県議時代からの「つながり」で市政を動かす~早川尚秀・栃木県足利市長インタビュー(1)~

栃木県足利市長・早川尚秀
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子

 

2024/08/06 県議時代からの「つながり」で市政を動かす~早川尚秀・栃木県足利市長インタビュー(1)~
2024/08/08 県議時代からの「つながり」で市政を動かす~早川尚秀・栃木県足利市長インタビュー(2)~
2024/08/13 地方のまち同士が共存共栄する道を模索~早川尚秀・栃木県足利市長インタビュー(3)~
2024/08/15 地方のまち同士が共存共栄する道を模索~早川尚秀・栃木県足利市長インタビュー(4)~

 


 

栃木県足利市、早川尚秀市長のインタビューを前後編でお届けします。

2021年5月に就任した早川市長は、5期18年務めた栃木県議会議員時代からの人脈と経験を生かし、市政運営に取り組まれています。中でも特に市長が熱を込めて語ったのは「人脈」の大切さでした。人脈は簡単につくれるものではありませんが、市長のお話からは、物事が動く重要なタイミングにおいて人脈の力に後押しされている様子が分かります。今回は「人とのつながりによる市政運営」にスポットを当てます。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

故郷を良い形で次世代に

小田 早川市長は21年5月に就任されましたが、以前は県議会議員を5期務めていらっしゃいました。まずは市長選へ立候補した理由についてお話しいただけますか?

早川市長 県議会議員という立場では、県全体の政策の動きを見たり、他県と政策の比較をしたりすることがあります。当然、足利市政の状況も見ていたわけですが「未来のまちづくりに向けて、もっとできることがある」と感じることが多くありました。立候補を決意したのは、人口減少でまちが衰退するのを食い止めたい、生まれ育った故郷を次の世代へ良い形でつなぎたいとの思いが強くなったからです。市民の皆さんから立候補してほしいとお声を頂いたことも後押しとなりました。

 

小田 当時の市長選では現職との一騎打ちの末、当選を果たしました。早川市長には足利市政に新たな風を吹き込む期待が寄せられていたのだろうと思います。ちなみに、立候補時に危機感として持っていたことは何だったのでしょうか?

早川市長 前市長には、前市長なりの思いやお考えがあったはずです。ですから批判するつもりはないのですが、当時の私から見て、足利市政に動きや方向性が見えてこなかったのが一番の危機感でした。特に、子育て・教育関係の施策が他の自治体に後れを取っている印象でした。県議会議員の立場から行政や市議会等にいろいろ働き掛けていたものの、なかなか変わっていかない様子を見て、これは自ら動かしていかなければという思いに駆られました。

 

五つの重点施策

小田 就任後は、市政に動きを起こすために尽力されていると思います。特に力を入れている施策は何でしょうか?

早川市長 21(令和3)年度に策定した「第8次足利市総合計画」の前期基本計画では、分野別の計画から横断的に重点施策を抽出し、五つのプロジェクトとして柱にしています。

足利市重点プログラムの5つ
出典:第8次足利市総合計画 前期基本計画

 

一つ目は「安全な社会・安心な生活実現プロジェクト」です。これは、感染症や災害、交通事故、各種犯罪などから市民の皆さんの生命や財産を守り、誰もが安心して暮らせるまちをつくる目的の下、実行するものです。

二つ目は「子どもの笑顔あふれる次世代育成プロジェクト」です。足利市において安心して結婚や出産、子育てができる環境をつくるためのプロジェクトです。切れ目のない子育て支援を充実させ、小中学校での教育環境の充実、学力向上を図り、未来を担う子どもたちが伸び伸びと育つまちづくりを進めます。

 

三つ目は「活力みなぎる産業力向上プロジェクト」です。産業団地の開発と企業の誘致を進めるとともに、創業支援や多様な働き方の促進にも力を入れます。農林業に対しては新たな担い手の確保や先端技術の導入支援などを行い、市の産業全般が活力に満ちた状態を目指します。

四つ目は「選ばれるまち魅力創出プロジェクト」です。こちらは観光誘客や移住定住促進に関するものです。歴史や文化など市が持つ地域資源の磨き上げと国内外への情報発信、シビックプライドの醸成に関する取り組みを行います。

五つ目は「未来につなぐ幸せ実感プロジェクト」です。持続可能な社会を未来につなぐため、環境問題への取り組みや、快適な都市基盤の整備、健全な行財政運営を図り、子どもからお年寄りまで誰もが生きがいを持ち、幸せを実感しながら生き生きと暮らせるまちをつくります。

 

小田 「五つの重点プロジェクト」からは、早川市長が明るい未来をつくろうとしている強いお気持ちが伝わってきます。

早川市長 私自身が現役の子育て世代ということもあり、子どもたちのために豊かに暮らせるまちをつくろうという思いは強いです。将来良い実がなるよう、積極的に種を蒔いています。

 

小田 現在までに、芽が出てきたと感じる取り組みはありますか?

早川市長 コロナ禍からの回復を目指して取り組んだ地域経済活性化策が、徐々に実を結び始めています。昨年度は、プレミアム付き商品券の発行や新産業団地の造成、夜景イベント「足利灯り物語」の開催と「夜景サミット」の誘致などを通じ、まちが盛り上がる空気をつくりました。また、世界有数のコンサルティング企業であるデロイトトーマツ社をはじめ、足利大、エアロエッジ社と産学官連携協定を結び、子どもたちの学力向上を目指す教育DX(デジタルトランスフォーメーション)をスタートさせています。

教育DXを推進する産学官協定連携 締結式の様子
協定締結式の様子(出典:足利市ウェブサイト)

 

今年度はこれらの芽をさらに育てつつ、市にゆかりのある文化財の展示による文化観光の推進や災害用ドローンの配備、健康増進策など、将来を見据えて新たな種を撒いています。

 

第2回に続く

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年6月17日号

 


【プロフィール】

足利市_早川市長プロフィール写真早川 尚秀(はやかわ・なおひで)

1972年足利市生まれ。早稲田大政治経済学部経済学科卒業後、95年4月に足利銀行入社。

2003年4月栃木県議会議員に初当選し、議長経験も含め5期18年を務める。21年5月に足利市長就任現在1期目。

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