評価されるべき議員経験者のスキルや能力

たぞえ 民間に戻られて、政治や行政を外からご覧になられたわけですけれど、議員の役割ってなんだと思いますか?私は2期目、本目さんは3期目で、区の声を都へ、さらに国へ上げるなど行っていますが、議員としてできること、スピードに限界があるのではないか感じ、このまま続けていていいんだろうかと思うことがあります。

本田さん なるほど。私も議員時代に感じていたことなので、痛いほどよくわかります。

議員時代、「私が1人で声を上げても、県庁は何も変わらないじゃないか」という思いがありました。ただ、民間に戻ってみると、ビジネスにおいても、正しいことや一番適当な答えが勝つわけではなく、そうじゃないことが突然利益をもたらすことがあります。そういう意味では、民主主義って絶妙なバランスで保たれていて、一見正しいと思われる1人の意見が突き進んでいかないというのは、社会の知恵なんだなと思ったんです。議員時代には「なんで私の素晴らしい意見が県の政策にならないんだ!」と怒っていましたけど、30代の若者1人の意見がそのまま通らなくて良かったんですよ(笑)もちろん意見をどんどん出していくことは大事なのですが、たとえ意見が通らなかったとしても、無力感を感じず、諦めないでほしいです。

ただ、日本は女性議員がまだまだ少ないという実態があるので、お二人には、女性だからこそ言える意見をぜひ大事にしていただきたいですね。私が議会・政治活動から身を引いて民間に戻るのと、たぞえさん・本目さんが民間に戻るのでは、社会的損失の割合が全然違うと思います。私は女性議員が今より増えてほしい、今の女性議員の方々には続けてほしいと心の底から思います。

たぞえ 女性議員を増やすためにも、長い目で見たキャリアにおいて、議員と民間人をどのように行き来するかも考えていきたいです。議会から民間へ戻られたご経験から、議員のうちに何に力を入れておくと、その後のキャリアに活かすことができると思いますか?

本田さん 議員の時にやっておくべきこととして、第1回インタビューの河野さんは「人脈づくり」を挙げられていましたが、本当にその通りだと思います。「族議員」という、よく否定的に捉えられてしまう言葉がありますが、私は議員活動のあり方として、族議員は悪くないと思っています。ある意味、たぞえさんも本目さんも“子育て族議員”ですよね。子育ての現場の課題や改善策について、誠意をもって答えられる議員さんたちです。自分が取り組みたい政策について、1人で法律・省令・現場の課題・海外政策などを勉強していたら、もう地元活動、政党活動、新しい政策の勉強もできなくなりますよね。それなら、自分の周りで仲間をつくって、どんどん政策づくりに巻き込んでいけばいい。そういう族議員のような人脈づくりは、議員だとできて、民間では難しいことです。それは議員の時に力を入れてやっておくといいのではないかなと思います。

たぞえ なるほど。“子育て族議員”という発想はなかったです!

本田さんの明るいトークに、インタビューでは笑顔が溢れました

本田さんの明るいトークに、インタビューでは笑顔が溢れました

 

本田さん 議員のうちにやるべきことをもう一つ挙げるとすれば、政策の勉強ですね。議員時代に学んだことは、民間企業でも絶対に活きます。例えば、行政の予算・決算について詳しく勉強しておけば、民間企業の財務諸表を見ても、なんとなく分かるはずです。その他にも、議員のスキルや能力が民間で役立つ事例は多々ありますので、いくつか挙げてみますね。

  • 初対面の人、多様な人とコミュニケーションが図れる「対話力」「コミュニケーション能力」
  • 数百人の前でも話すことができる「プレゼンスキル」
  • 戸別訪問ができる「営業力」
  • 行政や予算に対して質問原稿を執筆する「研究・リサーチスキル」
  • 選挙というセルフプロデュースができる「企画力」「広報・マーケティングスキル」

議員のセカンドキャリアを考えた時に、議員経験者にはこんなにたくさんのスキルや能力が身についているということを、議員本人にも、民間企業にも気づいてほしいと思います。これは社会にとって貴重なチカラであり、民間企業にとってまさに即戦力。私が経営者だったら、議員経験者は全員採用ですね(笑)

そうは言いつつも、私はWOMANSHIFTの皆さんや今の女性議員さんたちには、ずっと議員でいてもらいたいと思っているので、矛盾しているのですが、セカンドキャリアのことはあまり考えてほしくないです(笑)

本目 本田さんが経営者だったら、どれくらいの期間、議員経験があれば採用したいと思いますか?

本田さん もちろん個別に評価するしかないですが、たとえ当選できなかったとしても、自己プロデュースして選挙に出た経験があるというだけで、私なら高い評価をつけます。当選した方なら、なおさらです。そもそも選挙に出ようと考える時点ですごい人材じゃないですか。だって「社会を変えよう!」と突然思い立って選挙に出馬するんですよ(笑)。まさに逸材です。

たぞえ そんなにすごいんですね、私たち(笑)。議員がもっている知見やスキルにちゃんと価値があることを、日本企業の方々にも分かってほしいです。

議員OB・OGを活用できないのは、日本の社会的損失

本田さん まだまだ日本の企業って、政治に対するアレルギーといいますか、触れてはいけないものみたいに思われている部分はありますよね。日本企業の採用では、「営業〇年」「経理〇年」など、企業での経験を重視するため、議員経験が「無職」の期間と捉えられてしまい、採用につながらない場合もあると聞きます。

しかし、海外や外資系企業では議員のキャリアを正当に評価してくれます。「元議員なら、企画もプレゼンもできるでしょ、広報お手ものでしょ、行政の考え方よく分かっているでしょ」と。海外では“リボルビングドア”という考え方があって、議員を辞めた後、公務員に戻る人もいれば、民間で活躍する人もいます。官民を行ったり来たりできる土壌があるんです。

私が現在所属している企業は、本社がカナダにある再生可能エネルギーの会社ですが、会長がもともと政党で働いていて、政界にも挑戦したことのある方です。海外では、議員経験を活かして、環境や外交の仕事をしている人がたくさんいます。議員OB・OGを日本の企業がうまく活用できないのは、国際競争をしていく中で大きな社会的損失ですね。日本の企業は、考え方を変えていくべきだと思います。

たぞえ 若手議員の中には、「議員だけやっていると、スキルが落ちてしまう」という不安を抱えている人もいます。そこで、本目さんと私が今挑戦しているのは「パラレル」です。議員でありながら、民間企業の名刺を持って、官民連携事業に携わっています。あえて二足のわらじを履くことで、議員の知見を民間に活かし、民間で得たスキルを議員の仕事に活かすことが可能です。この働き方がうまく定着できたらいいなと思っています。

本田さん 私は議員だった10年間で大きく成長させてもらえましたし、民間→議員→民間というキャリアで、両方の経験ができたことはラッキーだったと感じています。チャンスってみんなに来ると思うので、チャンスの時にゴールを決められるかは、不断の努力によるのだと思います。

私は政治という名のマラソンから途中でリタイアしてしまったので、今一生懸命に走っている仲間を応援したいんですよね。若手議員さん、女性議員さん、誠意をもって頑張っている議員の皆さんを、民間から力強く応援したい。街頭演説している人がいれば必ず立ち止まって聴くし、駅前でチラシを配っていれば必ず受け取って隅から隅まで読むし、知り合いが選挙に出るなら全国どこでもポスター貼りやポスティングを手伝います。議員一人一人は、人生をかけて出馬していますから、私も一人一人の議員さんに真剣に向き合っています。私みたいな有権者が増えれば、変わりますよ、この社会。どんどん良くなっていくはずです。

 

【インタビュー後記】

本目 私は今年度、議会で監査担当になりました。監査業務で時間が拘束されるし、コロナで地元活動もできないし、「これじゃあ何もできてない!」と、とても焦っていたんです。本田さんのお話をお聴きして、監査は数字を見る仕事なので、民間にも通用するスキルが得られるということが分かり、自信やモチベーションにつながりました。

たぞえ 本田さんの熱いメッセージがWEBを通じて届いているといいなと思います。議員のセカンドキャリアというテーマでインタビューを依頼させていただきましたが、しっかり続けることのエールをいただきました。コロナ禍で心折れることがあったり、議員というキャリアに悩んだりすることもありますが、議員での経験が活きることを伺えて、自信が出ました。ありがとうございました。

(文・PublicLAB編集部/人材事業部 冨山美欧)


 

【プロフィール】

本田朋(ほんだ・とも)
元福島県議会議員
現Northland Power社ガバメントアフェアーズ・シニアマネージャー

福島県出身。米国サフォーク大学卒、英国ウェストミンスター大学大学院国際関係学修士課程修了。フランスやドイツにて海外営業職として勤務後、帰国し2005年〜2015年福島県議会議員。四選不出馬引退し、PR会社や外資系コンサルを経て、現在ドイツ・ハンブルグやオランダ北海沖で大規模洋上風力発電プロジェクトを手がけるNorthland Power社にて国際エネルギー政策を担当。

 

本目さよ(ほんめ・さよ)

台東区議会議員/WOMANSHIFT代表

横浜市・八王子市育ち。大学・大学院で心理学を専攻。(株)エヌ・ティ・ティ・データ・イントラマートに入社し、人事部で働きやすい職場にするための各種制度を策定。「性別に関わらずやりたいことができる社会をつくる」ため、2011年に台東区議会議員選挙に立候補し初当選。現在3期目。気軽に政治に関われる「ママインターン」を展開中。

 

田添麻友(たぞえ・まゆ)

目黒区議会議員

東京都目黒区生まれ。大学卒業後、専門商社に2年勤務し、ベンチャー系経営コンサルティング会社に転職。3児の母となり、待機児童問題に直面。高校生のときから環境問題等を解決したいという想いもあり、2015年に地元・目黒区から無所属で立候補し初当選。現在2期目。

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