
兵庫県芦屋市長 髙島崚輔
(聞き手)一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事 小田理恵子
2026/08/05 人を動かすより、動くのを信じる「問い続ける市長」の自治体経営~髙島崚輔・兵庫県芦屋市長インタビュー(1)~
2026/08/06 人を動かすより、動くのを信じる「問い続ける市長」の自治体経営~髙島崚輔・兵庫県芦屋市長インタビュー(2)~
2026/08/12 「挑戦したい人を守る」組織は、自治体を変えられるか~髙島崚輔・兵庫県芦屋市長インタビュー(3)~
2026/08/13 「挑戦したい人を守る」組織は、自治体を変えられるか~髙島崚輔・兵庫県芦屋市長インタビュー(4)~
2023年5月、26歳で芦屋市長に就任した髙島崚輔氏。若さや経歴、教育への関心、市民との対話を重視する姿勢は、これまでも多くの媒体で取り上げられてきました。しかし今回、私が知りたかったのは、政策そのものではありません。何をよりどころに判断し、人や組織とどう向き合い、変化を生み出そうとしているのか。改革を進めるリーダーの内側に迫りたいと考えました。
ところが、話を聞きながら、私はこれまでに感じたことのない戸惑いに直面していました。50人を超える首長へのインタビューを重ねてきた中で、初めての経験でした。改革を語るリーダーから感じる、強い怒りや悔しさ、何かを変えずにはいられなかったという切迫感。私はいつも、そこに手を伸ばすところからインタビューを始めます。
しかし、髙島市長にその問いを向けるたびに、手は空を切りました。言葉は明快で、問いには率直に答え、話の筋は一貫している。それでいて、どこか驚くほど澄んでいる。私が慣れ親しんだ物差しが、この人には通じなかったのです。
インタビューの終盤、私は思わず、「清涼な川に足をつけて、話を聞いているような感じがします」と伝えました。その清涼さは、どこから来るのか。インタビューを終えた今も、私にはまだ分かりません。
前編では、髙島市長というリーダーの言葉を、できるだけそのままお届けします。(聞き手=一般社団法人官民共創未来コンソーシアム代表理事・小田理恵子)

インタビュー中の様子(出典:官民共創未来コンソーシアム)
市民を巻き込みながら民主主義を強くする
小田 髙島市長にとって、民主主義とはどのようなものなのでしょうか。
髙島市長 一言で言えば、市民一人ひとりが、自分たちの社会が良くなったらいいなと思って、少しだけでも行動することの積み重ねだと考えています。
投票に行くことは民主主義の大事な一形態ですが、みんなが4年に1回投票すれば民主主義は完成、ということではないと思うんです。一方で、市民全員にボランティアをしてほしいという話でもありません。形式にかかわらず、社会を良くしたいと少しでも考えたり行動したりする。その積み重ねが民主主義なのではないかと考えています。
そして、その積み重ねの現場には、市区町村が最も近い。国や都道府県は、やはり大きくて遠い存在です。市民を巻き込みながら、一緒に社会を良くしていけるのは市長という仕事ではないか。私が基礎自治体の仕事を志したのは、それが理由です。
私は、政治家になりたかったというより、どちらかというと行政の仕事がしたかったんです。市役所は市民に一番近く、市民と一緒に仕事ができる。社会を良くするために、最も面白く、可能性のある仕事が市長だと思っています。その意味で、民主主義を強くすることは、市長だからこそできる仕事だと考えています。
小田 不安定な世界情勢や社会経済から、人々が不安や防衛的な感情に引っ張られやすい時代の中で、民主主義のような時間がかかる仕組みを信じ続けることをどのように考えていますか。
髙島市長 歴史上、今のような時代は何度もあったと思います。その中で、人類が知恵を重ねた結果、ベストかどうかは分からないけれど、最もベターな仕組みとして民主主義を選んできた。民主主義には、一定のレジリエンス(回復力)があると思っています。
一時的には、もっと強いリーダーが全部決めて、速く進めた方がいいのではないかと思われる場面もあるかもしれません。でも、本当にまずい状態になったとき、市民や国民が集まれば社会を変えられる。そのストッパー機能があることは、極めて大事です。
遅いとか、そんなことをしている場合ではないと言われることがあったとしても、最後に市民が社会を変えられる余地がある。その意味で、民主主義は大切だと思っています。
みんなでやる方が面白く、社会は良くなる
小田 髙島市長が市長を目指した根幹には、そうした民主主義への思いがあったのでしょうか。
髙島市長 強い哲学として最初から持っていたわけではありませんが、みんなでやった方が面白いし、社会は良くなり続けるのではないか、という感覚は昔からありました。原点をたどると、生徒会の経験なども大きかったと思います。
東日本大震災の翌年から福島を訪れた経験も大きいですね。自分たちの故郷のために行動を重ねる現地の同世代の高校生に出会ったんです。社会を良くすることは大人が担うものという感覚もあるかもしれない。けれど、故郷のために純粋に動いている同世代の姿は、すごく眩しく見えました。
小田 多くの改革者は、過去の悔しさや怒り、変えなければならないと思った原体験を語ります。髙島市長にも、そうした強い感情を伴う原体験はありますか。
髙島市長 実はあまりないんです。強い原体験がないこと自体に悩んだこともありました。もちろん、福島での経験や、生徒会、留学の経験はどれも今の自分に繋がっています。ただ、何かへの強烈な怒りがあって、それを変えたいというところから始まっているわけではないと思います。
小田 今のお話を聞いていると、髙島市長は、何か許せないものに対抗するというより、人が主体的に動くこと自体に可能性を感じているように思います。
髙島市長 そうかもしれません。社会を構成しているのは市民一人ひとりです。社会が良くなり続ける仕組みをつくるには、できるだけ市民の主体性を信じて、市民が少しずつでも動きだせるような環境をつくる方が良いと思うんです。国民主権でもありますし。
その上で、私は学校から始めるのが良いのではないかと考えています。教育に個人的な関心があることももちろんですが、子どもたちが最も身近な社会である学校を良くしようと行動することは、社会全体を動かす力につながるのではないかと。
就任後、まずは中学校を回って、生徒たちと給食を食べながら対話をしました。18歳以上であれば、選挙で自分の思いを託すことができます。でも、18歳未満の子どもたちには、その権利がありません。だからこそ、こちらから話を聞きに行こうと考えました。
その中で、校則を変えてほしいと提案してくれた中学生がいました。でも、市役所が「分かった、変えよう」とトップダウンで決めてしまうと意味がない。どうすれば変えられるのか、一緒に作戦会議をしてその日は別れました。
後日、校則を変えることができたと報告がありました。本当に嬉しかった。まさに、主体的に動いて社会を変える成功体験を積んでくれたのではないかと思っています。
学校は地域の核です。学校が子どもの主体的な行動によって良くなると、周りで見ている大人も刺激を受けて動き始める。実際、社会を主体的に良くする輪が、少しずつ学校から地域に広がっていることを感じます。
(第2回に続く)
※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年7月6日号
【プロフィール】

髙島 崚輔(たかしま・りょうすけ)
1997年生まれ。ハーバード大卒業(環境工学専攻、環境化学・公共政策副専攻)。NPO法人グルーバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ理事長、芦屋市役所企画部政策推進課でのインターンシップなどを経て、2023年5月に第23代芦屋市長に就任。
25年1月より文部科学省中央教育審議会専門委員。

