新型コロナで再び就職氷河期は生まれるのだろうか?

結論から言うと、多くの困難を抱える就職氷河期世代が再び生まれる可能性は低いと考えられます。

確かに景気動向指数などを見ると、生活・サービス産業の急激な悪化が見られ、産業全体でも今後の見通しはよくありません。ただし、これまで見てきたように、就職氷河期世代は中長期的な不況期を通じて形成されます。未だ、若年層の完全失業率は低い水準で維持していますし、企業の採用意向も大きな落ち込みは見られません。環境変化に適応しようと、採用意欲ある企業は就職活動/採用活動をオンライン化し、「新しい標準(ニューノーマル)」と言われ始めている「WITHコロナ」の活動様式へ進化を果たしつつあります。この波は、やがて大手企業から中小企業へ、都市部から地方へ伝播していくと考えられます。

しかし、油断してはなりません!!! バブル崩壊後、まさか10年間にわたる不況期が続き、束の間の景気の踊り場を経て、リーマンショックが到来することを、どれほどの方が予測できたでしょうか? 就職氷河期世代が生まれる可能性は低いかもしれませんが、政策の失敗により悪夢のシナリオを再び歩むようなことがあってはなりません。

今後注目しなければならない指標等は、進学・就職しない学生数と相関性が高い「学生の有効求人倍率」、中長期的な採用意欲と相関性が高い「景気動向指数」、就職媒体会社などが調査する「2022年度新卒採用計画に関する企業調査結果」などです。

「大学生の有効求人倍率とフリーター、ニート層形成の関係」

資料:文部科学省「学校基本調査」とリクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査」を用いて筆者作成
有効求人倍率が下がることで、就職でもなく進学でもないフリーター、ニート層が生まれた。

就職氷河期が地域や自治体に与える影響とは?

万一、就職氷河期が再来することで、地域や自治体にどのような影響があるのでしょうか。40歳前後となっている就職氷河期世代が現在、与えている影響から考えてみます。

影響1 社会保障関連経費の増大。投資的経費の縮減

就職氷河期世代は他世代と比較して、不本意非正規率が高く、所得や貯蓄が低いという特徴があります。2000年代より氷河期世代向けの就労支援施策が展開され、正規転換や処遇改善に向けた事業が進められてきました。自治体においてもこれまで雇用対策に予算措置をしてきたはずです。

さらに今後は、氷河期が年齢を重ねていくにつれて、社会保障関連経費である扶助費(医療費や生活保護費など)を必要となっていきます。特に氷河期世代の親が他界する2040年代以降は経済的な拠所を失い、不安定な生活を余儀なくされている方の多くが生活保護対象に陥るとされています。必要となる経費は全国で十数兆円から数十兆円とされています。自治体の財政に与える影響も少なからずあると考えられ、投資的経費はさらに縮減せざるを得ない状況になっていきます。

影響2 地域経済やまちづくりの担い手が育たない

氷河期世代は本来、地域経済やまちづくりの担い手として活躍する年齢になっています。しかし子育てや介護などのケアワークも重なり、とても地域の中心的な役割を担うまで余裕がありません。元気な若手がいなくて自治会やPTA、消防団、商工団体などの活動の継続性に不安を感じている地域は多いと思います。今後ますます自治体や地域は、協働・共創が求められます。事業者、住民ともに働き盛りの人が疲弊していれば、施策推進はままなりません。

影響3 出生率の低下。更なる少子高齢化

結婚、子育てにはお金がいります。「出生動向基本調査」では、「結婚しない理由/理想の子どもを持たなかった理由」は、毎回のように「結婚資金がない/経済的な理由」が上位となっています。第二次ベビーブーム世代にも該当する氷河期世代は、生活基盤が不安定であることから結婚、出産をためらい、結果的に第三次ベビーブーム世代を生むことはありませんでした。

自治体や地域にとって、出生率の低下は更なる少子高齢化を招き、若い世代の負担感を高めます。そのことにより一層、若年人口は都市部に流出する要因になります。

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