なぜ、自治体の仕事は「終わらない」のか? -職員を疲弊から救う「プロジェクト思考」のすすめ  - ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(1)~ 

 

2026/5/27 なぜ、自治体の仕事は「終わらない」のか? -職員を疲弊から救う「プロジェクト思考」のすすめ - ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(1)~

2026/5/28 なぜ、自治体の仕事は「終わらない」のか? -職員を疲弊から救う「プロジェクト思考」のすすめ - ~小田理恵子・一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム 代表理事(2)~ 

 


 

地方自治体がより良い住民サービスを提供するためには、行政組織と職員が健全かつ持続可能な状態を維持することが不可欠です。

本連載では、ウェルビーイングの自治体経営をテーマに、職員一人ひとりが効率的に業務を進め、成果を実感しながら充実した働き方を実現する手法を紹介していきます。

今回は、職員を終わりのない消耗から救い出すための「プロジェクトマネジメント」の基本について解説します。

 

はじめに──「忙しさの正体」を解き明かす

多くの自治体現場で、「いくら効率化しても新しい仕事が増える」「前例のない課題に振り回され、職員が疲弊している」という声が漏れています。人口減少、高齢化に伴う税収の縮小、複雑化する福祉ニーズ。これらは将来の懸念ではなく現実です。行政サービスの質を維持すること自体が難しくなる一方、地域経済の縮小や人材流出といった課題は年々深刻化しています。

こうした中、自治体の仕事の進め方は驚くほど変わっていません。前例を踏まえ、制度や計画に基づいて着実に業務を遂行する──それ自体は重要です。しかし人口減少という構造的変化の下、従来の「やり方」だけでは地域の将来を切り拓けなくなっています。

多くの職員を悩ませている「終わりのない業務」。一生懸命取り組んでいるのに達成感がなく次々と調整事項だけが増えていく。その「忙しさの正体」は、個人のスキル不足ではなく、仕事の性質を混同している組織構造にあります。今必要とされているのは、「何をやるか」だけでなく、「どのような仕事のやり方で価値を生み出すのか」という根本的な問い直しです。

 

自治体の仕事には「業務」と「プロジェクト」がある

私たちが日々向き合う「仕事」は、大きく二つの性質に分けられます。それが「業務」と「プロジェクト」です。ここを混同することが、すべての悲劇の始まりです。

 

1.「業務」:安定と継続の論理

業務とは、事業の継続を前提とした仕事です。人事、財政、税務、福祉、窓口対応など、住民生活を支える行政サービスは、安定的かつ公平に提供されなければなりません。年度を越えて繰り返され、止まらずに回り続けること自体が価値となります。前例やルール、標準化が重要であり、「きのうと同じことがきょうも正しく行われること」が信頼の源泉です。

 

2.「プロジェクト」:変化と創造の論理

プロジェクトとは、一定期間内に特定の成果を出すことを目的とした仕事です。産業振興施策の立ち上げ、観光コンテンツの開発、官民連携事業、計画策定、DXや実証事業などが該当します。最大の特徴は、期限があり、不確実性が高く、試行錯誤を前提とする点です。プロジェクトの価値は、現状を「維持する」ことではなく「変える」ことにあります。

重要なのは、業務とプロジェクトに優劣がないという点です。業務は自治体の土台であり、プロジェクトは未来をつくる手段です。両者は役割が異なり、どちらが欠けても自治体は機能しません。

しかし、ここが最大の落とし穴です。同じ「自治体の仕事」でも、求められる姿勢、進め方、評価基準はまったく異なります。にもかかわらず、多くの自治体では両者が明確に区別されず、すべてを「業務の論理」で扱っているのが実情です。(表1)業務とプロジェクトの違い

業務とプロジェクトの違い

 

人口減少時代に増えるのは「業務」ではなく「プロジェクト」

なぜ今、この区別が重要なのか。人口減少社会で自治体が直面する課題の性質が、根本的に変わってきているからです。人口が減れば内需は確実に減少します。地域内の循環だけでは経済規模を維持できません。そのため、外部から人・資金・知恵を呼び込む取り組みが不可欠です。観光誘客、企業誘致、起業支援、移住施策

──これらはすべて、地域の外とつながり、新たな価値を生み出す取り組みです。

 

これらには共通点があります。

  • 前例がない。他の自治体のまねが通用しない
  • 地域固有の条件に依存する上、やってみなければ正解が分からない
  • 段階的に形を変えながら進める必要がある

 

これらはまさにプロジェクトの特徴そのものです。つまり、人口減少社会で自治体が直面する課題のほとんどが「プロジェクト型」なのです。しかし現実には、これら不確実性の高い施策も事務分掌に組み込まれ、ミスなく前例に則って進めることを強要されています。

人口減少という構造的変化が続く限り、プロジェクト型の仕事は当面増え続けます。組織としてプロジェクトをどう扱うかが、自治体の存続を左右します。

 

プロジェクトを「業務の論理」で回すと何が起きるか

不確実なプロジェクトを業務の延長として扱うと、職員を追い詰める「三つの深刻な病」が生じます。

 

第一の病:施策が終わらなくなる

業務は継続することに価値があるため、その論理でプロジェクトを始めると期限が曖昧なままスタートします。成果指標も不明確なため、効果が分からないまま継続されます。撤退や見直しの判断基準がないため、取りあえず続けている施策が積み重なり、職員の工数を奪い続けます。

 

第二の病:管理職が調整地獄に陥る

目的・範囲・権限の明確化がないまま走りだすと、関係者間の合意形成が常に「後追い」になります。判断基準が共有されていないため、あらゆる調整を課長などの管理職が引き受けることになります。本来は人材育成や中長期の構想に使うべき時間すらも「終わりのない調整」に充てられ、精神を消耗させています。

 

第三の病:失敗が組織の学習にならない

業務の論理では「失敗=悪」です。そのため、プロジェクトでの試行錯誤や失敗を隠そうとする力が働きます。振り返りが行われず、経験が共有されないため、担当者が代わればまた同じ失敗が繰り返されます。組織全体として、プロジェクトに対する苦手意識とやっても報われないという虚無感だけが蓄積されます。

 

このような状態が続くと、組織には悪循環が生まれます。

新しいことに挑戦した職員ほど調整の壁に阻まれて疲弊し、異動を希望するか言われたことだけをやるというスタンスに変わります。

新しい施策への挑戦そのものが組織的に避けられ、地域課題が深刻化しているにもかかわらず去年と同じことを繰り返すのが正解となります。住民や議会から何をやっているのか分からないと批判されても明確な回答を持てず、現場がさらに守勢に入ります。

結果として、地域課題は放置され、人口減少と税収減のスパイラルが止まらなくなる。これが業務の論理でプロジェクトを回し続けた先の末路です。

 

(第2回に続く)

※本記事の出典:時事通信社「地方行政」2026年3月9日号

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