広島県三次市長 福岡誠志
(聞き手)株式会社Public dots & Company代表取締役 伊藤大貴
2020/12/17 広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(1)
2020/12/19 広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(2)
2020/12/21 広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(3)
2020/12/23 広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(4)
2020/12/25 広島県三次市 福岡誠志市長インタビュー(5)
広島県三次市は2021年春をメドに、スマートシティー構想を策定し、ICT(情報通信技術)を活用した産業や行政のスマート化を本格的に推進する。同市の人口は約5万1000人。この規模の自治体でスマートシティー構想を打ち出すのは異例のことと言える。福岡誠志市長に、実現したいスマートシティー像や取り組み方について聞いた。
市全域の光ケーブル網生かし、デジタル教育を実現へ
伊藤 三次版スマートシティー構想について聞かせてください。スマートシティーは、政府が後押ししていることもあり、各地でプロジェクトが始まっています。ざっくり言えば、IoT(internet of things=モノのインターネット)を導入し各種センサー群からさまざまなデータを収集して、インフラサービスをより効率的に管理・運営するというものですよね。ただ、先行事例はその多くが大都市によるプロジェクトです。人口5万人規模の自治体が目指すスマートシティーとはどういうものか、ぜひお聞かせください。
福岡市長 一口に言うと、暮らしと仕事、行政をデジタル化することで、今より便利な生活や働きやすい環境を構築しようというものです。IoTやICTを活用して、交通、教育、医療、インフラ、生活全般をもっと便利で豊かなものにしていきたい。三次は市内全域に光ケーブルが張り巡らされていて、通信インフラは整っていますので、これを活かさない手はないと考えました。
具体的には、行政手続きのデジタル化や、テレワークを浸透させたり、子どもにタブレット端末を1人1台配付してデジタル教育を推進したり、遠隔医療を可能にしたりといったことです。生活の中で市民の皆さんに便利さを実感してもらえるところまで推進していきたいですね。
三次は市域が約780平方㌔(東京23区の合計面積の約3倍)と広く、その分、あらゆることが首都圏などに比べ、どうしても非効率になってしまいます。例を挙げれば、上下水道は整備距離が長く、整備や運営に関わる経費は膨大です。
市民の生活もしかり。一人暮らしのおじいちゃん、おばあちゃんは病院まで遠いのでタクシーに乗る人が多い。往復にかかる時間もお金もかさみます。それだけに、もしも遠隔診療が実現して、自宅にいながらちょっとした体調不良を医師に相談したり、処方された薬を自宅で受け取ったりできるようになれば、お年寄りにもDX(デジタル変革)のメリットを感じてもらえるでしょうね。
田舎の常として、病院が交流の場となっている側面もありますので、遠隔医療が実現すると医療側にもメリットをもたらせるのではないかという気がしています。医師会ともしっかり協議しながら検討していきたいと思います。
伊藤 光ケーブルが張り巡らされている環境では、いったんご高齢の方のご自宅の接続設定などができてしまえば、それぞれ自宅でくつろぎながらお友達同士でおしゃべりが楽しめるようになりそうですね。病院の待合室にあったコミュニティーをオンラインに置き換えるようなことが可能かもしれません。
福岡市長 テレビ会議システムなどを高齢の方が使いこなしてくださるようになると、いろんな効果が生まれそうです。買い物代行サービスなども格段に利用しやすくなることでしょう。
教育においては既に効果が表れています。市立小学校が新型コロナウイルスの流行に伴って臨時休校した際には、学校が授業映像や教材を配信し、児童は自宅の端末を使って学習していました。
コロナ禍で社会や暮らしが大きな転換期を迎える中で、この流れに乗って、三次でもさまざまな活動をオンラインで可能にするICTシステムを実装していきたいと思っています。
伊藤 私はフェリス女学院大で非常勤講師を務めているのですが、学生たちに最近、面白い話を聞きました。われわれがオンライン会議をするとなると、何日の何時と前もって約束して、当日はそれぞれがカメラに正対して会議に参加しますよね。ところが、学生たちは会議などの目的を持たないで、長時間にわたって、緩くつながり続けているそうです。帰宅してすぐにオンライン会議システムを立ち上げておいて、あとはいつも通りに生活する。カメラの前にいたりいなかったり、オンラインでつながっている誰かと話したり話さなかったり。誰かが料理をしていると、別の誰かが「きょう、何作ってるの?」と聞いて、聞かれた人は手を止めないでそのまま答えたり、より自然体のコミュニケーションが取られています。特に発言しない時間が続くのもアリで、それでも〝つながっている〟ことによる安心感があるといいます。市長のお話を伺っていて、ならば高齢者の方々も病院の待合室でのトークを自宅で楽しめるようになるかもしれないと思いました。病院を訪れる目的はあくまで受診で、待合室での会話は副産物ですよね。特に約束して会うわけではないけど、顔を合わせたので生まれる気軽なトーク。これを、自宅でインターネットを介して同じ重さ・軽さで楽しめるのではないかと思ったんです。
福岡市長 なるほど。オンラインのコミュニケーションを日常生活に溶け込ませると、世界が広がりますね。あとは、ご高齢の方にはオンライン会議システムなどデジタルツールは、「何だかすごく難しいもの」という先入観や心理的なハードルがあると思うので、それをどう取り払うかが課題です。三次市の高齢化率は36%と高いので、お年寄りにデジタルツールを使ってもらうということに、真剣に取り組む必要があると思っています。
(第4回につづく)
【プロフィール】
福岡誠志(ふくおか・さとし)
昭和50年生まれ。広島県三次市出身。
広島国際学院大学卒業、広島修道大学大学院法学研究科修了。
平成10年湧永製薬株式会社広島事務所入社。
平成13年の初当選以降、三次市議会議員を5期務める。
平成31年、三次市長に就任(1期目)。
その他、全国若手市議会議員の会副会長、(一社)三次青年会議所第62代理事長。
伊藤大貴(いとう・ひろたか)
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。