
長野県小布施町長 大宮透
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2026/03/04 移住者町長が挑む、農業継承と行政改革~大宮透・長野県小布施町長インタビュー(1)~
2026/03/05 移住者町長が挑む、農業継承と行政改革~大宮透・長野県小布施町長インタビュー(2)~
2026/03/10 苦い経験が育んだ「調整型」リーダーシップ〜大宮透・長野県小布施町長インタビュー(3)〜
2026/03/12 苦い経験が育んだ「調整型」リーダーシップ〜大宮透・長野県小布施町長インタビュー(4)〜
年間100万人が訪れる長野県小布施町。地方創生の模範事例とも言えるこの町で、2025年1月、元役場職員から県内最年少首長として就任した大宮透町長。華やかな評価の裏で、「農業の担い手不足」「専門職不足」という深刻な課題に直面しています。
本インタビューでは、トップダウンではない「調整型」のアプローチを重視する町長のリーダーシップの背景に迫ります。第1〜2回では、リーダーシップの原点にある哲学、農業問題への「共創」の姿勢、そして「行政の応援団」という独自の施策について詳しく伺います。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)
移住者だからこそできる「調整型」のアプローチ
小田 小布施町は歴史と文化を大切にしている町だと感じるのですが、一方で変革が必要な部分もあるかと思います。町長が考える「変えるべきもの」と「守るべきもの」の基準についてお聞かせください。
大宮町長 私は大学時代にこの町を訪れて以来、小布施に魅了されて移り住んだ移住者です。役場職員としても働き、内外からこの町を見てきました。
両方の視点を持つ人間として、私は小布施町がこれまで育んできた歴史や文化、地域性を大切にしていきたいと考えています。「古いから変えなくてはいけない」と、何でも現在の価値観に全て転換していくことが良いとは思っていません。
小布施町には27の自治会があり、それぞれが独自の文化を持っています。
江戸時代には「六斎市」という定期市が立つ商業の町で、比較的昔から移住者も多かった。そうした歴史性、例えば晩年の葛飾北斎を受け入れてきた土壌などは、むしろストーリーとして活かしながらまちづくりを進めていきたいと考えています。
ただし、伝統や文化をそのまま継承しようとすると、今の時代には受け入れられなかったり、時代適合性が低かったり、そもそも継承が不可能だったりする場合があります。
そうしたものに関しては、できる範囲の中で変えていき、受け入れられやすいようアジャスト(調整)していく形を大切にしています。
小田 具体的に、その「アジャスト」はどのように行われるのでしょうか。小布施町の「町並み修景事業」はその好例かと思います。
大宮町長 まさにその通りです。小布施町が1980年代から進めてきた町並み修景事業には、「外は共有資産、中は自由」という独特の考え方が根底にあります。
もともとあった土蔵や古い町並みを大事に、新しく造るものはその景色に寄せていく。しかし、建物の「中」は近代的で最新のものを揃えていく。外観は伝統に寄せるが、内部の近代化は許容するという、非常に柔軟な考え方です。
この価値観に私自身も強く共感しています。まずは郷に入れば郷に従い、伝統や文化を大事にしながらも、変えるべきところは変えていくというさじ加減で進めています。
小田 町長ご自身が「変える」と決断したとき、特に組織内部の変革については、どのような進め方を意識されていますか。県内最年少首長という若さと推進力を活かして、トップダウンで一気に進めるイメージも持たれがちかと思います。
大宮町長 むしろ逆です。当然組織のトップとして率先して決断すべきこともありますが、組織変革の進め方としては、トップダウンは最小限にとどめたいと考えています。それよりも「合意形成」と「段取り」を重視していますね。
私自身が役場職員として内部にいた経験から、人の気持ちはそんなにすぐについてこないことを実感しています。また、組織運営の難しさに直面したことを通じて、一方的な変革がいかに難しいかも身をもって学びました。
ですから、もし変革したいことがあったとしても、まずは幹部職員が参加する会議体で自分の考えを共有し、そこで出た意見も踏まえて意思決定をしていくことを意識しています。職員からの声で自分の方向性を修正することも大切にしています。
一見、非効率かもしれませんが、職員との対話を通じて、粘り強く時間をかけて変革を進める「調整型」のアプローチこそが、結果的に変革を可能にすると考えています。
平均年齢70歳、農業の未来への危機感
小田 伝統を大切にしつつ「調整型」で変革を進めるというお話でしたが、現状で最も深刻だと捉えている町の課題についてお聞かせください。移住も好調で、順調に見えますが。
大宮町長 小布施町は、外部からは移住政策なども含めて順調に進んでいるように見えるかもしれません。実際、ありがたいことに、子育て世代の方に良いイメージを持っていただいています。
人口は1万人程度ですが、この5年間ほどは年間で平均70人ほどの転入超過となっており、移り住んで来られるのは私と同世代の子育て世帯の方が多い。その結果、子どもの数はほとんど減っていません。
これは、積極的な移住政策を強力に進めたというよりは、町のブランドイメージや民間開発によって、若い世代の流入が自然とある状態です。
また、地理的な条件にも恵まれています。長野市に近く、須坂市や中野市といった中規模の都市にも囲まれている。行政が町として「雇用」を創出しなくても、すでに通える働き場所がたくさんある。
これは非常に大きな強みであり、我々は「住まい」や「暮らし」の軸で選んでもらえるまちづくりに特化していける部分があります。
こうした恵まれた側面がある一方で、基幹産業である農業の未来に課題を抱えています。
小田 農業の担い手や高齢化に危機感を持つ自治体は多いですが、小布施町も同じような状況なのでしょうか。
大宮町長 小布施町は約4000世帯のうち1200〜1300世帯が何らかの形で農業に関わっている、まさに農業の町です。しかし、農家の平均年齢は約70歳となっています。
これは5年前(2020年)の調査と比較すると、新規就農で若い世代の流入が一定あるにもかかわらず、ほぼそのまま5年スライドして平均年齢が上がっている、というのが実態です。
小田 平均年齢が70歳。小布施町の農業の未来を考えると深刻な数字ですね。
大宮町長 平均年齢が70歳の農業が10年後どうなっているか。これはもう火を見るより明らかです。このままでは、今後5年、10年を見据えた時に、小布施町のアイデンティティーでもある、美しい果樹を中心とした農業風景の維持が難しくなり、耕作放棄地が相当出てくるだろうと考えています。
この「5年後の風景」を守るためにも、農業政策は喫緊の課題と言えます。
小田 その危機に対し、行政としてどう向き合い、政策を展開していくのでしょうか。
大宮町長 これまでは正直なところ、農業政策はJA(農協)にお任せしていれば良い、という雰囲気が町にもありました。しかしそのJAも広域化し、合理的な運営や広域での取り組みは行いやすくなったものの、小布施の農業に係る独自の取り組みは打ち出しにくくなっています。
だからこそ、町の行政も、これまで以上に農業政策にコミットしていかなければいけないフェーズに来ていると考えています。
(第2回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年1月19日号
【プロフィール】

大宮 透(おおみや・とおる)
1988年山形県生まれ、群馬県高崎市育ち。東京大工学部で都市計画を専攻後、小布施町に移住。
役場での総務課長、企画財政課長経験を経て、2025年1月、県内最年少首長に就任。
「信頼」「挑戦」「共創」を掲げる。

