緻密すぎるコミュニケーション戦略
白井さんは、マニフェスト大賞においても、優秀ネット選挙・コミュニケーション戦略賞を受賞(2013年、2015年)されていらっしゃいますが、特にどんなことを心がけて市民とコミュニケーションをとられていますか?
実は議員になる前から、大きな意味での“コミュニケーションのデザイン”に関する仕事をしてきたので、ここが僕の独自性でもあります。考え方は、「情報の質と量」「デザイン管理」「コミュニケーション設計」と大きく3つです。順番にご説明していきますね。
<1、情報の質と量>
まず「質」について。話は、僕がまだ一般市民だった頃にさかのぼります。政治や行政に興味がなかった時には、駅前に議員が立っていることに気づきませんでした。その後少しずつ興味を持ち始めて、初めて議員が見えた=視界に入ったんです。そこで、駅でチラシを何枚か受け取ってみたのですが、どれもその議員の主張だけがクローズアップされているために、小金井市で何が起きているか、客観的事実や概要がまったくつかめませんでした。基本的な情報や事実の把握ができないと、その議員の主張を評価できないと感じたんです。そういう状況を見て、僕なりに考えたのは、「市政報告チラシは、自分の主張を抑え、まず今何が起こっているか、客観的事実を掲載する」という方法でした。これが情報の「質」にあたる部分の考え方です。
ただ、「質」だけにこだわっていると、興味のある人しかチラシを見てくれないですよね。だから「量」も大切です。通勤の動線上をしっかり押さえて、チラシを配布する。しかし、印刷物は数に限界があるので、インターネットをできるだけ駆使して、情報量を増やす。その顕著な例がブログです。365日更新を、2年間続けています。その前も年間300日くらい更新していましたから、この4年間ほぼ毎日更新していると言っても過言ではないですね。ブログの内容は、あんまりプライベートのことはあまり書かずに、市政で起こっていること、気づいたことを中心に伝えています。
こうやって「質」と「量」をしっかりと担保することによって、一人でも多くの人に、小金井市の現状把握をしてもらうことを「僕の役割」として考え、情報発信を続けています。
市政報告会もオンラインで頻繁に開催されていますよね。
そうですね。市政報告会・議会報告会は、議会が始まる前と終わった後に必ず開催しています。始まる前に議案や審査内容について話しておくと、そこでもらった意見を議会にすぐ反映できます。そして終わって速やかに報告すると、“PDCA”が回せるんです。もちろん初めて参加される方もいるのですが、環境・建築・子ども関係など、各分野に詳しい市民が参加してくださるので、それぞれの分野の実情を踏まえた、しっかりした意見がもらえます。
小金井市役所でいうと、約1000人の職員の仕事量が、市議会議員の仕事の領域です。一人でその領域をカバーするのは当然無理です。だからこそ、市政報告会は、専門性のある市民の方からピンポイントで知見や意見がいただける機会となっていて、本当に有難い。しかも、僕のチラシやブログなどの情報をキャッチしていただいた上で参加される方が多く、頂けるご意見は、小金井市の現状を踏まえた、的を射たものばかり。僕一人じゃできないことに対して、いろんな知見をいただいて、武器やツールを増やしていただいています。これを4年間続けてきたことで、市民の皆さんから貴重な声を頂いた分、市民の暮らしに少しずつ還元できているのではないかと思っています。
本当はこのような好循環を、一議員ではなく、議会や行政がつくりだせたら理想的だと思います。市役所こそいろんな情報を持っていて、適切に市民に情報を伝えることによって、市民から適切な意見(パブリックコメント)をもらうという流れをつくれるはずだと思っています。
なるほど、PDCAの話になるとは思ってもみませんでした。白井さんのチラシは、色使いや写真選びなど、デザインにもかなり力を入れられていますよね?
はい。デザインには一番力を入れている、時間をかけていると言ってもいいかもしれません。1期目の時からかなりこだわっていますね。
<2、デザイン管理>
できるだけチラシの表紙に、「僕の顔写真を入れない」ことにしています(選挙前は別ですけど)。なぜなら、政治家のチラシと分かってしまうと、見た瞬間「ポイ」ってなる(笑)せっかく良いことを伝えようとしても、捨てられると意味がないんです。読んでほしい対象としてイメージしているのは、自分の年代前後の30~50代。高齢の方は、そもそも多くの議員のチラシをちゃんと読んでくださっている。だからこそ、政策チラシを読んでいない世代に向けて、デザインにこだわって作ってきました。
こちらのチラシの表紙は、娘の図工の作品を掲載してみました。自分の顔写真は、裏に小さく。こうすると僕の好き嫌い関係なく、若い世代の人にも見てもらえます。表紙の写真選びにはいつもすごく時間をかけていて、子どもが遊んでいる写真や、街で見つけたかわいい形の看板など、市民と親和性が高いイメージの写真を選び、特に子育て世代の方々に見てもらいやすいように工夫しています。
また、「こがおも」という政治団体のブランディングも意識しています。トレードマークや、青と黄色をメインカラーにすることなど、デザインクオリティを均一に保つことにもこだわっています。
デザインへの反響はどうでしたか?
嬉しいことに、「普段は(議員の)チラシは読まないけど、これは読んだよ」という人が多かったです。若者向けのデザインでしたが、結果的には高齢の方にも読んでいただいていて、ポスティングに行くと、軒先で「いつも読んでいるよ」と高齢の方に声を掛けられることが多いです。
デザインによって状況は変えられると思っています。これまでチラシを受け取らなかった人が受け取ったり、読まなかった人が読んだりすることは、デザインの力でできる。コロナ禍で一人ひとりとの接点が持ちにくい状況の中、ますますチラシという接点が重要になっていると思います。