株式会社Public dots & Company代表取締役
伊藤大貴
2020/7/17 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(1)
2020/7/20 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(2)
2020/7/22 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(3)
2020/7/24 SDGsに見る、官民連携から官民共創へのシフト(4)
日本の20年先をゆく欧州の行政機関
私自身もかつて、議員時代にフューチャーセンターの先進国であるデンマークに視察に行ったことがあります。その時に訪れたのがMind Labです。Mind Labはデンマークの児童教育省と雇用省、経済成長省の3省によって運営されているフューチャーセンターで、各省が等しく予算を配置し、そこには民間のコンサルティングファームから優秀な人材をヘッドハントしていました。社会課題の提供は行政が行い、それに対して知見を有する、あるいは具体的なソリューション(解決策)を提供できる企業が対話に参加し、Mind Labのコンサルファーム経験者が場をファシリテート(促進)する。その結果、社会課題を解決するためのビジネスのスキーム(枠組み)が生み出されていく、というものでした。まさに官と民がお互いの強みを共有しながら、サービスをつくり出す、共創の姿がそこにはありました。
官民共創とは、官民連携にデザイン思考を取り入れたもの、と言い換えてもいいかもしれません。「行政サービスの質を劇的に変えるCXとカスタマージャーニー」(2020年3月24日掲載)でも触れた、公共サービスを設計する際に、①どんな市民がサービスの受益者なのか②どんなサービスを欲しているのか③そのサービスをどうやってターゲットの市民に届ければ、彼らの関心に引っ掛かるのか──など、徹底した顧客視点(市民視点)に立ってサービスを設計する時代に差し掛かっていることを解説しました。つまり、アウトカム思考で官民共創を考えていかなければならないということです。
ここが官民連携と官民共創の本質的な違いです。官民共創は徹底した顧客志向をベースにした、事業性と公共性のバランスを保った公共サービスを指します。そのためには行政と企業が、誰の、どんな困り事を解決するのか、その社会課題と事業の先に生まれる未来を共有し、両者がそれぞれの強みを発揮しながら公共サービスを設計するのが官民共創です。そこには行政が上で、企業が下、あるいは企業が上で行政が下という関係性はありません。あるのはただ、共有したアウトカムの実現に向けて行政と企業が共に汗を流す、コクリエーション、共創の姿です。
従来の官民連携はやはり、どこまでいっても行政が発注側、企業が受注側という関係性が強く、共創の要素はあまり存在しませんでした。これまでの官民連携では、公募の際に既に行政の方で、実装してほしい公共サービスを定義した上で実施するのが通常でした。そのため企業からすると、公募要綱が発表された段階で仕様がほぼ決まって提案の自由度がそれほど高くないのが実態です。ここ10年でいえば、サウンディング型市場調査の導入によって自治体と企業が事前にアイデアを交わしながら、公募要項を自治体がつくり上げるという流れもありますが、この仕組みはあくまでも自治体と企業が1対1で向き合っています。欧州の場合は、複数の企業が同時に自治体と向き合う仕組みになっており、その機会が等しく与えられていることから、公共サービスの設計に関わる公平性を担保しているのが特長でした。
(第4回につづく)
プロフィール
伊藤大貴(いとう・ひろたか)
株式会社Public dots & Company代表取締役
元横浜市議会議員(3期10年)などを経て、2019年5月から現職。財政、park-PFIをはじめとした公共アセットの有効活用、創造都市戦略などに精通するほか、北欧を中心に企業と行政、市民の対話の場のデザインにも取り組んできた。著書に「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」(2019年、日経BP社)など多数。博報堂新規事業(スマートシティ)開発フェロー、フェリス女学院大非常勤講師なども務める。