提言④ 企業や経済団体に対する就職氷河期世代採用・育成のノウハウ提供、事例共有

本人にとっても、企業にとっても就職は入り口にすぎません。組織の中で期待される役割を果たしていくことも求められます。就職氷河期世代をどのようにマネジメント、育成すればよいのかという情報やノウハウはまだ社会的にあまり共有されておらず、就職氷河期世代の採用に躊躇する要因にもなっています。せっかく採用しても活躍できなかったりすぐに退職してしまったりするようでは本人、企業双方にとってマイナスです。

そこで、企業向けのセミナーなどを開催し、就職氷河期世代の採用・活用の事例紹介、拡充された各種助成金などの施策紹介、職場体験の協力企業による講話などを通じて、事業の普及啓発に努めることを提言します。企業開拓員やコーディネーターには、できればキャリア形成に苦労してきた当事者世代を充てたいところです。企業人事担当者への説得力が違うと考えます。

提言⑤ 隣接都道府県・市町村との連携の推進

従来の就労支援でも県域を越えた自治体間、または隣接市町村との連携が求められてきました。今回の就職氷河期世代支援においても基本的には都道府県単位の支援プラットフォームを形成し、対策を講じていくことになります。就職氷河期世代支援に限ったことではありませんが、生活支援・就労支援において、隣接都道府県、市町村との連携の推進を図る機会・場が設けられることが好ましいと考えます。

提言⑥ 地域就職氷河期世代支援加速化交付金の有効活用

事業費の75%が交付金によって措置される「地域就職氷河期世代支援加速化交付金」が当初30億円という規模で創設されました。この交付金の詳細が明らかになったのが本年2月ごろとなり、2020年度当初予算の編成には間に合わなかった自治体が多かったと聞き及びます。しかし、年度途中に予算枠内での財源組み替えを行えば、余剰金を活用した就職氷河期世代支援の拡充を行うことができるのではないでしょうか。

国はこの新型交付金を活用した事業として、「地域における就職氷河期世代の実態調査・ニーズ調査」や、「就労活動のネックになる経済的負担の軽減(就職活動に要する交通費支給や、奨学金返還支援等)」などを一例に挙げています(図表1)。幅広く活用することができる財源でもあり、筆者としては以下に挙げる事業等も正社員転換・待遇改善に資すると考えます。

・正規転換に伴う転居費用の補助や住宅付き就労支援事業の創設

転居を伴う転職の場合、低所得・低(無)貯金の人が多い支援対象者は、それだけで応募や転職を躊躇します。生活福祉資金貸付制度がありますが、貸し付けではなく転居費用(引っ越し代や入居費用等)の一部を補助する制度を時限的に設けたり、自治体が活用できる公営住宅や空き家があれば住宅付き就労支援を検討したりすべきです。中長期的に見ると当該自治体の増収対策にもつなげることができます。

・潜在的求職者の掘り起こしに伴う需要増加に応じた事業拡充の検討(補正予算)

「いまさら……」「どうせ自分は対象外」「無理だろう」と、支援対象者の多くが諦め感を抱いていると思います。待機児童対策の時も同様でした。しかし、自分と同じような境遇にいる方が次々と保育利用申請を認められることで、潜在的だった需要は顕在化し、続々と新たな支援対象者(待機児童)を生み出しました。

就職氷河期世代支援も、徐々に認知度や実効性が確認され、支援対象者の知人友人まで効果が広がるようになれば、需要は喚起され、相談窓口やイベントに行く相談者が増加すると考えられます。

次年度(2021年度)事業まで待つことができればよいですが、需要拡大の兆候が見られたら、ぜひ加速化交付金を活用し、キャリアカウンセラー増員や、イベントの追加実施、インターネット交流サイト(SNS)相談窓口の開設、時節柄ニーズが高いオンラインセミナーの開催など、新たな事業の実施に取り組んでいただきたいと考えます。

結び

就職氷河期世代支援は、2020年度から3年間を集中支援期間として取り組まれます。

この世代が老齢期に入る2040年代に、この問題はより顕在化してくるでしょう。国や自治体は、多額の社会保障経費を支出しなければならないと多くの機関や識者が推測しています。将来起きる大きな問題を予防的に解決できるとすれば、この3年間をおいて他に時期はありません。この世代は現下のところ40歳前後のキャリアの転機にあり、年齢的に今後のキャリア形成を考えると残された時間はあまりありません。

一連の対策が実効性を持ち、一人ひとりの支援対象者にとっても意義ある施策となることを強く願っています。

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