけではありません。大学卒業後は民間の仕事を転々としたり、知人の依頼で選挙の手伝いや国会議員秘書を務めたりしていました。
30歳のとき、町内に「恋人の聖地としてアピールする」という名目でモニュメントが建つことになりました。この税金の使い方に憤りを覚えたことが政治の道に進むきっかけとなりました。当時の気持ちを正直に表すと、「自分の住んでいる町はダサい」でした。そこで、政治という土俵に立って自分の意見を言おうと考え、町議になりました。
町長選に立候補したのは、その1年後です。あるとき、自分のチラシ配りをしていると、年配の女性たちが「町長選に出てほしい」と泣きながら訴えてきました。その方たちは町政が変わらなければ、自分たちの暮らす地域が取り残されると感じていたようです。
この思いをむげにはできませんでした。勝てるとは思いませんでしたが、無職になることを覚悟で立候補を表明しました。
小田 その結果、当時の現職を退けて初当選されたのですね。町議時代から町民に厚い信頼を寄せられていたことが分かります。
森田町長 10代の頃から地域の祭りを手伝ったり、母の仕事の関係でさまざまな方と交流したりしていました。心の距離が近いと感じていただけたのではないかと思います。もう一つ言えるのが、私のような世代の人間に票を投じ、町議や町長にしていただいた結果から考えると、町民の中に「変わらなければ」という危機感があったのではないかと思います。
町のダウンサイジング
小田 三宅町のまちづくりで、重要テーマの一つとされているのが「過疎からの心の解放」です。
森田町長 三宅町では、団塊ジュニア世代とその子どもに当たる世代の人口減少率が大きく、それが過疎につながっています。背景には、町内に開発できる土地がほとんど残っておらず、住宅を増やしづらいことが挙げられます。
40~50年ほど前の大規模な住宅開発で団塊世代の人口が急激に増えましたが、その子どもや孫の世代が就職で町外に出たり、住宅購入時に町外のニュータウンに引っ越したりして減っています。核家族化が進んだ結果、若年層が町から出てしまったことが過疎に陥った原因だと考えています。
小田 地価や空き家の状況はいかがですか?
森田町長 現在は「入れ替え」の時期だと感じています。高齢化率が上がり、町民の方が亡くなられて空き家になるケースが増えました。一方で空き家の解体も進んでいます。更地は若い世代に売れています。流れとしては緩やかですが、このような「入れ替え」が起こり始めています。地価に関しては、県内の生駒市といった人気の住宅地に比べると安い傾向があります。
小田 子育て支援策も行われているでしょうから、若い世代が増えることは町としても喜ばしいことではないでしょうか。
森田町長 車移動であれば、三宅町に住むのに特に不便はありません。生活に必要な店舗や施設には10分ほどで行くことができます。また三宅町は、平野の真ん中にあります。ここに住まいを構えれば、仕事の関係で県内への異動がある方でも通いやすいでしょう。そうした利便性と不動産価格の安さで転入して来る方はいらっしゃいます。
若い世代が増えることは喜ばしいのですが、住宅開発を積極的にしようとは考えていません。今ある建物をどのように生かすか、あるいは入れ替えるかを戦略的に考えていきたいと思っています。
将来的に人口が減り、老老介護などに対する社会的支援が今よりも必要な状況になるでしょう。そうした中でまた空き家を増やすような政策を行えば、インフラコストの増大で苦しくなることは目に見えています。40~50年後を見据え、良い意味での町のダウンサイジングを実施していきたいと考えています。
小田 町内に開発できる土地がほとんど残っていないとのことですが、民間同士の取引を行政が制限するのは難しいですよね。
森田町長 三宅町には農振農用地がたくさんあり、開発が制限されています。ですから、住宅も建てにくくなっています。規模に合わせたスケールダウンが必要となる今の時代では、ちょうどいい規制になっていると思います。
(第2回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2023年3月6日号
【プロフィール】
奈良県三宅町長・森田 浩司(もりたこうじ)
1984年奈良県三宅町生まれ。大阪商業大総合経営卒。生協職員、国会議員秘書、三宅町議などを経て、2016年三宅町選に初当選。当時32歳で県内最年少、全国でも2番目に若い町長となった。現在2期目。