インバウンド需要回復後の「新たな課題」に挑む~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(4)~

北海道富良野市長・北猛俊
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

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2024/10/24 インバウンド需要回復後の「新たな課題」に挑む~北猛俊・北海道富良野市長インタビュー(4)~

 

人と接することで気付きや学びを得る

小田 北市長はまさに今、前例のない課題に対する解決の方法を探っている最中かと思います。模索しながら答えを導き出すプロセスについて、率直にどう感じますか?

北市長 得意ではありませんが、いろいろな方と接する中で気付かせていただくことはたくさんあります。そういう意味では、模索するプロセスを大切にしています。自分だけで調べて完結するというよりは、人との接点を持ちながら新しい学びや手段を取り入れています。

 

小田 北市長は、市民の皆さんとの対話集会を定期的に開催されています。人と接して声を拾うことをとても大切にしていらっしゃるのですね。

北市長 地域懇談会を定期的に開き、市民の皆さんからご意見を伺っています。あるいは、各種団体の方々に市長室にお越しいただき、意見を伺うこともあります。寄り添える行政になるように、市民の皆さんの意識を深く理解するように努めています。

ただし最近は、行政に対する依存度が高まっているように感じます。「自助・共助・公助」それぞれに役割があるという意識が少し薄らいできているようです。市民の皆さんの多様なニーズに応えるためには、共創が欠かせません。総合計画には「共創のまちづくり」を柱として掲げました。何か新しい取り組みを始める際も、機会があるごとに市民の皆さんに共創を呼び掛けながら説明しています。

 

小田 他の自治体の首長からも「住民がお客さまになっている」というお話をよく聞きます。意識醸成にはご苦労されているようです。

北市長 「自助と言われるが、自助の力がない」というお声を頂くことがあります。それはそれで事実だと思います。ただし、まち全体が力を失ったような雰囲気になると、住民自治は機能しなくなります。そのような状況は避けなければなりません。かつて富良野市民は、アルペンスキーのワールドカップ富良野大会で、コース整備や大会運営に一丸となって協力してきました。このように、パワフルな資質を持っています。自助の力は復活していけると信じています。

 

小田 市民の皆さんの「まちづくりを自分ごと化する意識」の醸成が望まれますね。

他の自治体との交流で情報収集や気付きを得ることもありますか?

北市長 富良野地区の5市町村で広域連携を行い、首長同士で意見交換をしています。もっと広く捉えますと「全国へそのまち協議会(「へそ・中心・重心」などの個性的な地域資源を持つ全国9市町村で構成された協議会。相互の交流を深めながら魅力ある地域づくりに取り組む)」に属する各県の市町村の首長との交流もあります。富良野市は「北海道のへそ」です。他県の自治体の取り組みについて互いに情報交換できる機会は貴重です。新しい発見もよくあります。

 

小田 首長同士の意見交換の場といえば、近隣自治体との連携や全国市長会などの枠組みがメインだと思います。「全国へそのまち協議会」はそれとは全く違った枠組みで、交わされる情報にも特有性がありそうですね。

 

「まちの役割」を見出す

小田 近年、行政や議会経験が無く、若くして首長に就任する方が増えています。その方たちへの助言という観点で伺いたいのですが、北市長が考える「首長に必要なもの」とは何だと思いますか?

北市長 アドバイスができる立場ではありませんので、(京セラ創業者の)稲盛和夫さんの言葉で代弁させていただきます。「動機善なりや、私心なかりしか」です。自らの行いは、私利私欲からではなく、正しい動機からなされていることなのか、常に省みることが大切だという意味です。これは首長にとっても大切な言葉だと思います。選挙のために結果を残そうとするのは、首長の都合です。そうではなく、住民のための施策なのか、そのために住民と向き合っているのかと問い続ける姿勢が必要です。自分の欲が入った行いは、良い結果につながらないのではないかと思います。

 

小田 ありがとうございます。北市長のそのようなお考えは、じわじわと市民の皆さんにも浸透してきているのではないでしょうか。

北市長 少しずつ理解は進んできているように感じます。とはいえ、批判が全くないというわけではありません。私自身は将来を見据えた政策を行っているつもりですが、考え方は人それぞれです。全てに賛同いただくことはできないと思います。それでも、未来の富良野市のための取り組みを積極的に行う所存です。

 

小田 今後はどのようなまちづくりを展開していこうとお考えですか?

北市長 戦後の復興から高度成長、バブル期、そして失われた30年と、社会の価値観は変わり続けてきました。今もまさに、社会構造の変化が急速に進む時期に来ていると思います。国全体の経済が衰退する中、人口減少という大きな問題があります。この難局を乗り越えるためには、取り巻く環境をつぶさに見極め、変化に対応できるようにしておかなければなりません。富良野市はICT(情報通信技術)やテクノロジー活用という手段で、変化に対応できるように備えてきました。これは引き続き行うとして、今後は富良野市にしかできないこと、つまり「まちの役割」を見出して、それをしっかり果たしていける行政でありたいと思います。「まちの役割」があれば、人口が減ったとしてもまちはそこに残り続けるでしょう。

 

小田 北海道は早期から自治体間連携が進んだ地域だと認識しています。先ほど市長からも広域連携のお話がありましたが、今後はますます垣根を越えた協働が必要になってくるでしょうね。

北市長 自治体間連携もそうですが、やはり、住民との共創も必要不可欠になるでしょう。富良野市では共創を意識した「輝く。つながり合う。ひとのWA!」という重点施策で、住民の皆さんと共に次の世代にまちをつないでいきます。

 

富良野市重点施策

出典:第6次富良野市総合計画(中期基本計画)

 

【編集後記】

コロナ禍後のインバウンド需要の増大は、地域の経済回復をもたらす一方で、人口減少の影響を浮き彫りにします。本稿では富良野市の状況を「全国的にもまれなパターン」と表しましたが、それは現時点においてであり、今後同様の課題に直面する自治体が出てくるのではないかと予想します。産業振興と人材確保のバランスが非常に難しい行政運営に挑む富良野市。北市長と職員の皆さんの変化に対応する力に期待しましょう。

 

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年9月9日号

 


【プロフィール】

富良野市北市長プロフィール写真北 猛俊(きた・たけとし)

1945年生まれ。北海道空知郡中富良野町出身。富良野高等学校、北海道拓殖短期大を卒業後、75年4月より実家の農業に従事。
95年4月に富良野市議会議員に初当選。2007年5月から17年12月まで富良野町議会議員を務め、18年5月に富良野市長に就任。現在2期目。

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