「幸福度全国No.1のまちづくり」を~田口知明・秋田県仙北市長インタビュー(3)~

秋田県仙北市長・田口知明
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事・小田理恵子

 

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2024/12/12 「幸福度全国No.1のまちづくり」を~田口知明・秋田県仙北市長インタビュー(4)~

 


 

前回に引き続き、秋田県仙北市、田口知明市長のインタビューをお届けします。

民間企業の経営者から政治の世界に飛び込んだ田口市長は、財政や人材の課題に対し、経営視点で解決を試みています。今回も、その具体的な取り組みや考え方に触れていきます。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

 

「経費」に対する考え方

小田 前回のインタビューでは、田口市長が首長に就任するまでの経緯を伺いました。現在は市の財政の健全化に邁進されているとのことですが、予算のメリハリはどのようにお考えですか?

田口市長 何でもかんでも緊縮すればいいという話ではありません。本当に必要な経費なのであれば、そこにはきちんと予算を付けるべきです。

仙北市の場合では、例として職員の出張旅費が挙げられます。私が市長に就任した当時、他県に視察や企業誘致イベント等で出張する際の宿泊日当は市長に1万3300円、随行する職員には9800円が支給されていました。しかし現在、特に都心のホテルの価格がどんどん上昇しています。

市長と職員に日当の価格差があると、宿泊先が各々ばらけてしまう可能性があります。危機管理体制として良い状態とは言えません。もしも出張中に大雨等の災害に遭った場合、居場所がばらけていては速やかな連携が取れないからです。

その他にも、現実的な出張旅費を見積もらなければ、そもそも職員が出張のたびに自腹を切ることになります。仕事で発生する経費は実費精算ができるようにすべきです。そこで昨年度に条例改正を行い、出張旅費について規定を見直しました。

 

小田 出張旅費は新たな人脈や機会を得るための投資的な費用です。民間企業の経営者であった田口市長ならではの合理的な判断だと思います。

田口市長 交際費についても見直しました。以前は副市長や部長級職員には支給されない制度になっていましたが、官民連携等でさまざまなステークホルダーと関わる機会が増えてきた昨今において、制度の古さによる職員の機会損失は避けなければなりません。今では副市長や部長級職員にも交際費を出せるようにしています。

他にも、職員が負担していた名刺の印刷費用の一部を市が負担するなど、仕事で発生する必要経費は極力公費で負担できるようにしています。

 

小田 必要経費は領収書で精算するのが民間企業の当たり前の感覚ですが、行政だと考え方が少し異なるのかもしれませんね。

 

事業の優先順位

小田 財政の健全化に向けた取り組みについて伺います。基本的な考え方として、歳入を増やす施策と歳出を減らす施策に分かれると思いますが、それぞれについてお聞かせいただけますか?

田口市長 歳入を増やすために注力しているのが、ふるさと納税です。昨年度は秋田県内の自治体では最高の寄付額である25億円が集まりました。素晴らしい成果ではありますが、ふるさと納税頼りのアンバランスな財政になっていることは否めません。もしもふるさと納税制度が廃止されたらどうするか、未来に起こり得るリスクを考慮して先回りする必要があります。

仙北市は、1093平方㌔㍍の面積に約2万3000人が暮らすまちです。急峻な山地や田沢湖がある中でインフラの維持更新には大きなコストがかかります。また、全国有数の豪雪地域でもあることから、冬季の除雪費用も嵩みます。

一言で歳出といえども、暮らしに直結するコストと、削減の余地があるコストに分けて考えなければなりません。そこで年度ごとに政策評価と事務事業評価を行い、事業の優先順位を付けた上で取捨選択をしています。

 

小田 事務事業評価はどのようなプロセスで行うのですか?

田口市長 その年の自主財源比率の高い事業について、まずは部長級職員が1次評価を行います。次に住民代表の皆さんによる総合審議会にて評価していただき、最後に市長と副市長、教育長がこれまでの評価を基に2次評価を行い、事業継続の妥当性について判断します。判断軸は「廃止」「縮小」「拡大」「継続」の四つです。ここでの判断が予算編成にも反映されます。

 

小田 行政の事務事業評価にて、「廃止」「縮小」の判定があることが驚きです。

田口市長 現時点で歳入と歳出がアンバランスになっている状態です。収支を改善するには、民間企業であれば売り上げを伸ばすか、利益率を上げるか、支出を減らすかしかありません。市の事業に無駄なものはありませんが、その中でも優先順位を付けて減らしていくことになります。

 

小田 右肩上がりが見込めない時代です。未来に向けて新たな一手を打とうとすれば、今までのやり方を手放す必要があるということですね。

田口市長 おっしゃる通りです。一般財源にも限りがあります。そうした中、市民の皆さんの幸福度を向上させる新規事業に取り組むのであれば、ある程度の余力を確保しなければなりません。事務事業評価で既存事業の見直しを行う目的は、未来に向けた投資の準備です。やはり、子育て支援に力を入れていきたいです。

 

 

市民意識調査を根拠に判断

小田 前回のインタビューでは庁舎機能の移転・集約についてお話しいただきましたが、その他にもハード面の運営効率化で取り組まれた事例はありますか?

田口市長 市長に就任して真っ先に着手したのが「出血を止めること」でした。そこで注目したのは指定管理者制度で運営されていた施設です。市内にある温泉施設など4カ所と観光植物園1カ所は、いずれも第三セクター方式で運営されていました。赤字経営の施設に対しても市から補助金が毎年出ており、その額は1億円以上に上っていました。この状態を改善するために、5施設の経営を1社に集約しました。

また現在では、秋田内陸縦貫鉄道というローカル線の見直しについて協議が進んでいます。この路線は、かつて沿線に住む学生たちの通学の足として利用されていましたが、少子化と人口減少により利用者数が減少しています。見直しに当たっては住民の皆さんの意見を伺って判断したいため、アンケート調査を実施しました。

利用頻度の高い一部の地区からは現状維持の声が上がりましたが、その他の地区からは見直しを求める声が多く、意見が割れています。しかし市民の総合的な意見は把握できましたので、これを裏付けに予算措置を行うつもりです。

 

小田 粘り強く住民の声を聴き、対話を重ねる必要がありますね。

田口市長 秋田内陸縦貫鉄道の維持を望む地区からは、相当厳しい批判を受けています。しかし、そういった意見をまずは受け止めるということが大切だと思います。私の判断のベースには、必ず市民意識調査(アンケート)があります。

 

小田 市民意識調査では、行政の事業に対する関心以外にどのようなことを質問されますか?

田口市長 地域への愛着や暮らしの幸福度についても質問します。私が掲げる市政理念は「幸福度全国No.1のまちづくり」です。市民の皆さんが感じる幸福度は、私に対する通信簿のようなものです。その数字が上がらないのであれば、やはり事業を見直す必要があります。

経営者時代も同じような考え方で事業を進めてきました。「結果は出なかったけれども頑張った」ことよりも、「今の実績に応じて次の戦略を考え、結果を出す」ことを重視しています。

 

(第4回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2024年10月28日号

 


【プロフィール】

田口市長プロフィール写真田口 知明(たぐち・ともあき)

1970年生まれ。旧田沢湖町小保内(現仙北市田沢湖小保内)出身。民間企業の代表取締役や専務を経験したのち、2021年10月に仙北市長選挙に立候補。当選し、仙北市長に就任。
趣味は温泉旅行、座右の銘は「奮励努力」

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