まちの活性化へ、あらゆる方策を考える~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(4)~

山形県酒田市長 丸山至
(聞き手)Public dots & Company 代表取締役 小田理恵子

 

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2022/04/28 まちの活性化へ、あらゆる方策を考える~丸山至・山形県酒田市長インタビュー(4)~

まちの主要スポットも公民連携で活性化

小田 まちのにぎわいづくりに関し、他の事例があれば教えていただけますか?

丸山市長 市の中心市街地のすぐそばに「山居倉庫」という、12棟から成る米蔵があります(写真)。1893年に旧藩主・酒井家によって建てられた米の保管倉庫で、その歴史的背景から年間約80万人が訪れる観光資源となっています。市としては大切に保全していきたいと考え、国の史跡となるよう手続きを行いました。

道を挟んだ向かい側には県立商業高校の跡地があり、現在は市が所有しています。観光スポットの目の前ですから、跡地のままではもったいないです。ですから、ここに集客施設を設けることはできないかと考え、事業展開を行う民間企業を昨年11月に募集しました。幾つかの企業が手を挙げてくださったので、これから提案内容を精査し、連携する企業を決める段階に入ります。

 

小田 山居倉庫を中心に、まちの活性化につながる仕掛けに取り組んでいるのですね?

丸山市長 はい。高校跡地に入る民間事業者の方から一定の賃料を頂き、それを倉庫群の維持管理費に充てたいと考えています。また、山居倉庫を中心としたエリア全体が盛り上がるよう、移住・定住を推進する事業にも並行して取り組んでいます。

これは高校跡地やその隣にある消防署の跡地を無償で貸す代わりに、民間事業者にアパートなどの住宅を建ててもらい、入居者を募るというものです。そこに移住して来た方たちには、酒田の主要スポットを活動拠点として利用しつつ、まちづくりに参加したり、自らの人生の目標をかなえたりしていただければと思っています。

移住者用住宅の完成は今秋を予定しています。高校跡地を活用する事業者が決まるのが今年5月ごろです。どちらも、まちづくりの最も大きな事業として着実に動いています。これらの事業も民間の力を借りて行っていますから、公民連携の事例と言えるでしょう。

 

小田 山居倉庫は私も訪れたことがありますが、周辺には歴史情緒あふれる他の建物もありますし、おしゃれなカフェなどもあって素敵な場所だと思います。中心市街地ともそれほど距離はありませんから、市の主要スポットとして、まちづくりの起点になるとよいですね。

丸山市長 そうですね、山居倉庫は12棟ありますが、それぞれの使い道もまだまだ検討の余地があります。この辺りのアイデアも民間の方々から募ろうかと考えています。

小田 これから山居倉庫の活用がどのように進むのか、楽しみです。

 

写真 山居倉庫(出典:JA全農山形)

 

自治体経営の安定性を念頭に

小田 少し話題は変わりますが、地方自治体が都市部の大企業などと公民連携する場合、都市部に仕事が流出してしまうのではないかと議論になるケースがあります。この点、丸山市長はどのようにお考えですか?

丸山市長 確かに、地元企業を重視する方が良いという議論もありますが、都市部の企業と比較してプラスとマイナスをしっかり見定める必要があると思います。

地元企業の皆さんは当然、地元で上げた利益の一部を税金として納めてくださいますし、私生活も地元で営んでいます。それをむげにすることは、あってはならないと思います。一方で都市部の企業の皆さんは、雇用などの面で地元に貢献はしてくださいますが、利益は都市部に流れます。こう見ていくと、やはり地元企業を重視した方が良いとも思えますが、まちづくりに密接に関係する商業施設を整備するに当たり、中央の魅力ある店舗とのコネクションという面では、地元企業は不利になります。

このように、両者共にプラス面とマイナス面を持っていますから、最終的にどんな判断を下すかは考えどころです。やはり持続的な経営をしないことには、まちのにぎわい創出につながりませんので、それができるのは地元企業か、それとも都市部の企業か、専門家も交えながら公平に見ていく必要があります。自治体経営の安定性を念頭に置いた評価が問われます。

 

小田 地元に対する愛情を持ち、その土地に根を張って活動する企業か。それとも、公民連携の事例やノウハウを数多く持つ都市部の企業か。確かにバランスが問われるところですね。これは酒田市のみならず、全国の自治体が相対する課題のような気がします。

今後の酒田市の公民連携の様子にも注目していきたいと思います。さて、これからの展望について丸山市長のお考えをお聞かせ願えますか?

丸山市長 今年から運用が始まった民間事業者提案制度は特段、新しい制度ではありません。他の自治体も持っている仕組みです。それでも、やはり酒田市という土地で実現したい未来像は唯一無二のものですので、酒田ならではの個性が対外的に示せるようになるといいと思っています。

これから率先して取り組もうとしているのが、デジタル変革です。

実は酒田市は、国のデジタル庁構想とほぼ同時か、あるいはそれより少し先んじて、デジタル変革の組織体制や戦略をつくることができています。この体制をつくれたのも民間と連携したからです。外部講師を招いてデジタル変革に関する講演をしていただいたり、民間企業の方を最高デジタル戦略責任者(CDO)としてお迎えしたりして、行政のみではできない大胆な変革を行おうとしています。

やはり新型コロナウイルス禍の行政業務を経験し、デジタル化が進んでいれば無駄なお金や労力をかけずに目的を達することができると痛感しました。ですから今後はマイナンバーカードの普及なども、さらに進めていきたいと考えています。

 

酒田市デジタル変革戦略は昨年3月に策定されており、現在はデジタル化する前の業務量調査の事業を1年かけて行っているところです。

その後の動きとしては3本柱で考えており、一つは住民と行政のやりとりにデジタルを活用して仕組み化すること、もう一つは健康寿命を延ばすためのデジタル活用、最後は教育における個別最適化に向けたデジタル活用です。来年度はこの3本柱に着手し、市民の実益につなげていきます。

他にも「女性が日本一働きやすいまち」という旗印の下、テレワークなども含めて柔軟な就業ができる環境整備を進めていきたいと思っています。

女性が働きやすい環境は男性も働きやすいでしょうし、子育てもしやすいからです。酒田市は人口10万人を切るほどのまちですが、その規模であるからこそのきめ細かい行政サービスができると考えています。これまで「子ども」「女性」「高齢者」と縦割りだった事業に「家庭」という視点で横串を刺し、充実した行政サービスを提供する市役所をつくり上げていきたいと思っています。

 

小田 今回のインタビューで、丸山市長は繰り返し「市民の実益」という言葉を使われていましたが、酒田のまちに住む方たちの暮らしをより良くするため、地に足の着いた市政運営をされている様子がよく理解できました。

丸山市長 やはり目的は地域に実益をもたらすことですし、公民連携もデジタル変革もその手段です。民間の力はわれわれにとって、とてもありがたいものですから、今後もやる気のある企業と連携していきたいと考えています。そのためには、まず酒田というまちの存在を認知してもらわなければなりません。あらゆる面で露出を増やし、そして酒田に興味を持っていただき、そこでつながった民間企業の皆さんと対話を重ねながら、まちづくりを展開していきたいと思います。

 

【編集後記】
終始にこやかに話す丸山市長でしたが、その奥には市の持続的な発展に対する責任感と使命感を感じました。今回はさまざまな公民連携の事例を伺いましたが、いずれも着実に進んでいる印象を受けます。数年後あるいは数十年後、あらゆる方面からアイデアが集まり、それらが具体化した酒田市には、どんなにぎわいや利便性が創出されているのでしょうか。今後の動向も楽しみです。

 

(おわり)

 


【プロフィール】

山形県酒田市長・丸山 至(まるやま いたる)

山形大人文学部卒業後、1977年に山形県酒田市に入り、商工港湾課長、企画調整課長、水道部管理課長、健康福祉部地域医療調整監、財務部長、総務部長、副市長を経て、2015年9月に市長に就任。現在2期目。

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